2023年4月

2023/4/27 <S字カーブを取り戻す努力 座り姿の見直し、カーブの連結の仕方>

 

 一昨日のレッスンポイント

 

 2. 椅子に座る時の姿勢の作り方から背骨の立て方を学ぶ

 

   https://youtu.be/2uahtt0JzgU

   の動画の中で犬飼さんが背骨を立たせるために使っていたメソッドがとても興味深い。

   腰椎、胸椎、頚椎の正しいアーチをそれぞれ丁寧に扱って、最後にしっかり骨盤が立つように導いている。

  そもそも背骨がS字カーブを描いているのを前提に、そのバネを引き伸ばすことによってエネルギーを蓄積させようとしている本来の意図を果たすことができない。

  昔、その問題に直面して師父に相談したら、「まずS字を取り戻すように指導しろ!」と言われてまた困ってしまったことがある。太極拳をする前にまず猫背を直してこい!というようなものだからだ。猫背を直したくて太極拳を習いにきた生徒さんはどうすればよいのか?なんて真面目に悩んだこともあった。

 

  今では猫背や平腰の生徒さん達の指導も慣れた。引き伸ばして回す練習をたくさんさせれば良いのだ。けれども、大事なのは、普段の生活でそれらの生徒さん達がどのような姿勢なのか、特に、座り姿勢だ。背骨のS字カーブを作るにも筋肉を躾ける必要がある。躾けるには気合いと忍耐がいる。年月をかけて崩れた姿勢はそんなに簡単には直らない。でも諦めずに毎日躾けていけば必ず変化が出てくる。

 

   正しい座り方は坐骨で座ることだ、と言うのは知っていても、それだけでは座り続けられない。というのは、坐骨で座ってもその上の胴体の立て方がわからないからだ。立て方が分からないから胴体を硬直して座ってしまえば、疲れてすぐに仙骨座りに戻ってしまう。

  胴体を立てるには背骨の3つのアーチを利用して、ある意味、”引っ掛けて”いかなければならない。骨盤だけでは背骨は立たないのだ。

 

 犬飼さんの指導の要点を書くと

 ①まず寝かせていた骨盤を立てる

 ②骨盤を立たせた時に肋が前に突き出てしまうだろうから、両腕を内旋して頭を垂らして下を向いて肋が収まるのを確認

 ③そうしたら骨盤と肋の位置を変えないように、両肩を持ち上げて両腕を外旋し肩をグルッと回して後ろに降ろす。

 ④最後に、胸の上の方を前に突き出して頭を後ろに倒し、両耳たぶのしたの窪みを貫く軸を使って頭を起こす

 

  ①と②で腰椎がグイッと伸びるはず。お尻がしっかり椅子を踏めれば、腰椎は上下に伸びる。太極拳で言うところの『提会陰』『敛臀 』『塌腰』がここで行われる。

  そこに、③を組み合わせると胸椎がグググっと伸びる。肋が前に出ないように肩を回して後ろに落とすのはなかなか難しい。かなり腹圧(丹田の力)がいる。(太極拳の『抜背』)

  そして私が感動した④。これで頚椎のカーブを作る。腰の王子が最も重視する「上部胸椎」は頚椎のカーブを作るのに必須だ。

 

  胸椎3番あたりまでを使って首を立てる(頚椎の前弯を作る)方法は動画を参照してください。

 これがうまくできると、下顎が入って、肩が更に沈み、骨盤がギュッと立ちます。

 ここまですべてやると、自然に背骨が立つ。

 と、感動的でした。

 私は歩きながらも①から④を思い出しながら再現したりしています。

 立ってやるとタントウ功の要領、足を組めば座禅の要領になります。

 頚椎をちゃんと立てられる太極拳の先生はなかなかいないので、犬飼さんの方法を参照するのはおすすめです。(が、生徒さんにこの④を試してもらったら、案の定、上部胸椎が動かず、首だけで頭を後ろに倒してしまっていた。(頭を後ろに倒した時に、首がカクッとなって顎が上がってしまうのは胸椎を連動させてない証拠です)→上部胸椎も含めて首回しをする方法を生徒さん達には教えました。)

