2023/6/4 <前腕の回外での外し技>

 

  前回のメモに関連して、太極拳の基本的な外し技(反擒拿手)の大事な原理である前腕運動について動画を撮りました。面白いので身の回りの人を使って試してみては?

 

      

2023/6/3 <沈肩・墜肘から前腕の回外回内へ>

 

  太極拳の中には擒拿術が含まれている。套路の中にも、握られた手を解く技(反擒拿手)がちりばめられている。

 

  とてもシンプルでよく使われるのが手首を掴まれた時に手首を回して外す技。

  見るととても簡単そうだが、実際に生徒さんたちにやってもらうとうまくいかないことがしばしばある。

  それは何故か?

  それは、手首を回す時に、前腕の回内、回外運動がちゃんとできていないからだ。

  

  前腕の回内、回外については、5/29のブログの最後に紹介した腰の王子の動画をしっかりみてほしい。

  「変身!」と両手を回したその動きは何をさせているのか?

   それは肩関節を外旋させ、肩甲骨で背中を押さえさせている(沈肩)。

   肘は自然に墜ちた形になる。

   これで前腕は『回外』になる。(橈骨と尺骨が並行する形)

  

   そこから、肘を脇につけ、両手を「クルン♪」とひっくり返して手のひらを下に向ける。

   肘を脇につけたまま両手をクルンと回すと、『沈肩』と『墜肘』を保ったまま指先から肘までを一気に回転させることができる。これで『回内』ができる。

 

   試しに、こうやって『回内』させたあと、また手のひらを上に向けて『回外』、そしてまた手のひらを下にして『回内』、そして『回外』・・・と連続で繰り返してみる。手がパラパラと動くはずだ。指先から肘までが<手>として一体化したまま軸が回転する。これが『回内』『回外』運動だ。王子が指先から肘までを<hand>、肘から肩までを<arm>と位置付けるのはそういうことからだ。前腕は手として、もしくは、指の延長として機能するのが正しい腕の使い方だ。

 

この前載せた左のような前腕は、ちゃんとした回内運動ができていない。

手首、前腕のどこかで捩れがおこっていて、肘から「クルン」と回った回内にはなっていない。

 

「変身」の動作をせずに、両手を下ろした姿勢から手をキーボードに乗せると、ほとんどの場合、前腕、手首に捻りが入る。

なぜなら『沈肩』と『墜肘』ができていないからだ。

 

つまり、前腕以下が正しく機能するには、その前提として『沈肩』と『墜肘』が不可欠だ。

 

 「変身!」と両手を身体の前で回す時は前屈みにはならないだろう。

  わざと前屈みになって「変身!」とやってみると、その違いがはっきりする。

  私たちの前屈みの癖は全てを台無しにするんだなぁ〜、というのが最近の私の気づき。

  本を読んだり、字を書いたり、パソコンを打ったり、リュックを背負ったり・・・前屈みになる機会はとても多い。目線も下に落ちがち。目線が下に落ちれば頭も前に落ちる。前屈みはそうやって始まる。前屈みになれば、次第に肩は前肩になる。前肩になれば肘の感覚もなくなる。次第に両肩甲骨が開いて背中が盛り上がって猫背になる。肩が正しい位置にあった時は使えていた二の腕が、前肩になるとともに使えなくなる・・・

 

  今日の練習では、引き続き腕の練習をしていましたが、結局、最後は、二の腕(の柔らかいところ)を使えないと立てない位置まで背骨や頭を後ろに引いて立つ、というところに行き当たりました。

 私たちは二足歩行をしているとはいえ、四足歩行の身体の使い方がベースに残っている。四足歩行の身体の使い方をすると自然に連動がかかる。仰向けに寝る時も、腰や肩と床の間にスペースができないように寝る、というのを王子がやっていたが、実際、そのように寝ると二の腕の振袖部分にも神経が通る・・・そのまま直立した姿が目指すところ・・・後頭部は思った以上に後ろだなぁ・・・首こり、肩こり治すには肩や首を回すよりも頭の位置を見直した方が根本的な問題解決になると思うのでした。

2023/5/31<沈肩と墜肘 その2>

 

  『墜肘』ができるかどうかは太極拳の核心的な問題だ。

  『沈肩』はなんとなくやってるつもりであったとしても、もし『墜肘』ができていなければ、実は『沈肩』はできていないということになる。

 

  肘を墜とすためには、まず、肘の関節がしっかりと引っかかる必要がある。

  

  ”引っかかる”というのは、そこで勁を堰き止めようとすればそうできるということだ。関節は骨と骨の隙間でできていて、その隙間にはエネルギー(気)を溜めることもできる。丹田の気を末端に伝達するには通過する関節に隙間が必要だし、発勁をするには関節に気を溜めておく必要がある。

 

 

  関節に隙間を開ければどこでも気を蓄えることができる。

  腹の丹田はとても大きな隙間だから、最も多くの気を蓄えることができる。この丹田の気を押し出していくと関節に気を通し、蓄えることができるが、なかでも背骨にはたくさんの関節があるから気(エネルギー)がたくさん溜められる。

 

  →胸椎だけでもこんなにたくさんの関節がある(椎間関節と肋椎関節)。

 太極拳で開合がとても大事になるのは、関節の(弁?の)開合につながる身体。息を通す必要があるのは関節を通すため。

 

 

 たくさんある関節の中でも、太極拳でよく使われるのは右の図で示した点などだ。

 

 背骨上でよく使われるのは、腰の命門と肩甲骨の間にある夹脊だ。命門は拳を打つ時にエネルギーを発するし、夹脊は胸の高さでジーをする時に使われる。

 

 そして上肢では肩関節、肘関節、そして手首に気を貯めることができる。

 

 『墜肘』は、肘にエネルギーを溜めて保持している状態だ。『沈肩』は肩甲骨と肋骨の隙間(肩甲胸郭関節)にエネルギーを溜めている状態だと言えるだろう。

 

  前回のブログの最後に紹介した腰の王子の、<変身ポーズ>は、ゆるめではあるが、『沈肩』と『墜肘』を作る簡単な方法だ。変身ポーズをしてから手のひらをくるりと下に向けると肘が安定するのが感じられるはずだ。肘(の尖ったところ)をさらに下にむけるようにすると、肩が更に下がって肩甲骨と肋骨の密着度が高まってくる。それが、『墜肘』と『沈肩』の関係だ。

   『墜肘』にはある程度の『沈肩』が必要だが、ひとたび『墜肘』ができるようになるとさらに『沈肩』が強力になる。

 

  下の馮老師のジーの準備段階の動作を見ると、『沈肩』と『墜肘』が出来上がっていく過程が見てとれる。

 上の左側は準備段階。右側の状態になって発射準備完了!

 右側の状態になって初めて、『沈肩』で肩甲骨がしっかりと背中を押さえられ、、肘(=二の腕)にエネルギーが保持された(『墜肘』)のが分かる。(この段階では肘だけでなく手首も気が溜まっています・・・もちろん丹田もパンパン。命門も後方に膨らんでいるはず。股関節、膝、足首にも気が詰まっている。  

  これに対して、左側の写真ではまだ丹田の気がパンパンではなく、沈肩が未完成→まだ肘には気が達していない。膝も通ってはいるが、気を溜められてはいない。準備過程の動作です。

  体重移動とともに左から右へと動作が進むと、ここからずっとジーができます。(太極拳でジー、すなわち、推す練習をするのは、推している間中打てる、ということだからです。空手のように突きの練習はしない。推す練習は拳、捶の練習の基本になる。気を押し出して打つのが太極拳。

上のような馮老師の『沈肩』と『墜肘』を見た上で、現在よく見かける太極拳の動きを見るとそのあたりが全く抜け落ちているのが分かる。

 

肩甲骨が押さえられずにずるっと前方に滑っていくから腕が流れて肘がはっきりしない。 肩甲骨を押さえておくにも丹田や命門の力が必要だ。

 

以前使った左のような形も同様だ。

肩が浮いていて肘がない状態。

 

 左のようなスポーツ選手はやはりちゃんと『沈肩』『墜肘』を前提とした動きをしている。

 (でないと、球をコントロールできないし、遠くにも飛ばせない・・・)

 

 『沈肩』や『墜肘』は套路だけで身につけるのはなかなか難しいかも。素振りだけでは自分の力は分からない。相手がいることで自分の力がどのように使われてるのかが分かる。『知彼知己』、これまた太極拳のキーワードだ。

 

 ままごとのような推手も意味がないが、技ばかりかけあう推手も太極拳の本質を外している。套路と推手は二本立て、推手によって套路だけでは分からなかった身体の使い方、要領が分かる、そんな推手の練習が望まれます・・・


2023/5/29 <沈肩と墜肘と前腕 その1>

 

  ブログ、間が空きました。

 

  肩、肘を正しい位置に整えると勝手に全身の繋がりが出てくる

  →身体の左右差、骨盤の歪み、膝の痛みに有効!

 

  ということで、先週はその前の週から引き続き、バレエ整体の専心良治さんの動画からヒントを得た『肘』=『二の腕(肱)』を操る練習を生徒さんにしてもらった。

 

  練習の元になった動画はこちら。

 

  この動画で明かされているのが、

  太極拳の大事な要領、『墜肘』の実態・・・

  なるほど〜、だから『墜肘』は『沈肩』と連動するんだ、と目から鱗だった。

 

  少し説明を添えると

まず、注目するのが下の説明。

 

「前腕が左図のように内側に捩れた状態(手首が捩れている状態)だと、前肩になって体幹部は弱くなる・・・

手首を外に回すようにすると前肩になりにくい」

 

体幹部が強い、というのは、上肢と下肢が左の図のように体幹部を支えられている状態

 

→上肢は脇と一体化、密着している必要あり

→肩甲骨がしっかり背中を押さえていなければならない



  私たちは日常的に腕を前に出して手のひらを下向きで作業する動作が多い(例えばパソコンを打つ動作→左写真)。

  そのため、容易に前腕が内側に捩れてしまう。

  

  左のような腕は手首が捩れている。

  (前腕の回内がきちんとできていない状態→回内の仕方については後に載せる腰の王子の動画参照してください。)

 

  前腕が捩れていると前肩になり脇が外れ体幹部の力がうまく使えない。

  それを整えるのが上の動画で紹介されている下のようなエクササイズでした。

  上のような動作は子供の時にやったことがあるのだけど、今やってみると腕が痛い!という人が多いのでは?

なぜ子供の時には簡単にできたこの動作が今はやりにくいのか?

 

  ここをさらに深掘りすると、背骨の位置の調整までできるようになる、というのが私が最近のレッスンで教えていたことだ。

  太極拳の中にもこの動作の原理を使った動きがある(例えば左の『抱頭推山』要はジーの技だが、その直前に上のような両手を重ねて捻る動作を入れることで、”山が推せるくらい”強いジーができるようになる・・・)

 

  上のエクササイズで肘の上げ下げをすることで二の腕(『肱』)の動かす感覚を身につけることができる。『肘』は肘の尖ったところよりも上腕側のツボ(例えば三焦経の天井穴)を意識するのがコツ。肘は上腕にあると意識を入れる!

