2022年11月

2022/11/27 <腸腰筋と蹴り その1>

 

  腸腰筋は蹴り技の時には必須だ。

  腹から蹴ることで威力が出る。サッカーでボールを蹴る時と同じ原理。

 

  まず馮老師の蹬脚を見てみる。

  

バネのように蹴っているのが分かる。

 

蹴った時には手足が全て同時に開く。

というのは、腸腰筋の位置にある丹田が爆発することで蹴りが起こるからだ。

 

左足は相手を蹴り、軸足の右足は地面を蹴っている。両手も突いている。

四方八方に発力する。

これが蹴りの原理だ。

 ←https://youtu.be/-wdK24OjKug

が、太極拳の登竜門の簡化式では蹴りも腿で行なうことになっているようだ。腿で足を上げると全身の連動は起こらない。発勁はできない(本当には蹴れない)。

 

解説の中で「脚がぷるぷるします」と言っていたけれども、腿で足を上げずに腹から勁を通して足を上げると腿はぷるぷるしません・・・

 簡化は初心者用に表面的な動きで規定されているので仕方がないのだけれども、太極拳の醍醐味を味わいたかったら簡化を早く卒業してその先に進むべきでは?発勁をする流派なら勁を通すことを学べるはず。

 最も普及している楊式はほとんど発勁をしない分、簡化の延長になっているような印象がある・・・と、楊式の老師たちの蹬脚を見ていましたが、その中で、一人、あれ?と思う老師がいました。

 下の3人の老師の違いが分かりますか?

(左:https://youtu.be/LRgjzMeK-2U  右:https://youtu.be/8CgaLuguBQI

 下段:https://youtu.be/REHX60UGgio)

 

 この中に一人、発勁につながる足の上げ方をしている老師がいます・・・ <つづく>

 

2022/11/25 <园裆と腸腰筋 Vラインの弾力性 骨盤を立てる>

 

 腸腰筋についてはきっと過去にも何か書いたはず。

 が、最近の大きな発見は”鼠蹊部”(Vライン、コマネチライン)でした・・・

 

 太極拳では『曲膝』『松胯』(股関節を緩める)、という要領があって、これを、”股関節を緩めて膝を曲げる”という風に習うことが多いのではないかと思う。

  しかし、師父が言っていたように、本当は、『园裆 曲膝 松胯』。

  『园裆 』をして『曲膝』になってから『松胯』をする

 

  cをせずに松胯をしようとすると実際には松胯にはならない。股関節を緩めたような気がしてもそれは膝曲げにしかなっていない。というのは、股関節の屈曲には腸腰筋という腹の筋肉が必要なところ、园裆なしには腸腰筋はほとんど作用しないからだ。

  

 园裆は会陰が引き上がって骨盤底筋のハンモックが張った状態。股がスカスカではなく弾力のある状態だ。コマネチラインはストレッチされて力がある(力が使える:発勁ができる)。

 

  そう言えば腸腰筋が張った時もコマネチラインに力が出る。

  ということは、园裆と腸腰筋は関係があるのでは? 

 

  試して見ると、园裆を作るには丹田の気を骨盤の底まで沈めなければならず、腹はキューピーさんのように膨らむ。腰を反ったり猫背にすると园裆にはならない。腰が内側から張り出している(命門が開いている)。腸腰筋は自分で使っている意識をとれないのだが、形状的にはまさに腸腰筋が起動している。

 

  開脚で試すとそれが良くわかる。開脚で骨盤を起こすと裆が左右前後に開いて园裆になる。骨盤が寝ていると開脚をしても园裆にならない(前後の伸びがない)。

  開脚で骨盤を立たせようとするとVラインをぐるっと前回りさせなければならない。(横に引き伸ばすのではなく、回転させる)。Vラインの弾力性が問われる。

  また、開脚で骨盤が立った時腹がキューピーさんのようになってVラインがはっきり浮き出てくる。胴体がしっかりして手足が連動する。

 