 

 歳をとってくるとガニ股、O脚になる人が多いのも、仙骨座りの影響とのこと。

 坐骨で座ると、恥骨と内腿を一緒に使うのでガニ股、O脚になりにくい。

 S字カーブを取り戻す努力は地道に続ける必要あり・・・

 

2023/4/27 <腕の捻りがチャンスーになる条件 広背筋 そして仙骨へ>

 

  昨日のレッスンポイント

 

 1.両腕捻り

  →太極拳の纏糸(チャンスー)の基本になる

 

   手のひら上向き→手のひら下向き:逆チャンスー

   手のひら下向き→手のひら上向き:順チャンスー

 

  <肩の付け根>から捻るのが大事!

   厳密には、肩関節、すなわち、上腕骨骨頭を回す意識が必要

 

   腕を適当に捻ってもチャンスーにならない

   チャンスーは関節の連動を引き起こすような動き

   関節を次々と回転させながら全体として捻りの動きをもたらす

 

   手首を握られた時にそれを解く技があるが、その時も、握られた手首を回すのではなく、握られた手首は放っておいて、肩関節の隙間から腕を回すようにすると結果的に手首も回って相手の手が外れるようになる。もたれた箇所は動かさないのが基本。もっと根本の箇所、究極的には丹田を回せば手首も回ってしまうことになる。

 

  両腕捻りの練習で、どこから腕を捻っているのか、自分できちんと観察することが必要。

  多くの場合は、肩から捻っているつもりで肘から捻っている。もしくは前腕や手首の力で腕を捻っている。

  肩関節の中から捻ろうとするならば、含胸をして肩関節の中に隙間をとってそこを回す必要がある。

  肩関節の中に隙間(上腕骨の骨頭と肩甲骨側の臼の間の隙間)を作る意識は、言い換えれば、腕を肩関節から引き抜くような感じになる。

 

  関節は隙間がないときれいに回らない。

  (骨と骨の間が詰まってしまうと関節は機能しない)

 

 

2023/4/26

 

  オンライン生徒さん達へのレッスン参考資料をこちらにアップします。

 

 1. 両腕捻り 広背筋を緩める

  https://president.jp/articles/-/68108

 

 

 2. 下の動画の40秒〜1分20秒あたりまでを見てやってみてください。

  正しい座り方の作り方を指導しています。

  骨盤の立て方、腰椎、胸椎、頚椎を伸ばす方法を簡単に教えています。

 

  レッスンでは1と2が太極拳でどう使われているのか模索しましょう。

 

2023/4/25  <腰を入れることと骨盤を立てること>

 

  『腰を入れる』、『腰を割る』、『腰のキレ』、

  スポーツではよく耳にするが聞く言葉だが、それは

  『骨盤(仙骨)を立てる』ことを前提にする。

 

   骨盤が立てば 腰が入り、腰が割れ、腰がキレる。

 

   骨盤は立てようとしても立たない。

   骨盤が立つ、というのは、<骨盤が立ったような感覚が得られる体の内部の状態>が作られる、ということだ

(←の図:https://www.mcdavid.co.jp/sportmed_anatomy/back-waist/より)

 

骨盤が立つというのは腰椎と仙骨、そして骨盤の両翼を構成する胯(kua)=

(腸骨・恥骨・坐骨)が一体となって動くような状態だ。

 

単純に言えば腰椎をまっすぐ仙骨に乗せるようなことだが、それには、腹圧で腰椎を後方に押し続けておく必要がある。

 

太極拳で「気沈丹田」と言われているのは、丹田という腹圧で命門穴を押して骨盤を立てておく、ということに他ならない。

 

   師父などは「骨盤を立てる」というような語彙はそもそも持っていない。昔ながらの中国の言葉で同じことを説明する。

 「命門を開けておけ」とか、「会陰を引き上げておけ」、そして「丹田の気を沈めて胯を動かせ」、「骨盤は 内撑 外裹」というような指導は、とりもなおさず、、<骨盤を立てて腰を割らせること>に等しかったのだ。