  そんな『肘』を操るには『沈肩』が必要になるのが分かるのがとても大事だが、それを分からせてくれるのが上のエクササイズだ。

  『沈肩』とはどんな感じなのか、そして、『沈肩』がしっかりできると脇が押さえられること、体側がしっかり整うことが実感できるはず。

 

  レッスンでは、このような、肩、脇、肘の感覚を失わないまま、少しずつ両手を動かしていく練習を生徒さんにしてもらった。腕が動いても整った肩、脇、肘を外さないようにするには、腕の動きに応じて丹田の位置を変えていかなければならないことも分かった生徒さんも多かったと思う。太極拳で、常に丹田から動く、と言うのはまさにそういうことだ。

 

  このようなレッスンをすると、巷では、『沈肩』や『墜肘』ができていない太極拳がとても多いのに気づくのですが、それについては『墜肘』についてさらに説明した後でまた書きます。

 

  参考として腰の王子の動画を貼っておきます。これは前腕の要領についての動画ですが、その前提として『沈肩』『墜肘』をつくる方法にもなっています。とても重要。

2023/5/22 <『沈肩』も奥深い>

 

  先週注目していたのは『沈肩』。

  

  沈肩の程度もさまざまだが、第一歩は肩が上がらないようにすること。

  息を吸って肩を上げて、それから吐くと同時に肩をストンと下ろす。

  このように肩を下ろした状態が『沈肩』の第一歩。知らないうちに肩に力が入って上がってしまわないように気をつける。

 

  肩が上がっていない状態が維持できるようになったら、次は脇(肩甲骨の三角形の下縁)から腕を動かすようにしていく。脇は肩の下縁。ここを使えるようになると肩はさらに下がる。前鋸筋が使えるようになっていくと肩甲骨の可動域も増える。

 

  肩甲骨が意識できるようになってきたら、肩甲骨をぐっと下に下げて腕を使うように練習する。肩甲骨を仙骨で引っ張るようになれば肩は安定する。肩を丹田で引っ張っておく、と言ってもいいが、最初は広背筋のつながりから肩甲骨と仙骨をつなげた方がわかりやすいかもしれない。ここまでできると『沈肩』という感じになる。

 

 肩甲骨と仙骨をつなぐ、あるいは、もっと内側で肩と丹田をつなぐ、というところまでいって『沈肩』になるとすれば、『沈肩』のためには、『含胸』『抜背』『塌腰』『敛臀 』全てが必要になってしまう。どれか一つが抜けると『沈肩』は成り立たない。同様に、『沈肩』ができなければ『含胸』は成り立たないし、その他の要領も成り立たない。タントウ功に必要な要領(立つ要領)は全てが手をつないで成り立っているようなものだ。

 

 最初はできる範囲で肩を下げ、できる範囲で含胸をし、そして塌腰もする。全ての要領をちょっとずつ満遍なくやる。すると、もう少し『沈肩』ができるようになる。するともう少し『含胸』ができるようになる、・・・以下連鎖反応が起こる。

 あきらめずに少しずつ練習していくしかない。

 

 すると、今まで『沈肩』だと思っていたものが甘かったことに気づき、新たな『沈肩』の境地を得られることがある。どの要領も、まだできる、と思って練習すべきだ。できる、できない、の二者選択のようなものではないからだ。グラデーションがある。

 

  <参考 比較>

 左:https://youtu.be/1xnTVFnS9Ww

 右:https://youtu.be/PyhKMkuubrQ

 

 腕と肩の密着感の違いが分かるだろうか?

 簡化の場合は仕方ないところもあるけれど、比較として取り上げます・・・

 

左のような腕の使い方はよく見かけるけれども、これではすぐに右手をとられて引っ張られてしまう。というのは、腕が胴体、足まで繋がっていないからだ。

 

この場合、肩は上がってはいないが『沈肩』にはなっていない。仙骨や丹田の碇に繋がっていないからだ。

胴体のど真ん中(青丸の場所)に力がなく、腕と脚で動いているところに根本的な問題がある。

 

 馮老師の場合は、肩甲骨が丹田で引っ張られ沈んでいる。結果として、腕は胴体(脇)から生えたようになる。

腕を引っ張ってもその腕は足裏まで繋がっているのでびくともしないだろう。

 

 比較すると上の老師の脇が甘すぎるのが分かる。といっても、それは腕、肩だけの問題ではなくて、ちゃんと丹田を中心に身体を作っているかどうかという根本的なも音大。

  上のように線を引いてみると、右の馮老師の場合は頭頂から背骨を通って足に達するラインが一直線になっているのに対し、右側の老師の場合は脚が後ろに流れてしまっているのが分かる。足で地面を踏んだ力が手に達するには、馮老師のように背中を張り出す(つまり、肩甲骨を下げて(沈肩)、含胸、命門を開く(塌腰))をする必要がある。腰が凹んで力がないのが一番の問題。腰が張り出せるくらい力がないと(=丹田の力がないと)、本当の『沈肩』はできない。

 2023/5/19

 

  太極拳を教えることが「身体のこうあるべき使い方」を教えることになってしまっている。

  太極拳を学び始めた頃は、太極拳のポーズと動きに興味があった。中国的な音楽にのって流れるようにゆっくり動く、それをやってみたかった。

  動きがある程度できるようになると、意識の使い方を知りたくなった。この動きの中にもっと深いものが隠されていると感じて、それを知りたくなった。ただ、日本にいる間はそれを教えてくれるような先生には出会わなかった。

 

  パリで偶然に劉師父に出会って、一から学び直した。

  太極拳には全く関係ないようなタントウ功をずっとやらされ、長い間理解不可能だったが、結局、その基礎があって丹田、そして気の運用ができるようになっていった。そうなると套路の動きも意味をもつようになってきた。日本でただ”身体を動かして”いたものが、”内側から身体を操るような”動き方に変わっていった。

  丹田で身体を動かす、それがある程度できるようになって初めて太極拳の技が意味をもつようになった。技を学んでも内側の使い方を知らなければ技にならないことがわかった。

そして、多くの人が踊りのように使っている套路も、実は技を連ねたものであること、そして昔の人はそのようにして次の世代に伝授していったことに納得がいくようになった。技が分からずに太極拳を学んでも入り口付近でウロウロしているようなもの。技を全てできるようになる必要はないが、一通り知っておく必要はある、と劉師父は言って、套路の一式一式ずつの技を教えてくれた。

 

  師父について練習している時は、いかにして内気を増やすか、そこが一番の課題だった。加齢とともに気の量は減っていく。それをどうやって維持するのか、いや、増やしていくのか。それが道家の養生法、内丹術と関連するところだった。気が満タンになれば自ずから通る、そういうことだった。(が、当時の私は、あまりよくわかっていないまま、言われたとおり練習していた。)

 

  二度目のパリ滞在の時の私の課題は身体の使えないところを使う(特に肩)、そして自分で感じる身体の歪みをとることだった。

  それは、ただ漫然と今までの練習を繰り返していても解決できないと私は感じて、太極拳以外のところで方法を模索していた。

  目をつけたのは、ヨガとバレエだった。

  ヨガは気功法の原点。気(プラーナ)が欠かせない。内側から身体を通していく静的な運動だ。バレエは身体の軸を正さないとできないような難易度の高い動きだけれども、その基本功(バーレッスンなど)には身体開発の知恵がつまっている。これらを参照したり実際に体験することによって、太極拳での身体の使い方の理解が格段に進んだ。

 

  例えば、『沈肩』という中にどれだけの意味が含まれていたのか、それは、バレエのレッスンを通じて痛感することになった。『沈肩』をしないと腰は活きてこないのだ(活腰)。『沈肩』は『斂臀』と直結するし、『墜肘』とも直結する。『沈肩』ができないと、『肘』が意識できない、意識できなければ操れない。『肘』が操れなければ太極拳の技は使えない。素人は『肘』を操れず『手』で動いてしまう。

  これらは全て、手を体幹から使うための要領だ。

  ほとんどの人達の腕は体幹から外れてぶらぶらしている。歩いている人の肘は無意識に伸びていたり曲がっていたりする。

 

  こんな記憶がある。

  中学2年生の頃、授業中に机に座って先生の話を聞いている時に、自分の手をどこに収めてよいのか分からなくなった。膝の上においても収まりが悪いし、ぶらぶらさせても収まりがわるい。なんか変だなぁ、という感覚。

  この記憶が蘇ってきたのは、『沈肩』と『含胸』そして『塌腰』、『敛臀 』によって腕ががっしりと体感部に埋め込まれた感覚が出た時のことだった。胸から、いや、丹田から腕が生えているような感覚。

  この時、気づいたのは、中学2年の時に、私の腕は胴体から外れてしまったということだった。きっと卓球を必死にやっていて、一気に姿勢が崩れて前肩になってしまったからだろう。それまでは『沈肩』だったのに、それが『前肩』になって腕が胴体から離れてしまって、収まりが悪くなった、そういうことだったのだ・・・

 

  今の時代は、小学生の低学年ですでに前肩になっている子が珍しくない。前肩になった全身のつながりは失われる。それを筋力で埋め合わせていくようになるのだが、大人になった頃にはかなり身体は崩れている。それをまた筋肉肥大で調整しようとすればさらに歪になるだろう。腰痛持ちや膝を痛める人はもうずっと前から身体のつながりが失われている人だ。

  太極拳を養生法として行うには、身体の内側のつながりを無視することはできない。

そしてそのつながりを見つけるのに役立つのが、丹田、気、だ。身体の内側でのつながりは、身体の内側に空間をとらなければ見ることができない。その空間をとるための、丹田、気。背骨を後ろに押すのも、身体の中の空間を広げるためだ。

  ぺったんこの身体ではなく膨らんだ身体(太った身体ではありません)。

  師父が、気が満タンになれば自ずから通る、と言ったのは、身体が気で膨らめば、身体の内側は”空”で繋がってしまう、ということ。線でつなぐのは二点間の話だけど、空間にしまえば至る点と至る点が繋がってしまうということ。だから気をひたすら溜めろという・・・大谷翔平くんの身体をみればそれが分かる気がするのです。・・・

  とはいえ、練習では一歩ずつ進んでいくしかありません・・・

2023/5/14 <背骨を立てることと骨盤を立てること コラムの再考>

 

  骨盤を立てるというのは背骨を立てることとほぼ等しい・・・

 

  それを頭で理解しやすくするには、もう何年にも前に書いたコラム(背骨の調整)の画像を参照するとよさそうだ。

 