  Vラインは太極拳の技でもよく狙われる箇所。ここを押されて倒れるようではいけない。自由に動かして相手の力を削げるように。そして、このVラインは発勁ができる箇所でもある。

  今、ちょうどサッカーのW杯をやっているけれど、サッカー選手のVラインは特に活躍しています・・・

 

 実は腸腰筋は丹田と重なる根幹的な課題になるので、整理して教えるのはさらに難しく感じる。生徒さんの様子を見ながら色んな角度から試してみるしかないかも。

  目指すところは<骨盤を立てる>ということにする。骨盤を意識的に立てられるようになれば腸腰筋・丹田の操作はできていると見なせるだろうから。

 

  ↓腸腰筋について<骨盤を立てる>という角度から動画を撮ってみました。

 

2022/11/23 <腸腰筋の起動のさせ方 その1>

 

 太極拳は腸腰筋を使うものだが、逆に言えば、太極拳で腸腰筋を鍛えることができる。

 タントウ功で丹田を作って気を溜めるのは、まさに腸腰筋を使えるようにするためではないかと思う。腸腰筋はコアマッスルなので意識的に使うことが困難だ。それを丹田というエネルギーの球を腹腔に作って伸縮させることで、関節的に腸腰筋の収縮運動をさせているようだ。

 

 まっすぐ背骨を伸ばしたまま長座ができないとしたら腸腰筋は使いづらい状態にあるだろう。

 両足を前に投げ出して座った時に背中が丸くなってしまうのは骨盤が立っていないからだが、骨盤を立てるには鼠蹊部を引き込んでお尻を持ち上げる必要がある。

 逆に、骨盤を立てようとすると腰が反ってしまうとしたら、腰が反らないように腰の方に息を入れて下方に引き下ろす必要がある。→下の画像参照

 

https://yogajournal.jp/1936

 

このサイトには腸腰筋の基本的なことが書いてあります。

 

 

左の画像の①の動きは周天の逆回転。松胯 泛臀の動き。

③は周天の順回転。含胸 塌腰 敛臀の動き。

 

内功では丹田を使って周天の順回転と逆回転を練習することで骨盤がしっかり立つようにする。これができないまま太極拳の套路をすると腸腰筋がしっかり使えないので下半身と上半身が一体化せず、脚の曲げ伸ばしが膝の曲げ伸ばしになってしまう。

  腸腰筋を使っているとコマネチラインがしっかりしてくる。

  太極拳では下の男性たちほど表層筋がムキムキにはならないが、腸腰筋の発達によってコマネチラインはくっきりしてくる(一番下のGACKT程度?)。コマネチラインがくっきり出てくると脚が切れ上がって長く見えるようになる。

2022/11/22 <伸縮=開合と腸腰筋 股間の引き上げ(伸び)>

 

  結論から言ってしまえば、四股とプリエは腸腰筋を鍛える練習。腸腰筋を鍛えることで床がより強く押せてより身体が伸びる(推進力が増える:前進する力、手で推す力、ジャンプする力などが増える)。

 

  <身体を縮めてから伸ばす>

  この伸縮運動は動物の動きの中核だ。

  細胞の運動自体が伸び縮み。

  蛇の動きにもチーターの走りの中にも伸び縮みが見て取れる。

  私たちの体も同じ。

  ジャンプする時だけでなく、歩いたり、走ったりする時にも伸び縮み運動をしている。

  ピッチャーがボールを投げる時、サッカーでボールを蹴る時、泳ぐ時も伸び縮みしている。 

  この<伸び縮み>を太極拳では『開合』と表現している。  

  

 

←<合(縮み)>

エネルギーの蓄積

吸気

←<開(伸び)>

エネルギーの発散(発力)

呼気

  四股もプリエも開合運動に他ならない。

  これに対してタントウ功の場合は外見的には緩やかな合の姿勢に止まり、外形は動かさないことで体の内側(丹田)の開合(伸縮)を養う。

 

  この<開合>の要になるのが腸腰筋。

  上半身と下半身をつなぐ筋肉だ。

 