 

  私の卓球は『腿』で動いて『腿』で打ってしまって、『腰』で動いて『腰』で打つところには至らなかった。劉師父に太極拳を一から学んでやっと腰を割って腰のキレを使うことを覚えた。遡ってみると、私が学生の頃は、やたら『脚=腿』重視の練習だった。中学3年の春に日中親善試合のために代表団の一員として北京に行った時、現地で10日間ほど中国の教練の指導を受けた。その時に教わった打ち方は日本のコーチからはやってはいけないという打ち方(足の運び方)だったことを鮮明に覚えている。中国のコーチが教えていたのは右前に落ちた球を、右足を出して右手で打ち、打った瞬間に右足を元に戻す、というようなものだったが、こうすると体幹部(腹腰)で動いて打つようになる。日本なら右前の球は左足を出して右手で打っていた。それは脚がメインになる。今では日本の卓球界に中国のコーチがたくさん入り込んでいるので、かつての中国的な打ち方も当たり前になっている。が、潜在的に腹腰胸のパワーは日本選手は中国選手に敵わない(特に女子)。

  数年前に全日本チャンピオンを出しているある女性指導者と偶然太極拳の集まりで顔を合わしたことがあったが、彼女が太極拳を学んでいる理由が、「中国の卓球が強い理由が太極拳を学べば分かると思ったから」と言っていたのはとても印象的で、とても的を得ていると思った。

 

  話を戻して

  太極拳でタントウ功をしたり体重移動の練習をするのも、骨盤を立ててしっかり腰で動けるようにするため、と再認識。特に、体重移動は腰を割らないとできない。腰を割らないで重心移動をすると中心軸がブレてしまう。「尾闾(尾骨)正中」とか「膝とつま先が一致」というようなことは「骨盤が立って腰が入っている」ことの現れなのだ・・・目に見える現れだけを真似しても本質は得られない。

 

 

2023/4/23 <太股ではなく腰! 腰を入れる、腰を割る、腰のキレ>

 

  本棚の整理をしていたら、大学時代からお世話になった辻歓則さんの『卓球語録』の草稿が出てきた。私に読んで感想を教えて欲しいといって渡されたものだ。

  辻さんはバタフライという卓球用品会社の部長で、かつ、そこに設立された卓球道場の長だった。バタフライの卓球道場にはかつて世界チャンピオンだった伊藤繁雄さんや長谷川信彦さんがコーチとして所属していて、日本だけでなく世界各地から一流の選手が練習に来ていた。

  そんな道場に、なぜか東大卓球部は出入りを許されていた。先輩の話によると、それは辻さんが、頭が良い子たちに卓球を教えたらどのくらい上手になるのか?というのをゆうが実験したいから、ということだった。

  私を東大の卓球部に入れるように呼びかけたのも実は辻さんだった。

  東大の駒場の門で私の中学生時代の写真を手がかりに私を待ち伏せしていた卓球部の先輩、その裏にバタフライの辻さんがいたのを知ったのはもっと後のことだった。辻さんは私の出身地、香川県の高瀬町から出た日本女子チャンピオン、松崎君代さんと仲がよく、そこから私のことを知って東大の卓球部に手を回したということだった。

 

  さて、冒頭に戻って、本棚から出てきた草稿。ある高校で指導した時の『卓球語録』としてある。ぺらぺら捲ると目に入った文章が・・・

 

  ・・・「肝腎要』という言葉を君たちは知っていますか?・・・要はこれは<腰>のことだ。卓球は、体、脚、腕などをあるゆる方向に転換して動かしたり、同じ方向に連続して動かしたり、360度の方向に動き回ってラケットを振り、ボールを打つスポーツだ。しかもそれを瞬間的にやらなければならない。

 それだけに、上半身と下半身をつなぐ腰の果たさなければならない役割は大きい。

 それぞれの関節を動かず筋肉の働きをきちんとさせ、それを体の軸をぐらつかせず、一つの動きにまとめているのが腰である。体全体の動きを最大のパワーにまとめ、打球の力を生み出すのが腰なのである。