  ここでは汤鸿鑫老師制作の画像を紹介していた。

  もう一度整理し直してみよう。

まず、

←これが出来上がり図。

 

最初のS字カーブが上下に伸びて一直線になる様子。

 

頚椎から尾骨までが一直線に伸びる。

 

太極拳の場合はこの背骨の伸びが緩やかなカーブ(弓状)になるが、脊椎間の隙間が開いて背骨が伸びることには変わりない。

(剣道や空手など、一般的に日本の武道はこの左のイメージ図のように一直線になると思います。)

 

  背骨は頚椎、胸椎、腰椎、仙骨(そして尾骨)、と前弯と後弯が組み合わさっているので、単純に伸ばしても伸びない。パーツごとに伸ばして組み合わせていく必要がある。

 

①これは骨盤の回転

 

太極拳なら『斂臀』で表されている要領だ。

②腰椎の進展

 

太極拳なら『塌腰』。

 

 

実際には ②をやってから続けて①をすることになるだろう。

 

②『塌腰』をするには、腰を緩めて開く(命門を開く)必要がある。

タントウ功で<腰を緩める>のが必須になる理由だ。

 

  腰を緩めるのは『塌腰』=腰椎を引き伸ばす、ため。腰を丸くすることではないことに注意。

③胸椎下部の進展

 

 

実際には、②の『塌腰』をやる前提となる、『命門を開く』(=腰を緩める)際に、胸椎の下部はある程度進展することになる。

というのは、命門は腰椎2番と3番の間にあり、ここを伸ばそうとすると胸椎の下の方も伸ばす必要があるからだ。命門を開く感覚は”腰”を開く感覚よりも、”背中”を開く感覚に近いかも。といって、くれぐれも、胸椎上部を丸くしてラクダのようにならないように注意。

 

  そして、<骨盤を立てる>という感じが生まれるのが②③と①がほぼクリアできた時点から。

  画像だけ見ると、①ですでに骨盤が立つように見えるが、やってみると、①のように骨盤を回転させるには腰椎を操作する(②)必要がある。しかし、②だけでは仙骨が伸びが足りず骨盤が後傾してしまう。やはり少なくとも胸椎下部から引き伸ばし始める必要がある(③)。

 

そして④胸椎上部の進展

 

胸椎上部が伸びるようになると、首が動いてくる(伸びてくる)

 

胸椎上部まで伸びるようになると骨盤はもっとしっかり立つようになる。

 

 

続いて⑤頚椎下部の進展

最後に⑥頚椎上部の進展

 

 頚椎は難関だ。

 実際には、①の骨盤の回転の際に仙骨と尾骨が完全に引き伸びる必要がある。

仙骨が引き伸びれば頚椎下部が、尾骨が引伸びれば頚椎上部が引き伸び、頚椎と頭蓋骨の間に隙間が感じられるようになる。

 

 骨盤が立つだけでなく、尾骨まで意識できないと頚椎は完全には立たない。

 首は立てると硬直して失敗する。

 首は立つもの。首が立つようにそれより下の背骨を引き伸ばしていく必要がある。仙骨に力がないと首は立たない。

 上級者のレベル。


 

  以上、コラムを再検討したが、<骨盤を立てる>には①②③が必要になる。④ができれば骨盤はもっとしっかり立つ。今週のレッスンでは腕の使い方だけを取り出して練習してもらったが、腕を正しく使えると④の胸椎上部が引き伸ばされる。そのため骨盤も立ちやすくなる。頚椎も調整され始める。

  いずれにしろ、②と①は土台だ。これが崩れるとその上は成り立たない。

  ②と①を維持し続けるためには常に気を沈めて置く必要がある(気沈丹田)。

  そして、脊骨を伸ばすには息を通すのが必須になることに注意!」

 

2023/5/11 <骨盤を立てる 気沈丹田>

 

  前回のメモで取り上げたエクササイズに関する補足を動画で撮りました。

 

  このエクササイズを通してはっきりするのは、

 「骨盤を立てる」ということが、単なる「骨盤の角度」ではなく、「全身の繋がり」だということ。

  また、「骨盤を立てる」というのを、太極拳の世界では、「気沈丹田」で行わせているということにも気づきました。同じことを違う角度から表現している。(気沈丹田しなければ骨盤は立たないし、骨盤を立てようとすると気沈丹田になってしまう)

 

 しかし、「骨盤を立てる」も「気沈丹田」もかなり抽象的な表現で体得するのはなかなか大変。体得したとしても、誰かに、「その状態が、骨盤が立っている状態だ」もしくは、「その状態が気沈丹田だ」と指摘してもらわないと、この状態がそうなのか、と認識ができない・・・だから指摘してくれる指導者が必要になるということなのだと思います。一度指摘してもらって認識できれば、自分でその状態を覚えて再現できるようになっていきます。

 

  結局、タントウ功自体が骨盤を立てる練功で、また、骨盤を立てることで丹田にしっかり気を溜められるということ。

  骨盤を立てる練習というのは、他のスポーツにおいても様々なメソッドで行われているけれど、太極拳はそれをエネルギーの損失の少ない静的な手段で行わせているところが特徴的。若くてエネルギーがいっぱいのうちはスパルタ的な特訓にも耐えられるかもしれないけれど、中年を過ぎるとそうはいかない。意識を最大限に使って体力の消耗を控えて内気を養いつつ身体の可動域を増やしていく。改めてタントウ功の奥深さを知ったのでした。

 

  紹介したエクササイズを毎日300回やるのと、タントウ功を毎日30分やるのとではどちらが良いですか? と、生徒さん達に聞いたら微妙な顔をしていました。どちらもそこそこ苦しいですが、雑に身体を動かすような練習は避けるべき。意識を最大限に使って丁寧に動くのが成熟の道。毎日少しずつ前進したいもの。

2023/5/6

 

 右は5/1のメモに載せた動画のエクササイズ→

 

 これはタントウ功の要領、すなわち、丹田を沈めて腰を落としていく要領と全く同じなのだが、生徒さん達はいまひとつ意味が分からないよう。

 やってもらうと、ただ膝を立てた位置からお尻を下げて上げて・・・

 確かに、それでは何の練習だか分からないだろう。

 

 言い方を変えれば、骨盤を立てて座るエクササイズ。

 が、骨盤は立てようとして立つものではない。

 感覚としては、骨盤が締まる感覚に近い(女性の場合=外裹。男性の場合は骨盤を内气で押し広げ続ける感覚になるのだと思う=内撑)

 

 この動画を提供しているのはインドのヨガの団体で、女性向けには骨盤を締めるエクササイズがいくつか紹介されている。

 大事なことだが、女性は骨盤をゆるゆるにしてはいけない。

 太極拳は放松するものだ、といって、骨盤までゆるゆるにしてしまうと、必ず身体に支障が出てくる。太極拳を練習して太ももが肥大してしまったとしたら骨盤が緩んでいる。いわゆる”引き上げ”が足りない証拠だ。太極拳は元々身体の締まった男性が練習していたものだから、緩めて開くことに重点が置かれるが、もともと緩んで開きやすい女性は”合”をいつも忘れないことだ。これは私自身の練習を通じて(苦い経験を通じて)得た教えだ。

 

上の動画の冒頭には左のような骨盤がギュッと引き締まる画像が埋め込まれている。

 

したがって、このエクササイズは、骨盤が締まるように行わなければならない。

両腕をしっかり上げて体側を伸ばし、お尻を落としていくと同時に骨盤の中がギュッと引き締まっていくようにする。

ゆっくりやれば、お尻が落ちてしまうまでのどの部分でもそこで止まって丹田に気を溜められるタントウ功の姿勢になっている。

太極拳の姿勢も高い姿勢から低い姿勢まで、それを全てカバーするのが上のエクササイズだ。

 

 

 骨盤の締め感と内腿の伸びが骨盤が立っている証拠になる。

 (骨盤を立てられたとしても、本人は骨盤が”立って”いる、という感覚はない。感覚としては、そのあたりの充実感、締め感、あるいは丹田の充実感、そして内腿の伸びが得られて、それが、骨盤が立っているということなんだ、と後から教えられて知る。)

 

  骨盤を立てる、というのはどんなスポーツにも必要な要領だ。

 上はラグビーの基本練習だが、左と真ん中の画像を比べてみてほしい。

  

 左のお父さんはしっかり骨盤をたてたまま腰を落としている。

 が、真ん中の息子は何度やってもただ膝を曲げてしゃがんでいる。これでは身体が安定しない。

 

 右端の画像はまた別のトレーニングだが、これはいわゆる”腰割り”だ。

 腰が割れないと骨盤は立たない。だから、骨盤が立てばそれほどキツくない動きが、必要以上にキツくなる。

 

 いわゆる、”足腰を鍛える”ということの根幹は、腰を割り、骨盤を立てることをいう

 スクワットをしたりして足腰を鍛えるのもそのためだ。

 もしスクワットで腿だけを鍛えているとしたらとても的外れなことをやっている。

 

 骨盤が立たないと全身の連携は生まれない。

 骨盤が立つ状態にするには腰の操作は不可欠だ。

 

 20代や30代前半までなら上の親子がやっているような特訓も役に立つかもしれない。

 が、中年以上になると、あまりハードなことをすると体力を消耗しすぎる。そんな時、内家拳の練習方法が役に立つ。若者がハードな練習で骨や筋肉を”鍛”えて得るものを、内気を育てて内気を使って”錬る”ことで得ていくのだ。

 私自身も、タントウ功をして丹田の気を錬るうちに、身体の柔軟性が高まり、腰も割れて骨盤が立つようになった。卓球をしていた学生時代にそれができていたら、卓球はもっと上手くなっていただろう・・・当時はもっばら”太もも”で動いていた。

 

 

 生徒さん達に冒頭のようなエクササイズを試してもらったのは、それによって、タントウ功で目指すところを少しでも知ってもらうためだ。ただ立っていても身体は開発されないからだ。骨盤がたつには背骨が引き伸びる必要があるのがわかれば、タントウ功でもそのように立たなければならないことに気づくだろう。上のエクササイズを一日300回やるのと、タントウ功を30分やるのだったら、どちらを選ぶだろう? どちらにしろ、”正しく”やるのが大事だ。

 

2023/5/4 <鍛錬の意味 放松するもの 筋を練るには気を練る必要あり>

 

  腰の王子のショート動画↓

  王子によれば

  『骨を鍛えて筋肉(スジ)を錬る』→骨は硬く、筋肉(スジ)は柔らかく

  それが古来の日本人の身体の使い方の極意だったということだ。

 

 なるほど〜 骨と肉にしっかり分けて身体を使えるかどうか

  肉は柔らかくしないと骨は意識できない

  肉が硬いと骨が浮き出てこない・・・・

  

  頭では理解できても、ではどうやってそのような身体にするのか?

