2017年6月

 

2017/6/26 <下半身の勁をつなぐ準備 関節は回す、折らない>

 

 この一週間は下半身の勁をつなぐことを主にクラスで教えていた。

 勁をつなぐ、と言っても、まずは表面的な”筋”がつながる感覚から始める。

 筋(スジ:筋肉の両端)がつながれば、それから経絡、そして”勁”へと感覚を深化させていく

 

 といっても私の師父は、太極拳では筋肉の話はしない、と経絡上のツボで感覚を取るように教えてくれた。ツボの点がつながれば経絡の線になる。勁は経絡よりもっと内側の、エネルギー(気)が流れる感覚で、これは筒状のよう(?)。勁を感じるには、身体の表面のスジを伸ばしたり経絡を開きながら、内側に隙間(空間)を空ける必要がある。

 

 下半身は4階構造。

 1階 足先から足首 (所謂 足)

 2階 足首から膝

 3階 膝から股関節

 4階 股関節から腰(中国語でいう腰:肋骨と骨盤の間)

 

 問題はどこか足首で、どこが膝か、そして股関節?、腰、とすべて曖昧なこと。

 ぼんやりと足首とか膝、股関節、腰を感じていてはこのパーツをつなぐことはできない。

 ピンポイントで正確に意識を向けるためにはツボを使うのが最適で、古来から太極拳の練習はツボの意識の土台の元に成り立っている。

 

 太極拳の練習で主に使われるツボの数はそれほど多くないので、練習しながら徐々に身体で覚えていくようにする。鍼灸師が外からツボを見つけるのとは反対で、身体の内側から自分のツボが分かるようになる。すると意識的に経絡をつなぎ、エネルギーを流すことも可能になる。

 

 足首⇔膝⇔股関節⇔腰

 陽経、陰経でつなげるための主要な経路は以下のようなもの。

 陽:崑崙⇔委陽⇔環跳⇔志室

 陰:太溪⇔陰谷⇔横骨⇔膏兪(臍)

 

 そしてこれらをつなげるためのコツは関節をすべて水平に回転させること。

 関節を折ってはいけない(関節が痛むし、折ると勁がそこで途切れてしまう)。

 勁を下から上に上げる時は『拧踝旋膝』(踵をねじり込んで膝が回る)

 勁を上から下に下げる時は 『拧腰旋膝』(腰をねじり込んで膝が回る)

 下半身の力は踵(足裏と足首の連結点!)もしくは腰から、ねじり込んで発生させる。

 膝は回してはいけない、回るだけ。(膝を折るのは論外)。

 

 タントウ功はこの動きを一時停止しているようなものなので、要領は同じ。

 丹田に気を溜めるなら『拧踝旋膝』、丹田から足に気を降ろすなら『拧腰旋膝』。

 しつこいですが、膝を折ってはいけません!(膝は回る・・・)

 

 股関節の意識については、これまた奥が深すぎなので別の機会に。(ほとんどの日本人は股関節の意識なく歩いているよう。股関節を活用せず膝で歩いているみたい。)

 

 そして太極拳の核心、クライマックスは、3階の股関節と4階の腰をつなげることにあります。

 腰胯、 腰胯、 腰胯・・・・(これまた、しつこく言われます)。

 

 

 

 

2017/6/17 <居つかないタントウ功>

 

 武術、武道では”居つく”のをとても嫌う。

 居つく、と、とっさに動けなくなる。それは武術に限らずスポーツ全般に言えることで、とっさに動けるよう、いつも身体を動かし続けている。武術で言えば、完全に静止してしまったら、そこで敵にやられてしまう。

 

 太極拳のすべての流派がタントウ功をするわけではなく、逆にタントウ功はしないもの、と言う先生もいる。その理由は、居ついてしまう、からだという。

 そして実は私も経験上、ほとんどの場合、タントウ功が”居つく”ことになってしまうということをよく承知している。

 どこかでタントウ功を教わってきた生徒さんはこれまで例外なく、”居つく”タントウ功をしていた。やればやるほど、間違えた方向に進んでしまい、身体は固くなり脚は太く重くなる。下手をすれば膝を傷め腰も痛める。適当に練習していた人はまだマシで、ある生徒さんが言っていたように、単なる我慢比べでした、ということになる。

 

 タントウ功は出発点が大事。

 出発点で道は二本、左右に分岐している。間違った方を選べば、ますます目的地から離れて最後は道に迷ってしまう。

 

 今日の練習では簡単な外形の違いでそのことを説明した。

 簡単にチェックできるのは、土踏まずが上がっているか、膝の後ろ(委陽、委中、陰谷のツボ)で立っているか?膝小僧に乗っかっていたら完全に間違えている。自分がどっちを使っているか良く分からない今日の生徒さんには、その二種類の形を取らせて、膝小僧か膝裏か、その違いを十分に自分の身体で納得し覚えてもらうようにした。