  このことから、当然、腰を鍛えるトレーニングを重視して多くやるのである。

  君たちがよくやるフットワーク練習、これも・・・・脚を大きく交差させて大きく動き重心移動して打つことで、腰を鍛えることもやっているのである

  この練習をきちんとやることによって腰の動きのキレがよくなってくるのだ。

  腰が割れるようになり、威力のあるドライブ、カットが打てるようになる。

  卓球では打球を正確で威力あるものにするには、腰を入れることが上半身と下半身の力を一つにして打つことが重要であり、その腰のひねりが、このクロススタンスの動きでスムーズに行うことができるようになるのだ。

  ・・・クロススタンスですばやく足の三指(親指、人差し指、中指)で床をけって大きく動くことで腰のキレを鍛え・・・ 無理なく無駄なく素早く一番よい動きが自然にできる足捌きを覚え込ませるのである。

  腰の良いキレを体に覚え込ませるには、きちんそ足腰の切り替えをやり打球することだ・・・

 

  以上、100ページくらいある『語録』のほんの一部。<腰>について書かれている部分だ。

  私が今見て、ハッとしたのは、あの卓球のフットワーク練習は、腿』を鍛えるのではなく『腰』を鍛える→<腰を割る>、<腰を入れる>、<腰のキレを良くする>、練習だったということだった。

 

  腿ではなく腰!

 

  太極拳と同じだ。

  上半身と下半身をつなぐのが腰。ここが上下相随の要。

  そして腿と腰の違い、これが、4/15のブログに載せた陳家溝と今普及している太極拳との違いだ。

  そして、大学生の時に伊藤さんに言われた、「腿で打ってるなぁ」という言葉の含意は、「腰で打ちなさい!」ということだったということだ。(このことは、太極拳を初めてしばらくして気づいていました。私の卓球の限界はそこにあったのだと。太極拳で腰を使う練習をしたら卓球の打ち方も変わりました。)

 

  卓球のフットワークの時の姿勢は太極拳に通じるところがあるので参考になります。

←現世界ランキング一位の樊振东のフットワーク。https://youtu.be/iDLxRYSun2M

 

腰が沈んで浮かない

辻さんの言葉では<腰が入る>という状態。腰が入ったまま動き続けられるのが一流選手。足裏が柔らかく床をしっかり捉えられている。脛から足裏までの力が強い。

 

←フットワークの基本について解説した動画 https://youtu.be/RQP3J8uCmRY

 

 腰が入っていないので、脚だけで重心移動してしまっている。

 腰が割れていない状態。

 腰がふにゃふにゃ(くちゃくちゃ)しているのが見える。

 

上の樊振东の腰と比較すると明らか。

 

 <腰が入っている>状態は、言い換えれば『気沈丹田』の状態です。

←初心者用のフットワークとして足指を使うことを教えている動画

https://youtu.be/obPdMvX6YVs

 

腰については言及なし

腰が浮いて膝(太腿)で打っている。

スネからしたの力が弱い。

 

結局、この動画と一つ上の動画は、丹田が腹に沈んでいない状態。腹圧が弱い。したがって腰が活きない(活腰でない)。

 

 

また、上の樊振东は腰が入って园裆、こちらは、腰が入っていないので尖裆

←馬龍 https://youtu.be/4ocQyC_9xY8

 

 後ろから見ると腰が非常に柔らかいのが分かる。この上の動画の人と比べると腰のなめらかさが際立つと思う。

腰がキレる、というのは、このなめらかさ、柔らかさを前提にしている。柔らかくないのにキレさせようとすると腰を痛める、もしくは可動域が少なくなる。また、腰が入っていない状態での腰が<軟らかい>状態は、腰に力がない状態。柔らかいのはOK。軟らかいのはNG. 腰が柔らかいのは腰が沈んでいるのを前提にしています。

当然、脛下に力があります。

←これも馬龍

バックハンドを見ると、腰のバネ、キレで打っているのが分かります。

2023/4/18

 

 前回の陳家溝の村人の太極拳と現代の太極拳の違いが分かりづらいかもしれないので、それに関連した動画を撮りました。

 

 「上虚下実」と思っている形が実は「上実下虚」になっていないか?