 

 <王子は公開動画でそのためのメソッドを紹介するつもりはないようなので、私は太極拳なら・・・と以下思いつくところを書いてみました>

 

  筋肉を柔らかくする、太極拳では「放松」によって筋肉の強ばりをとらせようとしている。

  そして肉を放松することで骨が意識できるようになる。

  骨は放松してはいけない。骨はしっかりしなければならない。

 

  太極拳は「放松」が大事だといって、骨まで力がなくなったら腑抜けになってしまう。

  このあたりが難しいところで、また、誤解しやすいところだ。

 

 実際には、太極拳では骨と筋肉の話はあまりしない。ただ、「骨肉分離」という言葉はある。肉をつまんで骨から剥がれるような身体にしていく(食べる時に肉が簡単に骨から剥がれる骨付き肉をイメージ)

 骨も筋肉もまとめて”外”のものだ。(皮、筋肉、骨は身体の外枠を構成するもの)

 では”内”は何かというと、骨よりも内側にあるものだ。内臓や空間、そして髄、血管、リンパなど。外を放松することで内側をエネルギー(気)で満たすようにする。

 エネルギーを内側に引き込むのが太極拳の極意だ。

 

 そもそも中国語における『鍛錬』の意味は

 ”鍛”は金属を熱してから叩いて形を変えること、

 ”錬”は加熱などの方法によってそこから純粋な物質(精)を抽出し、坚韧にし、濃縮するようなものだ。

 

 叩いて形を変える(=鍛)のは骨や筋肉などの身体の外枠

 これに対し、内側の丹田の気はひたすら”錬る”。

 内丹術は、火を焚べて純粋な気の種つくりだし、それを固くて(坚固 )かつ柔らかくて伸びのよい(柔韧)、決して折れることのないようなものに練り上げていくが、まさにこの作業が”錬る”だ。

 

 中国では、身体は”鍛錬”する。丹田の気は”錬る”。と表現する。

 スジ(筋)は一般的には錬るものではなくて”拉“(引き伸ばす)もの(=拉筋)。

   (「筋骨鍛錬」という言い方もあるが、これは南北朝時代に達磨大師が伝えた易筋洗髄法(筋を柔らかくして髄を巡らす方法)を示していたりする(大成拳?)。これになると”外”ではなく”内”の練功になる。)

 

 

 ここからは私自身の感覚だが、筋を柔らかくして引き伸ばしたり縮めたりしながら強いゴムのようにしていくには、身体の内側の気(内気)と息が不可欠だ。ただストレッチをして筋を伸ばしても”強く”はならない。タントウ功で丹田に気を溜めて内功でその気を練っていくうちに次第に筋も練れるようになる、というのが練功の進み方だ。(そのうち、骨と肉が分離するようになれば骨が搓できるようになる)

 

 上にも書いたように、『錬』の中には坚韧、つまり坚固と柔韧という”固くて柔らかい”という性質がある。これが筋の性質だろう。硬いとすぐに折れてしまうし、軟らかいと力が弱く突っ張ってられない。放松して筋肉の緊張をとりながらも、内側に息を吹き込んで内気を培いその内気で内側から筋を伸ばしていくことで、筋は坚韧になる。

 前回のブログに載せたザハロワの身体はまさにそんな坚韧なスジの集合体だろう・・・

  

2023/5/1 <筋(スジ)の繋がりは足に現れる>

 

  私自身の関心事が身体の調整や身体の繋がりにあるため、見るものも太極拳以外のものが多くなる。

 

  太極拳の動きはそれほど激しくないから、すこし大袈裟なものの方が印象に残りやすいかも? と、生徒さん達に見てもらいたい動画があった。

 

  まずはこれ。

   腰を折ったり丸めたり(お腹を出したり凹ませたり)しないで、真っ直ぐに昇降する。これができるなら全身を一つの気で充満させることができている(周身一家)。丹田の気が足りないと全身を一つにしてこのように動くことはできない。

  仙腸関節がしっかり動くのも内気の力。

 

  私たちが練習するなら、こんなに速く動かずに、ゆっくりと呼吸に合わせて動くべきだ。

  劉師父にこの動画を見せて意見を聞いたら、

  「①下がる時に吸って上がる時に吐く ②下がる時に吐いて上がる時に吸う

   ここまでは小学生レベル

   あなたは ③下がる時も上がる時も吸う ④下がる時も上がる時も吐く

   で練習しなさい。」

  というコメントが返ってきた。④は確かに難しい・・・

 

 この運動がうまくできるか否かは 足🦶がポイントです!

 スネから足先までに力がないと腹や骨盤が安定しない・・・・

 

  次のザハロワの冒頭のコンテンポラリーの動きの時の足🦶に注目!

  足先まで勁を引き抜くからこそ全身が一つに繋がる。

 

  太極拳だと足は”扣”にする。扣(kou)とは、お椀を伏せたような形にするということだ。

 つまり土踏まずが上がって甲が高い状態だ。

 

 この“扣”の極め付けがバレエダンサーの足だ。

 バレエはこの足がが要だ。師父は「彼らは”足”で稼いでいる」と表現していた。

 太極拳ではバレエダンサーほど強力な扣は要らないが、そこそこの扣は必要だ。でないと、節節貫通はできない(足の扣は節節貫通の現れ)。

 

  そして下のザハロワと鞍馬の選手の身体の使い方を比べると・・・

 

  ザハロワは筋(スジ)の繋がり、引っ張り合い(→テンセグリティ)で身体を保っている。一方体操選手は、主に上半身の筋力で身体を支えている。

  太極拳は体操競技よりもバレエに近い身体の使い方をしている。

 

 <テンセグリティ> 例えばhttps://rehacon.net/tensegrity-body-yoga-pilates-fascia/ 参照

2023/4/27 <S字カーブを取り戻す努力 座り姿の見直し、カーブの連結の仕方>

 

 一昨日のレッスンポイント

 

 2. 椅子に座る時の姿勢の作り方から背骨の立て方を学ぶ

 

   https://youtu.be/2uahtt0JzgU

   の動画の中で犬飼さんが背骨を立たせるために使っていたメソッドがとても興味深い。

   腰椎、胸椎、頚椎の正しいアーチをそれぞれ丁寧に扱って、最後にしっかり骨盤が立つように導いている。

 

←仙骨に座ってしまっている悪い座り方

(図:https://news.livedoor.com/article/detail/18636737/)

 

骨盤が寝て背骨のS字カーブがなくなってしまっている。

このような姿勢を続けていると立った時もS字カーブが失われた背骨になってしまう

 

←正しい座り方

坐骨と恥骨を結んだ三角形に乗る

 

そんなことは皆知っている・・・はずなのだが、電車で座っている人を見ると正しく座っている人は少数派。ほとんどは骨盤を寝かせて座っている。

 

私が太極拳を教えていて一番戸惑ったのは、背骨のS字カーブが失われていて、腰椎の前弯がなく平腰になっている生徒さんを扱った時。

一般的には、腰を後ろに推して腰の湾曲をなくすような姿勢(命門を開く)を太極拳ではとるのだが、最初から腰が開いてしまっていると命門を開いて腰椎を引き伸ばすことができずそのまま腰が落ちてしまう。結果的に腰を痛める原因になったりする。

  そもそも背骨がS字カーブを描いているのを前提に、そのバネを引き伸ばすことによってエネルギーを蓄積させようとしている本来の意図を果たすことができない。

  昔、その問題に直面して師父に相談したら、「まずS字を取り戻すように指導しろ!」と言われてまた困ってしまったことがある。太極拳をする前にまず猫背を直してこい!というようなものだからだ。猫背を直したくて太極拳を習いにきた生徒さんはどうすればよいのか?なんて真面目に悩んだこともあった。

 

  今では猫背や平腰の生徒さん達の指導も慣れた。引き伸ばして回す練習をたくさんさせれば良いのだ。けれども、大事なのは、普段の生活でそれらの生徒さん達がどのような姿勢なのか、特に、座り姿勢だ。背骨のS字カーブを作るにも筋肉を躾ける必要がある。躾けるには気合いと忍耐がいる。年月をかけて崩れた姿勢はそんなに簡単には直らない。でも諦めずに毎日躾けていけば必ず変化が出てくる。

 

   正しい座り方は坐骨で座ることだ、と言うのは知っていても、それだけでは座り続けられない。というのは、坐骨で座ってもその上の胴体の立て方がわからないからだ。立て方が分からないから胴体を硬直して座ってしまえば、疲れてすぐに仙骨座りに戻ってしまう。

  胴体を立てるには背骨の3つのアーチを利用して、ある意味、”引っ掛けて”いかなければならない。骨盤だけでは背骨は立たないのだ。

←https://ddnavi.com/review/925392/a/

 

例えばこのような座り方。

坐骨に乗っているかもしれないが、見るからに大変そう。ある意味不自然だ。

この姿勢でずっと頑張るのは不可能だ。頑張ったところで(この写真の場合は)腰痛になってしまうだろう。首も不自然。

腰のカーブと胸椎のカーブ、そして頚椎のカーブがどのように連結しているのかが分かっていないのが体を固めて立ててしまう原因。

 

そういう観点から冒頭で紹介した犬飼さんの動画を見て一緒に試してみてもらいたい。

 

 犬飼さんの指導の要点を書くと

 ①まず寝かせていた骨盤を立てる

 ②骨盤を立たせた時に肋が前に突き出てしまうだろうから、両腕を内旋して頭を垂らして下を向いて肋が収まるのを確認

 ③そうしたら骨盤と肋の位置を変えないように、両肩を持ち上げて両腕を外旋し肩をグルッと回して後ろに降ろす。

 ④最後に、胸の上の方を前に突き出して頭を後ろに倒し、両耳たぶのしたの窪みを貫く軸を使って頭を起こす

 

  ①と②で腰椎がグイッと伸びるはず。お尻がしっかり椅子を踏めれば、腰椎は上下に伸びる。太極拳で言うところの『提会陰』『敛臀 』『塌腰』がここで行われる。

  そこに、③を組み合わせると胸椎がグググっと伸びる。肋が前に出ないように肩を回して後ろに落とすのはなかなか難しい。かなり腹圧(丹田の力)がいる。(太極拳の『抜背』)

  そして私が感動した④。これで頚椎のカーブを作る。腰の王子が最も重視する「上部胸椎」は頚椎のカーブを作るのに必須だ。

 

頭は頚椎だけで立てているわけではない。    ↓

 


 

  胸椎3番あたりまでを使って首を立てる(頚椎の前弯を作る)方法は動画を参照してください。

 これがうまくできると、下顎が入って、肩が更に沈み、骨盤がギュッと立ちます。

 ここまですべてやると、自然に背骨が立つ。

 と、感動的でした。

 私は歩きながらも①から④を思い出しながら再現したりしています。

 立ってやるとタントウ功の要領、足を組めば座禅の要領になります。

 頚椎をちゃんと立てられる太極拳の先生はなかなかいないので、犬飼さんの方法を参照するのはおすすめです。(が、生徒さんにこの④を試してもらったら、案の定、上部胸椎が動かず、首だけで頭を後ろに倒してしまっていた。(頭を後ろに倒した時に、首がカクッとなって顎が上がってしまうのは胸椎を連動させてない証拠です)→上部胸椎も含めて首回しをする方法を生徒さん達には教えました。)

 

 歳をとってくるとガニ股、O脚になる人が多いのも、仙骨座りの影響とのこと。

 坐骨で座ると、恥骨と内腿を一緒に使うのでガニ股、O脚になりにくい。

 S字カーブを取り戻す努力は地道に続ける必要あり・・・

 

  

2023/4/27 <腕の捻りがチャンスーになる条件 広背筋 そして仙骨へ>

 

  昨日のレッスンポイント

 

 1.両腕捻り

  →太極拳の纏糸(チャンスー)の基本になる

 

   手のひら上向き→手のひら下向き:逆チャンスー

   手のひら下向き→手のひら上向き:順チャンスー

 

  <肩の付け根>から捻るのが大事!