 膝の裏側を使うということはハムストリングスを使うということ。太ももの前の筋肉は収縮するのではなく、伸長するようになる。こうすれば会陰は自然に引き上がる。

 居つかないためには会陰が上がっていなければならない。

 

 ゆる体操の高岡英夫氏はその著書の中で、『拘束丹田』というただ腹圧をかけただけの間違えた丹田の作り方を指摘しているが、それも居つくことになるという理由から説明できる。

 ただ息を吐き込んで腹圧をかける丹田はともして会陰まで下がりがち。

 ここを上げていられるかがポイント。

 

 そしてタントウ功は外形上静止しているように見えるが、内側は動いている。

 実は、内側を動かすために(五臓を活性化する、丹田を形成)外側を止めるもの。

 外側を止めたために内側までも止まってしまっては石も同然。居つくどころか死んでしまっている。

 あるいは、外の動きを微分して限りなくゼロにしたところがタントウ功、という言い方もできるかもしれない。

 いずれにしろ、タントウ功では内側が活性化され、丹田が高速回転し(あまりにも高速のため静止して見えるかのよう)、いつでも瞬時に動き出すことができる、というのが本当のところ。

 

 最近ブルースリーの動画を見て、その動きの特徴の一つに『non telegraphic』というものがあるのを知った。何だろうと意味を調べたら、打撃の前に何ら予兆を示す動きがないこと、ということのよう。突然パンチや蹴りが出てくるから相手が躱す暇がない。が、この動きはまさに太極拳の特徴。丹田が内側で高速回転しているから、パンチや蹴りの前に準備の動作をする必要がなく、丹田の回転を使って突然打ったり蹴ったりすることができる。

 彼の得意な『one inch punch』=寸勁、というのも同じ原理。相手に接触している状態からでもただ丹田の回転を使って外側を動かすことなく力を発揮することができる。

 

 タントウ功が正しい方向にいけばブルースリーに近づくことさえできるかもしれないが、間違えた方向に進めば却ってしなければよかった、という結果にもなりかねない。

 これには呼吸の要領、丹田呼吸も大事になってくるが、・・・このあたりはまた別の機会に。

2017/6/10 <小便小僧から、気功法的排尿方法>

 

 グループLINEでノリでアップされた小便小僧の写真から、改めて太極拳的(気功法的)観点から見た排尿の仕方について再度説明することになった。

 

 男子は立って排尿する。

 当たり前だと思っていたが、最近の男子の中には坐って用を足す人が増えているという。

 なぜ坐ってやってはいけないのか?

 それは坐ると命門が開く(腰が開いたようになる)ため、排尿をしている最中、命門から”元気”(生まれた時に携えている先天的な気)が外に漏れてしまうからだ。

 少しシュミレーションしてみると分かると思うが、坐って腰を丸くして排尿すると腰から空気が漏れていくような感覚がある。これは紛れもなく気が漏れている証拠。

 

 元気、先天の気は腎に宿る。腎は精気の集まる場所。人のバイタリティ(生命力)を決めるのはこの腎、腰の力。

 所謂腹側の丹田(前丹田)は後天の気の生成場所(食べ物と酸素が一緒になり消化されてエネルギーとなる)。加齢とともに衰えていく先天の気を後天の気で補充する。

 そして気功法で最終的に目標とするのは先天の気の開発。

 後天の気で単に先天の気を補充するだけでなく、それを刺激して無尽蔵の貯蔵庫とつなげようとする・・・(ここまでいくとどこか神秘的な世界に入り込んでしまうので、通常の練習ではそこまでは狙いません。本格的に修行をする人向け)

 

 

 

 太極拳は腰が命。言い換えれば、腎が要。

 その立場からの正しい排尿の仕方は以下の通り。

 

 立ち、踵を上げる(つま先立ちになる)。

 命門を閉じる(腰を反らし気味にする)。(つま先立ちになると命門が閉じやすい。)

奥歯を軽く噛み合わせ、舌で上顎を持ち上げるようにする。(歯→骨→腎という繋がり)

 

 命門を閉じ、歯を噛み合わせることで、『固精、保精、护精』が実現される。

 精が枯渇すれば気も減り、生命力は失われる。自然治癒力やら免疫力やらなんやかんやがすべて衰えることになる。

 

 ここの二枚の小便小僧の写真。

 どちらも命門を閉じていて、師父に言わせれば、OKとのこと。

 ただ、できればつま先立ちになるのが好ましいとか。

 