 「上虚下実」になれば次第に「上下相随」になり、縦の繋がりがでてきます。

  この体の縦の繋がりが太極拳のキモになります。(これが太極拳の技の前提になります)

2023/4/15 <1980年代の陳家溝の記録から>

 

  武術大好きな生徒さんが興味深い動画を送ってくれました。

  1980年代の陳家溝。太極拳の源流、陳式太極拳の発祥の場と言われている村の当時の様子が撮られています。

 

  後半は世界的に有名な第19代陳小旺の紹介ですが、私的には、前半の村人の練習風景の方が興味津々でした。

  皆上手い!

  と私が言うのも恐れ多いのですが、当時の陳家溝にはまだ太極拳のエッセンスが残っていることが分かります。長老や先輩達が村の子供、青年に正しく伝えていた、そんな風景も垣間見られます。日本語字幕もあるのでぜひ見てください。太極拳はどういうものだったのか、雰囲気が分かるはずです。

 太極拳が手足の運動(四肢運動)ではなく、体(胴体)をつかった運動だというのが村人達の動きから感じられるでしょうか?

 現在教えられている太極拳はなぜか胴体を真っ直ぐに硬直させて腿や膝に過度な負担をかけて動いている・・・これは、太極拳が演舞や競技目的のものとして広まってしまったことが原因していると思うのですが・・・・ 本来は太極拳は相手からの攻撃に対応するもの、そして内臓を含めた身体を鍛えるためのものでした。目的が違えば体の使い方は変わります。

 

左は上の動画の冒頭部分。

村人達の練習風景。

 

動きがとても自然。

胴体と脚が一緒に動いています。(上下相

←現代の太極拳(中国の公園  https://youtu.be/o6pCdo4YICY)

 

下半身の台の上に胴体の塊が乗っかっている。下半身が重い。

体重が腿に乗っているため、股関節や膝、足首に負担がかかる。

 

上の陳家溝の人たちの動きは腿や膝に乗らずにダイレクトで体重が足裏に落ちている。人間の歩行、動き方としてはそちらが自然。

←そして競技(https://youtu.be/mamgevx1UBo)

 

ここまで来るともはや太極拳とは別物。

太極拳の動きを使ったアクロバティック体操競技になる。若いうちはこのような競技に興じても良いが、ただ体を傷めるだけ。太極拳のベースにある中医学の養生法とは全く無縁だ。

 

 

←陳家溝のこの若い女性は正しく村人を導こうとしている。

 

裆(股)の使い方も正しく、体重が腿に残らずに足裏に落ちている。

学ぶ側も正しいお手本を見ているので上のアクロバティック競技のような動きにはならない。

胴体の中の力(丹田力)が育つような套路だ。

 ←陳家溝の上の女性の動き。

陳家溝は農村で、ほとんどの人が農作業に勤しんでいる。農作業のできるような体、それが足腰の強い体、それがそのまま武術に使える体となる。

内臓が弱かったり、膝や腰を痛めては農作業もできないし戦うこともできない。そんな生活に即した練功だ。

 

 上に載せたような現代の太極拳は、それを練習しても土を掘ったり、荷を運んだり、そんな昔ながらの農作業に耐えられる体を作れるかは疑問。体のどこかが緩い(腹や骨盤の中が緩い)からだ。

 陳家溝の人たちのかrだは腹や骨盤の中がタイトだ。これが丹田力。太極拳で鍛えるべき箇所だ。腹や骨盤が緩むと上半身が落ちてきて腿が太くなる。現代の太極拳は会陰の引き上げが足りない(=仙骨が立っていない)のが大きな原因のようだ。

 太極拳は放松が必要、というが、その放松の仕方にも誤解があるような。

 ともあれ、良いお手本を多く見てそこからイメージを掴むのはとても大事だと思います。間違ったお手本に惑わされないように。

2023/4/11 <身体の正しいアライメントと個性>

 