   厳密には、肩関節、すなわち、上腕骨骨頭を回す意識が必要

 

   腕を適当に捻ってもチャンスーにならない

   チャンスーは関節の連動を引き起こすような動き

   関節を次々と回転させながら全体として捻りの動きをもたらす

 

   手首を握られた時にそれを解く技があるが、その時も、握られた手首を回すのではなく、握られた手首は放っておいて、肩関節の隙間から腕を回すようにすると結果的に手首も回って相手の手が外れるようになる。もたれた箇所は動かさないのが基本。もっと根本の箇所、究極的には丹田を回せば手首も回ってしまうことになる。

 

  両腕捻りの練習で、どこから腕を捻っているのか、自分できちんと観察することが必要。

  多くの場合は、肩から捻っているつもりで肘から捻っている。もしくは前腕や手首の力で腕を捻っている。

  肩関節の中から捻ろうとするならば、含胸をして肩関節の中に隙間をとってそこを回す必要がある。

  肩関節の中に隙間(上腕骨の骨頭と肩甲骨側の臼の間の隙間)を作る意識は、言い換えれば、腕を肩関節から引き抜くような感じになる。

 

  関節は隙間がないときれいに回らない。

  (骨と骨の間が詰まってしまうと関節は機能しない)

 

 

 

 

  肩関節の隙間は、体の前面(中府穴から少し外側の位置)、と背中側(臑兪穴)から確認。

 

←図:臑兪穴

 推すと痛いです

 http://www.sun-seikotsuhari.com/blog/2018/08/post-303-625090.html

 

  肩関節の前面、背面に隙間があるような位置で腕を撚れると広背筋がきちんと起動する。

  広背筋は腕から仙骨までの広いエリアをカバー

  →腕を捻ることで仙骨が動く

  

 <ここからはレッスンでは踏み込まなかった事項ですが>

 仙骨(仙腸関節)の頷き運動というのが面白い。↓

 

https://forphysicaltherapist.com/171/ 仙腸関節の運動学

 

 左がニューテーション(腸骨に対して仙骨が前傾)

 右がカウンターニューテーション(腸骨に対して仙骨が後傾)

 

  逆チャンスー(泛臀)と順チャンスー(敛臀)にそれぞれ対応するはず。新しい視点!

 丹田の動きは仙腸関節の動きをもたらしてそれが腕の運動に連動する。チャンスーが新たな観点から説明できそうです。

2023/4/26

 

  オンライン生徒さん達へのレッスン参考資料をこちらにアップします。

 

 1. 両腕捻り 広背筋を緩める

  https://president.jp/articles/-/68108

 

 

 2. 下の動画の40秒〜1分20秒あたりまでを見てやってみてください。

  正しい座り方の作り方を指導しています。

  骨盤の立て方、腰椎、胸椎、頚椎を伸ばす方法を簡単に教えています。

 

  レッスンでは1と2が太極拳でどう使われているのか模索しましょう。

 

2023/4/25  <腰を入れることと骨盤を立てること>

 

  『腰を入れる』、『腰を割る』、『腰のキレ』、

  スポーツではよく耳にするが聞く言葉だが、それは

  『骨盤(仙骨)を立てる』ことを前提にする。

 

   骨盤が立てば 腰が入り、腰が割れ、腰がキレる。

 

   骨盤は立てようとしても立たない。

   骨盤が立つ、というのは、<骨盤が立ったような感覚が得られる体の内部の状態>が作られる、ということだ。

(←の図:https://www.mcdavid.co.jp/sportmed_anatomy/back-waist/より)

 

骨盤が立つというのは腰椎と仙骨、そして骨盤の両翼を構成する胯(kua)=

(腸骨・恥骨・坐骨)が一体となって動くような状態だ。

 

単純に言えば腰椎をまっすぐ仙骨に乗せるようなことだが、それには、腹圧で腰椎を後方に押し続けておく必要がある。

 

太極拳で「気沈丹田」と言われているのは、丹田という腹圧で命門穴を押して骨盤を立てておく、ということに他ならない。

 

   師父などは「骨盤を立てる」というような語彙はそもそも持っていない。昔ながらの中国の言葉で同じことを説明する。

 「命門を開けておけ」とか、「会陰を引き上げておけ」、そして「丹田の気を沈めて胯を動かせ」、「骨盤は 内撑 外裹」というような指導は、とりもなおさず、、<骨盤を立てて腰を割らせること>に等しかったのだ。

 

  私の卓球は『腿』で動いて『腿』で打ってしまって、『腰』で動いて『腰』で打つところには至らなかった。劉師父に太極拳を一から学んでやっと腰を割って腰のキレを使うことを覚えた。遡ってみると、私が学生の頃は、やたら『脚=腿』重視の練習だった。中学3年の春に日中親善試合のために代表団の一員として北京に行った時、現地で10日間ほど中国の教練の指導を受けた。その時に教わった打ち方は日本のコーチからはやってはいけないという打ち方(足の運び方)だったことを鮮明に覚えている。中国のコーチが教えていたのは右前に落ちた球を、右足を出して右手で打ち、打った瞬間に右足を元に戻す、というようなものだったが、こうすると体幹部(腹腰)で動いて打つようになる。日本なら右前の球は左足を出して右手で打っていた。それは脚がメインになる。今では日本の卓球界に中国のコーチがたくさん入り込んでいるので、かつての中国的な打ち方も当たり前になっている。が、潜在的に腹腰胸のパワーは日本選手は中国選手に敵わない(特に女子)。

  数年前に全日本チャンピオンを出しているある女性指導者と偶然太極拳の集まりで顔を合わしたことがあったが、彼女が太極拳を学んでいる理由が、「中国の卓球が強い理由が太極拳を学べば分かると思ったから」と言っていたのはとても印象的で、とても的を得ていると思った。

 

  話を戻して

  太極拳でタントウ功をしたり体重移動の練習をするのも、骨盤を立ててしっかり腰で動けるようにするため、と再認識。特に、体重移動は腰を割らないとできない。腰を割らないで重心移動をすると中心軸がブレてしまう。「尾闾(尾骨)正中」とか「膝とつま先が一致」というようなことは「骨盤が立って腰が入っている」ことの現れなのだ・・・目に見える現れだけを真似しても本質は得られない。

 

 

  と、えらそうに書いている私自身もまだ完璧とはいえない。バレエのレッスンを受けるようになって骨盤周囲の左右差、歪みが気になるようになった(バレエでの体の使い方は太極拳よりも厳密!)。骨盤ベルトを使って骨盤を安定させるとバレエの動きがつくやすいと聞いたので早速ゲットして試してみた。(左画像:ミズノの骨盤ベルト)まずまずの効果。これは私の生徒さん達に試してもらうとよいかも?と思い、先週のレッスンで何人かの生徒さんに骨盤ベルトを試してもらった。あまりピンとこない人もいたが、つけることによって、骨盤の立つ感覚を得られた生徒さんも数人いた。骨盤が立つ、というのが、こういうことだったのか、と分かったのは大収穫!と私も喜びました。腰が伸びる、という感覚を得られた人もいたし、男性の生徒さんは、「結局、腹圧を入れ続けなければならないということですね。」と、たった一回骨盤ベルトを装着してもらっただけで、どうしなければならないのか、彼自身の課題を見抜いてしまった。

 

   このようなグッズを使ってある感覚が得られて、それが、骨盤が立つことであり、腰が伸びることであり、腹圧を抜かないことであり、気を丹田に沈めておくことであり、体が落ちない、というようなことなのだ、と、感覚と脳の認識が結びつけば、感覚の再現に向けて新たな一歩を踏み出せる。難しいのは、その”感覚”を得られないこと、そして、”感覚”は得られているのに、それがどういうことなのかを本人が分かっていないため再現できないこと、だ。

  私にとって太極拳を教える最大の醍醐味は、この生徒さんをどのように導けば、その”感覚”を得らることができるだろうか?と、感覚の共有を目指して工夫をしていくところにあるようだ。手を替え品を替えやっているのはそのため。

 

  次は、骨盤を立てる感覚をしっかり得るためには、腰と骨盤だけでは足りない、という点について書けるとよいと思っています。

2023/4/23 <太股ではなく腰! 腰を入れる、腰を割る、腰のキレ>

 

  本棚の整理をしていたら、大学時代からお世話になった辻歓則さんの『卓球語録』の草稿が出てきた。私に読んで感想を教えて欲しいといって渡されたものだ。

  辻さんはバタフライという卓球用品会社の部長で、かつ、そこに設立された卓球道場の長だった。バタフライの卓球道場にはかつて世界チャンピオンだった伊藤繁雄さんや長谷川信彦さんがコーチとして所属していて、日本だけでなく世界各地から一流の選手が練習に来ていた。

  そんな道場に、なぜか東大卓球部は出入りを許されていた。先輩の話によると、それは辻さんが、頭が良い子たちに卓球を教えたらどのくらい上手になるのか?というのをゆうが実験したいから、ということだった。

  私を東大の卓球部に入れるように呼びかけたのも実は辻さんだった。

  東大の駒場の門で私の中学生時代の写真を手がかりに私を待ち伏せしていた卓球部の先輩、その裏にバタフライの辻さんがいたのを知ったのはもっと後のことだった。辻さんは私の出身地、香川県の高瀬町から出た日本女子チャンピオン、松崎君代さんと仲がよく、そこから私のことを知って東大の卓球部に手を回したということだった。

 

 

←手前が辻さん

 奥の選手が当時連続で日本チャンピオンになっていた斉藤清選手。

 

 


  バタフライの道場に何度かいって練習したが、辻さんや道場の他の一流コーチは一流選手に対してはとても厳しい指導をしていたが、私達に対してはとても優しかった(特に女子)。今思うと、辻さんは私達を指導するよりも私達と会話するのを楽しんでいたのかもしれない。