 普段のタントウ功のように命門を開いてやるのはご法度。含胸、抜背、塌腰のタントウ功とはちょうど逆の立ち方になる(挺胸、胸を反らしたようになる。)

 師父の話によれば、老人になると”元気”がなくなり前かがみになって排尿をするようになり、小便小僧のようにはできなくなるとか(私は見たことがないので分かりませんが)。そんな情けない姿にならないように日頃気を付けなければならないよう。

 

 女性も立ってするのが当然、と師父に言われている。

 原理は同じ。女性の場合はコントロールがとても難しいが、これを鍛えることで膀胱の力や腹の力がつく。女性は概して腹が横何段かに分かれ任脈が分断されてしまいがちなので、任脈をピーッと下向きに通すためにも立ち小便は効果的な練功法。

 それにしても日本男子がそのうち皆、坐式排尿派になってしまったら・・・去勢された男性ばかり?なんて想像するのは行き過ぎ?・・・なんだか悲しいような。

 

 

2017/6/6 <パリ行き 腎で動く タントウ功の二様相>

 

 先週は突然パリへ飛んだ。

 この1年ほどパリの師父とはもっぱらビデオチャットで話をしたり教えてもらっていた。

 最近、”腎”を使って動く(腎で吸って動く)という話を師父から聞き、”腎”の呼吸、がタントウ功での立ち方を大きく二種類に分けることを発見。腎と命門、陰と陽、水と火、この”相済”で気が発生する、ということも生徒さん達と試しながらおぼろげに理解できてきた。

 

 腎で吸って立てば、丹田が更に明確になる。

 両腎と丹田は三角形で結ばれる。

 

 が、これはまず、命門を開く立ち方をマスターしてからの二段階目の立ち方。

 

 これはスプリンターのクラウチングスタートの”位置について”と、”よーい”の関係と同じ。

 前者は命門を開く第一段階目の立ち方、そして”よーい”で腎で吸いエネルギーを丹田に集める。

 そして”ドン”の時は丹田に集まったエネルギーを足裏に吐き込む。

 

 と、このあたりの話はとても面白くて、少し前の生徒さん達とのグループLINEでスプリンターの写真を使って命門→腎という立ち方の移行について簡単に説明、その後、練習の際にも試してもらった。

 

 タントウ功で丹田に気を溜めるステップは二段階、というはっきりした認識したら、スポーツであれ日常動作であれ、人間がエネルギーを使って力を出す方法は皆同じ・・・目から鱗。嬉しくて、勝手に、『タントウ功の二つの様相からみる人間の動作』やら『タントウ功 丹田エネルギーを開発する2ステップ』なんていう論文が書けてしまうのではないか?と頭でシュミレーションして遊んでしまったほど。

 

 腰は太極拳の要。

 が、腰と言っても範囲は広い。

 古人は腰際とか腰隙、腰間とかいう言葉を使って、腰の中でも更に具体的に留意する場所を指し示してきた。これらはひっくるめて”腎”と形容されることもある。(本当の腎臓という意味ではない)

 重心移動も腰で行う。が、それは具体的に言えば、左腎と右腎だろう。

 

 と、このあたりの理解、それも身体での理解が正しいのかどうかを今回師父にチェックしてもらおうと、急遽パリに飛んだ次第。

 久しぶりに細かい箇所まで直してもらい、また、新たなことを学んでとても有意義な5日間。

 早速生徒さん達にフィードバックしよう・・・。

 

 

 

<参考>

下がLINEで説明した時に使った写真。

 

一段目3枚の写真は、お馴染み、➀位置について、②よーい、③ドン!

➀ではお尻を中にいれ(敛臀)命門を開いた形 →タントウ功の第一段階

②ではお尻を突き出し(泛臀)、腎で吸って丹田に気を集結させる →タントウ功の第

 

➀では丹田に気を落とす。(落とすだけ)

②になって初めて丹田で気を発火(変な表現だけど)。これがないと爆発できない。

 要点は腎で吸うこと。ただお尻を上げても何もならない。腎で吸うためにはお尻は多少出し気味、腰は多少反り気味になる。

③丹田で溜まりに溜まった気を、吐いて一気に足裏に落として蹴る!

 

上の②の形の比較。

下の4人のうち、スタートを一番うまくきれるのは誰か?きっと一目瞭然。

ただお尻を上げただけではクラウンチングスタートをする意味がない。それなら立って構えた方が速いくらい。

思いっきり腕の方に重心をかけていくのも腎で吸いやすくするため・・・。

要は腰腹の力をどれだけ良く使えるかがダッシュの速さを決める。脚の筋肉だけではどうにもならない。

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

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   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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