 胯を回転させるにしろ、関節を回転させるにしろ、回転させるためにはそれなりにの身体のアライメントが必要になるのだけど、その反対に、回転を練習することによって身体のアライメントを調整することができる。

 

 身体の正しいアライメント、というのが太極拳の鍵になる。

 身体というのはただ筋肉や骨・皮でできているものではない。その中には内臓があり血液があり水分があり、そして息の通り道、そして気、空間がある。これら全てをひっくるめての身体。

 これが正しく整えば太極拳が真の太極拳になるだろうし、その反対に、太極拳を正しく学んでいくことによって正しい身体のアライメントに近づいていくはずだ。

 

 身体の正しいアライメント、いや、身体の正しい在り方、理想的な在り方、というのは普遍性があるものだ。太極拳だけにしか通用しないような身体のアライメント、在り方、というのは間違っている。そういう意味で、巷で行われている太極拳の競技、試合のルールは太極拳を違うものにしてしまっているきらいがある。メディアに出てこないような真の老師達はそもそもそのような試合に無関心だ。別物、だからだ。

 

 私自身は劉師父に出会う前までは日本でそんな太極拳を学んでいたから、劉師父に付いた頃は何を練習させられているのか良く分かっていなかった。毎日1時間も1時間半も立たなければならないのは何故なのか、丹田回しを毎日欠かさずやるのは何故なのか、結局、それがはっきり分かるようになったのは最近なのかもしれない。

 

 半年くらい前からオンラインでバレエのバーレッスンを習い始めた。

 太極拳の練習にタントウ功や内功の練習が必要なように、バレエにはバーレッスンが必須だ。でも、バーレッスンがどのようにバレエダンサーの体を作り上げていくのか、それは自分で体験してみないとわからないと思った。ラッキーなことに、私のようなバレエをやったことのない超初心者にほとんどマンツーマンで、解剖学的なことから息の運び方まで教えてくれる先生と出会うことができた。バレエは身体に歪みがあると踊れない。片足で立って高く脚を上げたり、回転するには太極拳以上に軸がしっかり正確に捉えられなければならない。バーレッスンの練習を通じて、そこにもやはり、内側の空間、気、が必要になること、それによって身体が内側から伸びること、身体が開いていくことが感じることができる。この歳から始めたにしては進歩がとても速いと褒められるのは、もちろん、太極拳のベースがあるから。バレエの練習の方が太極拳の練習よりもキツく、曖昧さが許されない分、理解しやすいところもある。太極拳は中国的で曖昧なところもあって(「松」はその代表)解釈の余地を残している。解釈の余地のない的確な指示というのはどこか新鮮だ。太極拳の『含胸』や『斂臀』というのもバレエを学ぶことによってはっきりと意味が分かるようになった。やはり、そのような要領は太極拳特有のものではなく、「正しい身体のアライメント」としての普遍性があるのだ!

 

    太極拳を学ぶ醍醐味は、それによって普遍的なものが見えるようになること。それは身体に限ったものではないのだが・・・

 

  日本国中が熱狂に包まれたWBC。

  日本の投手陣の粒揃いのレベルの高さが際立った。

  私はダルビッシュの投球フォームが最も均整がとれている(真っ直ぐで癖がない、と言う意味)と思ったが、彼は”軸”の人だ。比べて大谷君は”回転”のフォームだった。太極拳も軸で動くこともできるし、回転重視で動くこともできる。套路練習ではさまざまな”フォーム”を練習できる。どれも正しい。正しい中にもバリエーション、個性がある。

2023/4/9 <関節は曲げ伸ばしではなく回転させる>

 

 股関節を曲げるのではなく、胯を回転させることができるようになると、日常的な動作にも違いが出てくる。

 

 そもそも、関節は<回す>ように使う。

 それは太極拳特有の体の使い方かと思っていたこともあるが、今ではそれが正しい体の使い方だと分かる。

 関節を<折り曲げたり伸ばしたり>して使うのは正しくない。

 

 正しい、正しくない、というのは、<関節の連動>という観点からだ。

 

 肩関節の動きが肘関節と連動し、肘関節の動きが手首に連動し、手首の動きが手の中の関節の動きに連動し・・・というように連動が波紋状に広がっていくと、体は関節の連動で一まとまりで動くようになる。