  私が道場の練習で唯一覚えているのは、伊藤繁雄さんに、「おまえは太ももで打ってるなぁ」と笑いながら指摘された一言だった。伊藤さんはただそう言って通り過ぎていった。

私はどう言う意味なのか全くわからず、ただその一言が心の中に残ったのだった。

 

  さて、冒頭に戻って、本棚から出てきた草稿。ある高校で指導した時の『卓球語録』としてある。ぺらぺら捲ると目に入った文章が・・・

 

  ・・・「肝腎要』という言葉を君たちは知っていますか?・・・要はこれは<腰>のことだ。卓球は、体、脚、腕などをあるゆる方向に転換して動かしたり、同じ方向に連続して動かしたり、360度の方向に動き回ってラケットを振り、ボールを打つスポーツだ。しかもそれを瞬間的にやらなければならない。

 それだけに、上半身と下半身をつなぐ腰の果たさなければならない役割は大きい。

 それぞれの関節を動かず筋肉の働きをきちんとさせ、それを体の軸をぐらつかせず、一つの動きにまとめているのが腰である。体全体の動きを最大のパワーにまとめ、打球の力を生み出すのが腰なのである。

  このことから、当然、腰を鍛えるトレーニングを重視して多くやるのである。

  君たちがよくやるフットワーク練習、これも・・・・脚を大きく交差させて大きく動き重心移動して打つことで、腰を鍛えることもやっているのである

  この練習をきちんとやることによって腰の動きのキレがよくなってくるのだ。

  腰が割れるようになり、威力のあるドライブ、カットが打てるようになる。

  卓球では打球を正確で威力あるものにするには、腰を入れることが上半身と下半身の力を一つにして打つことが重要であり、その腰のひねりが、このクロススタンスの動きでスムーズに行うことができるようになるのだ。

  ・・・クロススタンスですばやく足の三指(親指、人差し指、中指)で床をけって大きく動くことで腰のキレを鍛え・・・ 無理なく無駄なく素早く一番よい動きが自然にできる足捌きを覚え込ませるのである。

  腰の良いキレを体に覚え込ませるには、きちんそ足腰の切り替えをやり打球することだ・・・

 

  以上、100ページくらいある『語録』のほんの一部。<腰>について書かれている部分だ。

  私が今見て、ハッとしたのは、あの卓球のフットワーク練習は、腿』を鍛えるのではなく『腰』を鍛える→<腰を割る>、<腰を入れる>、<腰のキレを良くする>、練習だったということだった。

 

  腿ではなく腰!

 

  太極拳と同じだ。

  上半身と下半身をつなぐのが腰。ここが上下相随の要。

  そして腿と腰の違い、これが、4/15のブログに載せた陳家溝と今普及している太極拳との違いだ。

  そして、大学生の時に伊藤さんに言われた、「腿で打ってるなぁ」という言葉の含意は、「腰で打ちなさい!」ということだったということだ。(このことは、太極拳を初めてしばらくして気づいていました。私の卓球の限界はそこにあったのだと。太極拳で腰を使う練習をしたら卓球の打ち方も変わりました。)

 

  卓球のフットワークの時の姿勢は太極拳に通じるところがあるので参考になります。

 

←現世界ランキング一位の樊振东のフットワーク。https://youtu.be/iDLxRYSun2M

 

腰が沈んで浮かない

辻さんの言葉では<腰が入る>という状態。腰が入ったまま動き続けられるのが一流選手。足裏が柔らかく床をしっかり捉えられている。脛から足裏までの力が強い。

 

←フットワークの基本について解説した動画 https://youtu.be/RQP3J8uCmRY

 

 腰が入っていないので、脚だけで重心移動してしまっている。

 腰が割れていない状態。

 腰がふにゃふにゃ(くちゃくちゃ)しているのが見える。

 

上の樊振东の腰と比較すると明らか。

 

 <腰が入っている>状態は、言い換えれば『気沈丹田』の状態です。

←初心者用のフットワークとして足指を使うことを教えている動画

https://youtu.be/obPdMvX6YVs

 

腰については言及なし

腰が浮いて膝(太腿)で打っている。

スネからしたの力が弱い。

 

結局、この動画と一つ上の動画は、丹田が腹に沈んでいない状態。腹圧が弱い。したがって腰が活きない(活腰でない)。

 

 

また、上の樊振东は腰が入って园裆、こちらは、腰が入っていないので尖裆

 

←馬龍 https://youtu.be/4ocQyC_9xY8

 

 後ろから見ると腰が非常に柔らかいのが分かる。この上の動画の人と比べると腰のなめらかさが際立つと思う。

腰がキレる、というのは、このなめらかさ、柔らかさを前提にしている。柔らかくないのにキレさせようとすると腰を痛める、もしくは可動域が少なくなる。また、腰が入っていない状態での腰が<軟らかい>状態は、腰に力がない状態。柔らかいのはOK。軟らかいのはNG. 腰が柔らかいのは腰が沈んでいるのを前提にしています。

当然、脛下に力があります。

←これも馬龍

バックハンドを見ると、腰のバネ、キレで打っているのが分かります。

 

 

←背骨の弓、腰からお尻、ハムストリングス、アキレス腱を経て足裏、というつながりがよく見える。

 

 蛇足ですが、馬龍の腰の柔らかさをみると劉師父の腰を思い出します。私の勝手な印象ですが、後ろ姿を見て中国人の男性か日本人の男性かを見分ける時に歩き方以外に腰付きが違う感じがします。中国人の腰の方が丸みがあって柔らかそう、というよりも、日本人の男性の腰は硬そう。日本の武道を見ると腰をぐっと立てている感あり。一方、中国武術は腰を丸く作る(が、猫背とは違う)。直線的・平面的な文化と円・球的な文化の違いがありそうな。

 

  それにしても、辻さん、まだ生きていたら太極拳と卓球の話で盛り上がっただろうに。間に合いませんでした。残念・・・

2023/4/18

 

 前回の陳家溝の村人の太極拳と現代の太極拳の違いが分かりづらいかもしれないので、それに関連した動画を撮りました。

 

 「上虚下実」と思っている形が実は「上実下虚」になっていないか?

 「上虚下実」になれば次第に「上下相随」になり、縦の繋がりがでてきます。

  この体の縦の繋がりが太極拳のキモになります。(これが太極拳の技の前提になります)

2023/4/15 <1980年代の陳家溝の記録から>

 

  武術大好きな生徒さんが興味深い動画を送ってくれました。

  1980年代の陳家溝。太極拳の源流、陳式太極拳の発祥の場と言われている村の当時の様子が撮られています。

 

  後半は世界的に有名な第19代陳小旺の紹介ですが、私的には、前半の村人の練習風景の方が興味津々でした。

  皆上手い!

  と私が言うのも恐れ多いのですが、当時の陳家溝にはまだ太極拳のエッセンスが残っていることが分かります。長老や先輩達が村の子供、青年に正しく伝えていた、そんな風景も垣間見られます。日本語字幕もあるのでぜひ見てください。太極拳はどういうものだったのか、雰囲気が分かるはずです。

 

 太極拳が手足の運動(四肢運動)ではなく、体(胴体)をつかった運動だというのが村人達の動きから感じられるでしょうか?

 現在教えられている太極拳はなぜか胴体を真っ直ぐに硬直させて腿や膝に過度な負担をかけて動いている・・・これは、太極拳が演舞や競技目的のものとして広まってしまったことが原因していると思うのですが・・・・ 本来は太極拳は相手からの攻撃に対応するもの、そして内臓を含めた身体を鍛えるためのものでした。目的が違えば体の使い方は変わります。

 

左は上の動画の冒頭部分。

村人達の練習風景。

 

動きがとても自然。

胴体と脚が一緒に動いています。(上下相随)

←現代の太極拳(中国の公園  https://youtu.be/o6pCdo4YICY)

 

下半身の台の上に胴体の塊が乗っかっている。下半身が重い。

体重が腿に乗っているため、股関節や膝、足首に負担がかかる。

 

上の陳家溝の人たちの動きは腿や膝に乗らずにダイレクトで体重が足裏に落ちている。人間の歩行、動き方としてはそちらが自然。

←同じく現代の中国の公園の風景(https://youtu.be/fylo5OPEdk4)

 

簡化になると膝の捩れが目立つ。

ある意味とても不自然な体の使い方。

←そして競技(https://youtu.be/mamgevx1UBo)

 

ここまで来るともはや太極拳とは別物。

太極拳の動きを使ったアクロバティック体操競技になる。若いうちはこのような競技に興じても良いが、ただ体を傷めるだけ。太極拳のベースにある中医学の養生法とは全く無縁だ。

 

 

←陳家溝のこの若い女性は正しく村人を導こうとしている。

 

裆(股)の使い方も正しく、体重が腿に残らずに足裏に落ちている。

学ぶ側も正しいお手本を見ているので上のアクロバティック競技のような動きにはならない。

胴体の中の力(丹田力)が育つような套路だ。

 ←陳家溝の上の女性の動き。

陳家溝は農村で、ほとんどの人が農作業に勤しんでいる。農作業のできるような体、それが足腰の強い体、それがそのまま武術に使える体となる。

内臓が弱かったり、膝や腰を痛めては農作業もできないし戦うこともできない。そんな生活に即した練功だ。

 

 上に載せたような現代の太極拳は、それを練習しても土を掘ったり、荷を運んだり、そんな昔ながらの農作業に耐えられる体を作れるかは疑問。体のどこかが緩い(腹や骨盤の中が緩い)からだ。

 陳家溝の人たちのかrだは腹や骨盤の中がタイトだ。これが丹田力。太極拳で鍛えるべき箇所だ。腹や骨盤が緩むと上半身が落ちてきて腿が太くなる。現代の太極拳は会陰の引き上げが足りない(=仙骨が立っていない)のが大きな原因のようだ。

 太極拳は放松が必要、というが、その放松の仕方にも誤解があるような。

 ともあれ、良いお手本を多く見てそこからイメージを掴むのはとても大事だと思います。間違ったお手本に惑わされないように。

2023/4/11 <身体の正しいアライメントと個性>

 

 胯を回転させるにしろ、関節を回転させるにしろ、回転させるためにはそれなりにの身体のアライメントが必要になるのだけど、その反対に、回転を練習することによって身体のアライメントを調整することができる。

 

 身体の正しいアライメント、というのが太極拳の鍵になる。

 身体というのはただ筋肉や骨・皮でできているものではない。その中には内臓があり血液があり水分があり、そして息の通り道、そして気、空間がある。これら全てをひっくるめての身体。

 これが正しく整えば太極拳が真の太極拳になるだろうし、その反対に、太極拳を正しく学んでいくことによって正しい身体のアライメントに近づいていくはずだ。

 