 <関節の連動>は『節節貫通』

 <全身がひとまとまりになること>は『周身一家』

 と言われる。太極拳でのキーワードだ。

 

 関節を回転させるように使うことで次の関節と連動させられるようになる。

 関節を曲げ伸ばしして使うとその関節を構成する2本の骨だけの運動で終わってしまう。

 太極拳で筋肉を螺旋状に引き伸ばして体を使うのは、関節の回転運動を促して次の関節に勁を伝えるためだ。

 

 股関節も然り。

 ただ鼠蹊部を折り込む、というのはナンセンスだ。

 それでは腰が落ちて体重が太股以下に乗ってしまい身軽な動きができなくなる。

 スポーツ選手には当然の常識が太極拳では非常識になっている。

 

 鼠蹊部=前胯は、胯(寛骨)全体の一部として捉えるべきだ。

 左右の胯(寛骨)を回すように使うことによって鼠蹊部が松することも分かってくる。

 鼠蹊部を緩めやすいのは、胯の前回転(逆回転という)だ。

 左はよく見る前屈

 特徴は腰椎が丸まって脚が後方に傾いている。

 

 右は脚が地面に垂直で腰椎が伸びている。お腹が太股に近づくような感じで背中が真っ直ぐ。

 

 これらを胯の回転から説明すると、

 左は胯が回転していない。前胯(鼠蹊部)の松がなく、ただお尻側を伸ばしただけだ。

 これに比べ、右は胯を回転させている。特に前胯(鼠蹊部)を後ろに引いて、前胯→内胯→後胯→上を通って前胯へ という胯の前回転をさせている。胯の回転によって踵からつま先まで使えているので脚は地面に垂直に立つ。

 

 左は胯を回転させず前胯(鼠蹊部)が使えていないのでつま先が地面を捉えられない。踵に乗ってしまっている(踵に乗ると踵を使えません!ここもよく誤解されているところ。踵から力が出せるのは右側の画像の足の状態です。)

 

 左側の画像の人自身はどういう意識でこの前屈をしているのだろう?と調べたら、案の定、胯の回転を練習していました。https://www.instagram.com/p/Cn-f2P1yJZ-/?img_index=3

 

 折り曲げる意識 VS 回転させる意識

 これで体の使い方が全く変わります。

 ストレッチをただ筋を伸ばすことだと思っていると、筋を痛める。

 関節の回転が大事。

 太極拳の動きには随所に回転が入っている。胯の回転は必須。これをしないと膝や股関節を痛めてしまう。

 私自身もレッスンをしながら胯の回転の重要性を再認識したのでした・・・

2023/4/6 <胯の要領;アシモ君と能のすり足>

 

  昨日アシモ君を引き合いに出したら、生徒さんの一人から、「昔アシモ君の歩き方を真似ようと研究していたことがありました。」というコメントをもらいびっくり。でも、簡化を大真面目に学んでいる時はそんな歩き方が正しいと思うこともあるのかもしれない、と妙に納得しました。

 

  アシモ君の歩き方に似ているといえば、能のすり足。

  でも、能のすり足も『松胯』=胯の回転でなされているはず。

  単に股関節を前後に動かしているわけがない・・・

  と、あたりをつけて動画検索してみたら、なるほど、その通りでした。

  例えば下の動画。(後で気づきましたが能ではなく日本舞踊の家元の動画でした。)

 

  すり足の説明は動画の10分より後から。

  それまでは

  ・掃除機で吸われるイメージを使って上下の軸を通すやり方

     (→実質的には虚霊頂勁を作るやり方)

  とか

  ・骨盤の左右を上げ下げして歩く練習

      (→胯の車輪を動かして歩く練習)

  ・腰ひねり (→中丹田を活性化させる 固めないようにする作用)

  をさせています。

 

 

  これらは体を引き伸ばして足を(少なくとも)腹から操作できるようにするための準備。体の引き上げが弱いと体が沈んでしまって(注意:丹田を沈めるのと体が沈むのは別物)関節の隙間が狭くなり膝を固めて歩くようなアシモ君風になってしまいます。