 身体の正しいアライメント、いや、身体の正しい在り方、理想的な在り方、というのは普遍性があるものだ。太極拳だけにしか通用しないような身体のアライメント、在り方、というのは間違っている。そういう意味で、巷で行われている太極拳の競技、試合のルールは太極拳を違うものにしてしまっているきらいがある。メディアに出てこないような真の老師達はそもそもそのような試合に無関心だ。別物、だからだ。

 

 私自身は劉師父に出会う前までは日本でそんな太極拳を学んでいたから、劉師父に付いた頃は何を練習させられているのか良く分かっていなかった。毎日1時間も1時間半も立たなければならないのは何故なのか、丹田回しを毎日欠かさずやるのは何故なのか、結局、それがはっきり分かるようになったのは最近なのかもしれない。

 

 半年くらい前からオンラインでバレエのバーレッスンを習い始めた。

 太極拳の練習にタントウ功や内功の練習が必要なように、バレエにはバーレッスンが必須だ。でも、バーレッスンがどのようにバレエダンサーの体を作り上げていくのか、それは自分で体験してみないとわからないと思った。ラッキーなことに、私のようなバレエをやったことのない超初心者にほとんどマンツーマンで、解剖学的なことから息の運び方まで教えてくれる先生と出会うことができた。バレエは身体に歪みがあると踊れない。片足で立って高く脚を上げたり、回転するには太極拳以上に軸がしっかり正確に捉えられなければならない。バーレッスンの練習を通じて、そこにもやはり、内側の空間、気、が必要になること、それによって身体が内側から伸びること、身体が開いていくことが感じることができる。この歳から始めたにしては進歩がとても速いと褒められるのは、もちろん、太極拳のベースがあるから。バレエの練習の方が太極拳の練習よりもキツく、曖昧さが許されない分、理解しやすいところもある。太極拳は中国的で曖昧なところもあって(「松」はその代表)解釈の余地を残している。解釈の余地のない的確な指示というのはどこか新鮮だ。太極拳の『含胸』や『斂臀』というのもバレエを学ぶことによってはっきりと意味が分かるようになった。やはり、そのような要領は太極拳特有のものではなく、「正しい身体のアライメント」としての普遍性があるのだ!

 

    太極拳を学ぶ醍醐味は、それによって普遍的なものが見えるようになること。それは身体に限ったものではないのだが・・・

 

  日本国中が熱狂に包まれたWBC。

  日本の投手陣の粒揃いのレベルの高さが際立った。

  私はダルビッシュの投球フォームが最も均整がとれている(真っ直ぐで癖がない、と言う意味)と思ったが、彼は”軸”の人だ。比べて大谷君は”回転”のフォームだった。太極拳も軸で動くこともできるし、回転重視で動くこともできる。套路練習ではさまざまな”フォーム”を練習できる。どれも正しい。正しい中にもバリエーション、個性がある。

 

投げる前、気を丹田に沈める時(合の時)の形にも差がある。

左のダルビッシュは背骨を真っ直ぐ伸ばし直線で足先まで繋いでいる。足先まで繋いでいる分、丹田に溜める意識は薄くなる。体全体を”繋ぐ”フォームだ。

 

右の大谷君は含胸をしっかりやって腹底に気を沈めている。背骨は丸めになる。

 投げる直前、右の大谷君の含胸がマックスに達して完全に肩(高岡氏が肩含体と呼ぶ箇所)が浮いている(独立している)。

左のダルビッシュと比べるとその違いがはっきり分かる。

  大谷君は体の柔らかさを生かして体をマックスに開いている。

  ダルビッシュは縦ラインをつないだ投げ方になる。

 投げ終わり。

大谷君の体は回転がかかっているので、後ろ足が振り回される。一本脚のピッチングのようになる。ダルビッシュは相変わらず背骨(頸椎を含)の立てラインをしっかり足までつないだ均衡のとれた姿勢。散じる気の量はダルビッシュの方が少ない。軸を通して軸で動くと省エネになる。回転をかけるとエネルギーが放出される分消耗が激しくなる。

 

 


  大谷君のような可動域の大きい柔らかい動きは若者の動き。

  ダルビッシュのような動きは省エネ、熟年者の動き。

  太極拳も同じだ。一人の師の動きも徐々に変わる。

 

  猫やチーターのように背骨の柔らかい動物は短距離は速いが長距離には弱い。

  これに対し、犬のように背骨が硬めの動物は長距離に強い。

  硬質な背骨と、柔らかい背骨、そんな違いがあることを上の二人の比較で思い出しました。

 

2023/4/9 <関節は曲げ伸ばしではなく回転させる>

 

 股関節を曲げるのではなく、胯を回転させることができるようになると、日常的な動作にも違いが出てくる。

 

 そもそも、関節は<回す>ように使う。

 それは太極拳特有の体の使い方かと思っていたこともあるが、今ではそれが正しい体の使い方だと分かる。

 関節を<折り曲げたり伸ばしたり>して使うのは正しくない。

 

 正しい、正しくない、というのは、<関節の連動>という観点からだ。

 

 肩関節の動きが肘関節と連動し、肘関節の動きが手首に連動し、手首の動きが手の中の関節の動きに連動し・・・というように連動が波紋状に広がっていくと、体は関節の連動で一まとまりで動くようになる。

 <関節の連動>は『節節貫通』

 <全身がひとまとまりになること>は『周身一家』

 と言われる。太極拳でのキーワードだ。

 

 関節を回転させるように使うことで次の関節と連動させられるようになる。

 関節を曲げ伸ばしして使うとその関節を構成する2本の骨だけの運動で終わってしまう。

 太極拳で筋肉を螺旋状に引き伸ばして体を使うのは、関節の回転運動を促して次の関節に勁を伝えるためだ。

 

 股関節も然り。

 ただ鼠蹊部を折り込む、というのはナンセンスだ。

 それでは腰が落ちて体重が太股以下に乗ってしまい身軽な動きができなくなる。

 スポーツ選手には当然の常識が太極拳では非常識になっている。

 

 鼠蹊部=前胯は、胯(寛骨)全体の一部として捉えるべきだ。

 左右の胯(寛骨)を回すように使うことによって鼠蹊部が松することも分かってくる。

 鼠蹊部を緩めやすいのは、胯の前回転(逆回転という)だ。

←胯の前回転(逆回転)

 

鼠蹊部(前胯)は上から下へ

内胯は恥骨から肛門の方へ

後胯は下から上へ

と回転

 

お尻は氾臀になり、気は上向きに上がりやすくなる。

ジーや打はこの前回転(逆回転)を使う。

  

  胯の後回転(順回転)

 

  鼠蹊部(前胯)は下から上へ

  後胯は上から下へ

  内胯は肛門から恥骨の方へ

  と回転

  

  お尻は斂臀になり、気は足の方へ流れる。リューやアンではこちらを使う。

 

 

  レッスンではいろいろな動きでこの胯の回転を試してもらった。

  椅子に座る時、立ち上がる時、しゃがむ時など、日常的に練習できる。

  そうすれば馬歩や弓歩も胯の回転でできるようになるだろう。

  すると内胯に力が出て足とダイレクトに繋がるようになる。

  これが馬歩や弓歩になる意義だ。

  (このへんは文章では書けないのでその部分だけでもレッスンを受けてもらいたいところ。)

 

  胯を回転させているかどうかで動きが別物になる。

  生徒さんたちの反応を見ると正座がとてもよく分かるようだ。

  

  そして例えば前屈

  左:https://beauty.authors.jp/style/37987

   右:https://news.yahoo.co.jp/articles/9c6fff7a979b0171e87cf5ead633de739ceb33b7

 

 左はよく見る前屈

 特徴は腰椎が丸まって脚が後方に傾いている。

 

 右は脚が地面に垂直で腰椎が伸びている。お腹が太股に近づくような感じで背中が真っ直ぐ。

 

 これらを胯の回転から説明すると、

 左は胯が回転していない。前胯(鼠蹊部)の松がなく、ただお尻側を伸ばしただけだ。

 これに比べ、右は胯を回転させている。特に前胯(鼠蹊部)を後ろに引いて、前胯→内胯→後胯→上を通って前胯へ という胯の前回転をさせている。胯の回転によって踵からつま先まで使えているので脚は地面に垂直に立つ。

 

 左は胯を回転させず前胯(鼠蹊部)が使えていないのでつま先が地面を捉えられない。踵に乗ってしまっている(踵に乗ると踵を使えません!ここもよく誤解されているところ。踵から力が出せるのは右側の画像の足の状態です。)

 

 左側の画像の人自身はどういう意識でこの前屈をしているのだろう?と調べたら、案の定、胯の回転を練習していました。https://www.instagram.com/p/Cn-f2P1yJZ-/?img_index=3

 

 折り曲げる意識 VS 回転させる意識

 これで体の使い方が全く変わります。

 ストレッチをただ筋を伸ばすことだと思っていると、筋を痛める。

 関節の回転が大事。

 太極拳の動きには随所に回転が入っている。胯の回転は必須。これをしないと膝や股関節を痛めてしまう。

 私自身もレッスンをしながら胯の回転の重要性を再認識したのでした・・・

2023/4/6 <胯の要領;アシモ君と能のすり足>

 

  昨日アシモ君を引き合いに出したら、生徒さんの一人から、「昔アシモ君の歩き方を真似ようと研究していたことがありました。」というコメントをもらいびっくり。でも、簡化を大真面目に学んでいる時はそんな歩き方が正しいと思うこともあるのかもしれない、と妙に納得しました。

 

  アシモ君の歩き方に似ているといえば、能のすり足。

  でも、能のすり足も『松胯』=胯の回転でなされているはず。

  単に股関節を前後に動かしているわけがない・・・

  と、あたりをつけて動画検索してみたら、なるほど、その通りでした。

  例えば下の動画。(後で気づきましたが能ではなく日本舞踊の家元の動画でした。)

 

  すり足の説明は動画の10分より後から。

  それまでは

  ・掃除機で吸われるイメージを使って上下の軸を通すやり方

     (→実質的には虚霊頂勁を作るやり方)

  とか

  ・骨盤の左右を上げ下げして歩く練習

      (→胯の車輪を動かして歩く練習)

  ・腰ひねり (→中丹田を活性化させる 固めないようにする作用)

  をさせています。

 

 

  これらは体を引き伸ばして足を(少なくとも)腹から操作できるようにするための準備。体の引き上げが弱いと体が沈んでしまって(注意:丹田を沈めるのと体が沈むのは別物)関節の隙間が狭くなり膝を固めて歩くようなアシモ君風になってしまいます。

 

   また、動画では歩く要領として、

   ・”肩”から足までつなぐ  (股関節から足までをつなぐ、のではないことに注意)

 

   そして

   ・<股関節と膝関節を曲げて腰を落とす>

   と、それだけだとアシモ君になってしまう要領を言った後で、

   ・ <膝は柔らかく><腰はふわふわと>

    という決定的な言葉を使っています。

 