 

   また、動画では歩く要領として、

   ・”肩”から足までつなぐ  (股関節から足までをつなぐ、のではないことに注意)

 

   そして

   ・<股関節と膝関節を曲げて腰を落とす>

   と、それだけだとアシモ君になってしまう要領を言った後で、

   ・ <膝は柔らかく><腰はふわふわと>

    という決定的な言葉を使っています。

 

    <腰はふわふわ>

     日本語の<腰>は骨盤上部を意味するので、中国語だと<胯>と被ります。

     つまり、胯は緩んでいなければならない、ということです。

     この動画の師範が<股関節>という言葉を使ったのは一度だけ。

     それよりも骨盤や腰の捻りの練習、そして軸を作る要領を教えています。

  

  最後に、

 ・<腰を安定させる>というのは、骨盤が立つ、という意味です。

  腰(骨盤)をふわふわさせてその中の回転で脚が運べるようになると、中には空間があるけれども、外から締まりが出てくるようになる、その心地よい締まりが<腰の安定>もしくは<骨盤が立つ>ということです。太極拳だと、少し仙骨を内側に入れる、という要領です。 まずは腰のふわふわ(松腰、松胯)、これができてから、仙骨を少し中に入れる(

敛臀)です。 腰のふわふわを作らずにお尻を中に入れると股関節にロックがかかるので注意。

 

  最後の最後の締めで、、<バランス感覚がよくなり動作が美しくなる>と師範が言っているのにも注目しました。「バランス感覚」、つまり、重力を利用している感じです。アシモ君は完全に重力に引っ張られている。人間は重力を利用して立っている。それは人間は体の中に空間があるから。膝を柔らかく、とか、腰がふわふわ、という表現の中には、膝や腰の中に空間があることを示唆しています。別の能の師範の動画では<丹田>をキーワードに使っていましたが、丹田も空間です。アシモ君が<空間で立つ>、という感覚を得るのはなかなか難しそうです・・・

  そして、<動作が美しくなる>

  それは、全体が連動して協調して動くからです。歩くのも脚が歩くのではなくて全身が歩いている。

 

  能(日本舞踊)の歩き方の基本の要領はそのまま太極拳に当てはまります。

  動画、とても参考になりました。(特に掃除機で吸う要領 笑)

 

  アシモ君と能(日本舞踊)のすり足は一見似ていて、まるっきり質が違うのも理解できました・・・

 ロボットに人間と同じような二足歩行をさせるのは本当に難しいのが分かる。

 

 アシモ君は歩くと腰が落ちて膝が曲がっている。 これは日本人の老人に見られる歩き方、そして、太極拳の入門として練習する簡化太極拳の姿勢に似ている。

2023/4/3

 

  鼠蹊部(Vライン)の話をまだ終えていないのですが、先に先週の御苑でのレッスン動画の一部を紹介します。

 

  これは、太極拳の動き、いや、人間の動きの基本の基本、体の前後の動きです。

  王子の三種の神器もこの練習・・・実はこれは丹田の中の気の動き。

  内功で丹田回しをすると自然にこの動きが身に付くようになっています。

 

  この動きが太極拳の動きでどのように使われてるのか。

  動画を見て、それなしに太極拳は成り立たないことが理解できれば良いですが。

  なぜ背骨の<弓>が必要なのかも分かるかなぁ。

  弓を作るのに丹田(内気)が必要です。

 上の動きは推手の基礎になります。

 太極拳は<打つ>練習ではなく<推す>練習をする。

 それは太極拳の<推す>動きの中に太極拳の<打つ>動きが含まれているからです。

 ちゃんと推せればちゃんと打てる。

 <推す>=挤(ジー)をリューでかわす単純な練習があります。

 簡単なようで奥の深い練習。

 相手の体の状態を捉えて隙を狙う 相手に接した手は聴診器。手で相手の体の状態を探る。とても面白い練習です。

 

  (動画は1分で収めようとして少し早送りしています。早口なのはそのため)

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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