    <腰はふわふわ>

     日本語の<腰>は骨盤上部を意味するので、中国語だと<胯>と被ります。

     つまり、胯は緩んでいなければならない、ということです。

     この動画の師範が<股関節>という言葉を使ったのは一度だけ。

     それよりも骨盤や腰の捻りの練習、そして軸を作る要領を教えています。

    

   

  

  最後に、

 ・<腰を安定させる>というのは、骨盤が立つ、という意味です。

  腰(骨盤)をふわふわさせてその中の回転で脚が運べるようになると、中には空間があるけれども、外から締まりが出てくるようになる、その心地よい締まりが<腰の安定>もしくは<骨盤が立つ>ということです。太極拳だと、少し仙骨を内側に入れる、という要領です。 まずは腰のふわふわ(松腰、松胯)、これができてから、仙骨を少し中に入れる(

敛臀)です。 腰のふわふわを作らずにお尻を中に入れると股関節にロックがかかるので注意。

 

  最後の最後の締めで、、<バランス感覚がよくなり動作が美しくなる>と師範が言っているのにも注目しました。「バランス感覚」、つまり、重力を利用している感じです。アシモ君は完全に重力に引っ張られている。人間は重力を利用して立っている。それは人間は体の中に空間があるから。膝を柔らかく、とか、腰がふわふわ、という表現の中には、膝や腰の中に空間があることを示唆しています。別の能の師範の動画では<丹田>をキーワードに使っていましたが、丹田も空間です。アシモ君が<空間で立つ>、という感覚を得るのはなかなか難しそうです・・・

  そして、<動作が美しくなる>

  それは、全体が連動して協調して動くからです。歩くのも脚が歩くのではなくて全身が歩いている。

 

  能(日本舞踊)の歩き方の基本の要領はそのまま太極拳に当てはまります。

  動画、とても参考になりました。(特に掃除機で吸う要領 笑)

 

  アシモ君と能(日本舞踊)のすり足は一見似ていて、まるっきり質が違うのも理解できました・・・

2023/4/5 <鼠蹊部を緩める、とは? その2>

 

 鼠蹊部を緩める、といって、鼠蹊部を後ろに引いて膝を曲げている人が多いのが現在普及している太極拳の現状。普通のスポーツをしている人達から見ると少し不思議な形だろうと思うが、逆にそれが太極拳っぽいとウケていたりするのかもしれない。

 

 鼠蹊部をただ後ろに引いて中腰になると、私が数年前に未来館で見たアシモ君みたいになる.。

 

 

 

 

 

  なぜこのような膝の曲がった動きになるのだろう? 私はその原因の一つは、股関節の捉え方だと思う。

 私たちは無意識に、脚は胴体と股関節で繋がっている(左の人形のように)と思ったりしていないだろうか?

 

  胴体の下にある”股関節”が動くと脚が動くと捉えた場合・・・

  この球を前後に動かして進めば前進できると考える。すると上半身は股関節に乗っった荷物のようになり、股関節より下が上半身の重さを全て支えて歩行を行うことになる。前腿に体重が乗り、膝に負担がかかる。上半身は固まり、上半身と下半身は上と下、と完璧に分断するだろう・・・

 

  しかし、人体はそのようにはできていない。

  太極拳の『松胯』は「鼠蹊部を折り込んで」アシモ君のように動くことではない。

 

 ロボットに人間と同じような二足歩行をさせるのは本当に難しいのが分かる。

 

 アシモ君は歩くと腰が落ちて膝が曲がっている。 これは日本人の老人に見られる歩き方、そして、太極拳の入門として練習する簡化太極拳の姿勢に似ている。


 そして胯は大きく、前胯(鼠蹊部)、後胯(お尻側の三角ライン)、内胯(股間、恥骨と坐骨の間の両腿の付け根)、傍胯(腸骨ライン)に分けることができる。

 

 

そして『松胯』とは、

①順回転

・・前胯→傍胯→後胯→内胯→前胯・・

もしくは

②逆回転

・・前胯→内胯→後胯→傍胯→前胯・・

 と回転させることです。

 

  もしアシモ君が胯を回転させて歩けたら、人間のように歩けると思いますが・・・(続く)

  

2023/4/5

 

 鼠蹊部を緩める、といって、鼠蹊部を後ろに引いて膝を曲げている人が多いのが現在普及している太極拳の現状。普通のスポーツをしている人達から見ると少し不思議な形だろうと思うが、逆にそれが太極拳っぽいとウケていたりするのかもしれない。

 

 鼠蹊部をただ後ろに引いて中腰になると、私が数年前に未来館で見たアシモ君みたいになる。

2023/4/3

 

  鼠蹊部(Vライン)の話をまだ終えていないのですが、先に先週の御苑でのレッスン動画の一部を紹介します。

 

  これは、太極拳の動き、いや、人間の動きの基本の基本、体の前後の動きです。

  王子の三種の神器もこの練習・・・実はこれは丹田の中の気の動き。

  内功で丹田回しをすると自然にこの動きが身に付くようになっています。

 

  この動きが太極拳の動きでどのように使われてるのか。

  動画を見て、それなしに太極拳は成り立たないことが理解できれば良いですが。

  なぜ背骨の<弓>が必要なのかも分かるかなぁ。

  弓を作るのに丹田(内気)が必要です。

 上の動きは推手の基礎になります。

 太極拳は<打つ>練習ではなく<推す>練習をする。

 それは太極拳の<推す>動きの中に太極拳の<打つ>動きが含まれているからです。

 ちゃんと推せればちゃんと打てる。

 <推す>=挤(ジー)をリューでかわす単純な練習があります。

 簡単なようで奥の深い練習。

 相手の体の状態を捉えて隙を狙う 相手に接した手は聴診器。手で相手の体の状態を探る。とても面白い練習です。

 

  (動画は1分で収めようとして少し早送りしています。早口なのはそのため)

2023/3/29 <鼠蹊部を緩める、とは? その1>

 

 太極拳で『股関節を緩める』(松胯)という指示があるとやってしまいがちなのは、鼠蹊部を後ろに押し込むような動作ではないかと思う。私の師も、生徒さんの鼠蹊部を手で押して、「ここを緩めろ!」ということがある。だけれども、ここはよく注意しないと(師が狙っているような)効果が得られない。ただ単純に鼠蹊部を後ろに引いても太腿の筋肉を鍛えているような形にしかならない。真の『松胯』はどうなっているのか? これを鼠蹊部(前胯)を起点にして説明してみたい。

 

 が、それには、その前提を理解してもらわないといけない。

 ここ数回のブログはその前ぶり。

 

 ① まず、<鼠蹊部を緩める>前に、鼠蹊部が引き上がった正しい立ち方を確認すべき。

 

 

←https://www.kotoni-seikotsuin.com/column/387の画像に注意書きを書き込みました。

 

正しい姿勢は鼠蹊部が凹んでない姿勢。

そういう意味で、前回は大谷君や馮老師の立ち姿を載せました。

 右の画像→

内胯からVラインが引き上がった立ち方集合。

Iライン、Vラインの回転で上体が立つと、胸を出さずに立つことができる(胸は含胸ぎみ)。

  ただ、右の下段の右の画像(正しい姿勢として作った姿勢)は股の回転がないまま上体を立てているのでや胸や腹が出ている(腰がそり気味)。その他の画像と比べると上半身が固まっている感じがすると思います。

 

  そして、このように順回転して引き上がったVラインを、逆に回転したものが、股関節の松(鼠蹊部を緩める)、という意味。

  腰の王子の「おはようおやすみ」体操で狙っているのはこれら順逆2つの回転の連動。その前に「コマネチスリスリ」でIラインやVラインの伸びを習得させるのだと理解しています。

 

 そう、回転には、<伸び>が不可欠。

 

そんな中で究極的なお手本はマイケルジャクソン。

 

 Vラインがしっかり引き上がっているのが分かると思う。

 

 いや、ただVラインが引き上がっているのではなく・・・(ただVラインを引き上げようとするとお腹が出ます),大事なのは、VIOのIライン(股間の底部分)の左右の脚の付け根(=内胯)の回転。

 すると、左のように周天の底部分が回転してVラインが引き上がったようになります。

 

 これが普段、立ち上がっている時の理想的な姿勢。


<参考>

マイケルは内胯使いがとてもうまい→股関節の使い方が抜群。

軸がぶれず、軽快、そしてキレ、足裏がいつもしっかり床をとらえている。足首の動きだけ見ていても美しい。関節を総動員した動き。

股関節を緩めても伸びが保たれていることに注意。

 

(マイケル見てから他のダンサーを見ると股間のキレがイマイチな印象。マイケルは周天がちゃんとできているから股関節がキレキレなんだと思う。)

2023/3/26 <歩き方から立ち方、小周天 鼠蹊部へ>

 

 <昨日の続き>

   大谷君とよく見かける日本人の歩き方の違いは、前脚に体重が乗った時の姿勢を比べると一目瞭然。

   軸脚がしっかり伸びて地面を押せているかどうか、ここが大きな違い。

 

 大谷君の歩き方は軸脚がまっすぐに地面を押して、その間に後ろの脚が前に降り出されるようになっている。つまり、軸脚が地面をしっかり押しているから、蹴り足が振れる、という関係。

 これは大谷君だからできる、ということではなくて、本来人間はこのように歩くようにできている。実際、子供たちはそのように歩くし、外国に行けば大人もほぼそう歩いている。

 

←馮志強老師も同じ。

軸脚は膝が伸びてまっすぐ。この軸脚を使って後ろ脚が振り出される。

 

 

 

 

 

 

そして、馮老師と大谷君の何気ない立ち方は左のような感じ。

 

このように立っている人たちだから、歩くと上のようになる。

 

ただ、左下のようないわゆる「良い姿勢」とされているものとは違うことに注意。

 

 

https://www.karakoto.com/kksef/

 

このような作った姿勢と、上の二人の立ち姿には核心的な違いがある・・・だから、左のような「良い姿勢」を取ったからと言って必ずしも必ずしも正しく歩けるわけではない。

 

パッと見て分かる違い

 ・「良い姿勢」は上半身の緩み(放松)がない。

 ・大谷君、馮老師は上半身が放松している。軽く含胸をして腹以下に気が下りている。足に力がある(いつでも地面を蹴って歩き出しそう) 上虚下実

  ・「良い姿勢」は上半身に力がこもっていて足に力がない→すぐには動けない。上実下虚

 

  そのような違いが生まれる理由は、大谷君や馮老師は内踵から内腿、会陰、背骨の前を通過する軸で立っているから。

  「良い姿勢」は軸ではなく体で立っている。

 

 つまり、冒頭の歩き方の違いは、背骨の前にある軸を通せているか否かの違い。

 

 

 


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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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