  胸椎12番や腰椎1番、2番辺りから始まり、大腿骨の内側の小転子で停止する。

 

←腸腰筋の位置は鳩尾の裏から恥骨の少し下まで。

 

 道家の修行法で使われる中丹田と下丹田を合わせた位置と一致する。

 

 

 注目すべきは、この腹にある腸腰筋が最大の股関節の屈筋だということ。

 つまり、脚の曲げ伸ばしは腹で行う

ということだ。

 

 股関節を動かす時に無意識で腹を使えていればよいのだが、多くの大人は股関節を使う時に腿の力を使っている。

 

例えば、左のように椅子に座っている場合、ここから立ち上がる時に腸腰筋を使うのは不可能だ。腹に力が入らない。このまま立ち上がると腿や膝に異常な負担がかかる。

一度体を前に倒して両足を椅子に近づけ、鼠蹊部の折り込みをしっかりしてから、立ち上がる必要がある。

 

が、長年腹を使わずに立ち座りをしていると腹をキューピーのように張らせることができなくなる。立ち座りの時にぐっと腹が膨らめばよし、もし腹がペチャンコのまま立ち上がっていたとしたら、腸腰筋を使わずに脚の筋肉だけで立ち上がっている。膝を壊す最大の要因になる。

 

  <脚の曲げ伸ばし>が単なる<膝の曲げ伸ばし>になるのか、それとも<腸腰筋を使った体の曲げ伸ばし>になるのか、ここが、<足で地面を本当の意味で押せるのか否か>の分かれ道。

  きちんと押せないと力が体のどこかに止まってしまう。ちゃんと押せれば押した力は体を貫通する。

 

  そういえば、子供の頃にやっていたラジオ体操第一の最初の運動、これも単なる膝の曲げ伸ばしではなく、実は腸腰筋を使った動きだったのかもしれない・・・

 

↓左は NHK https://youtu.be/feSVtC1BSeQ

 右は かんぽ生命 https://youtu.be/_YZZfaMGEOU  

 上は『手足の曲げ伸ばしの運動』と言われるが、それは太極拳なら『開合運動』だ。体の中の伸縮運動(=丹田の膨らみと縮み=腸腰筋の伸び縮み)が手足の曲げ伸ばしとして現れることになるだろう。

 

 

 NHKのお姉さん達は脚は脚、手は手。そんなものだろうと思ってはいたのだが、もう一つのかんぽ生命の動画のお姉さんは、膝を伸ばした時に胴体までぐい〜んと伸び上がっていた。この足で地面を踏んだ力が胴体から腕へと繋がっているような動きが見える。

 

 この違いは股間の引き上げ、内腿の引き上げ時の伸びにも現れている。

 腸腰筋を起動させるにはその終点である鼠蹊部や股間の伸び縮み(弾力性)が必要だ。

 

  腸腰筋を使う時にはその終点である大腿骨の小転子(内腿の付け根)をうまく使う必要がある。内腿の付け根は股間にとても近い。

 よ〜く見ると、ポンポンとかんぽのお姉さん達はしっかり踵を上げて伸び上がっていて股間に力がある。NHKのお姉さん達は

 NHKのお姉さん達にバネが少なく見えるのは股間に”挟んで引き上げる”ような力がない、即ち、腸腰筋を使っていないからだろう。

  踵を上げる時に内踵(内くるぶしの下)と股間(鼠蹊部の中央側、小転子)を繋いで内腿を引き伸ばして使えれば、腸腰筋が働く。若いうちは意識せずに使っていた腸腰筋は内踵と鼠蹊部の連携が切れるとともに歳をとると使い辛くなる。膝を痛めやすくなるのもそれが大きな原因だ。

 

 太極拳で股関節の”松”が要求されるのは、股関節の表面的なこわばった力を抜くことによって内側から股関節を伸び縮みさせるようにするためだ。本当に力を抜いてしまって腑抜けにしてしまったら人体の最大の関節である股関節のパワーは発揮できない。

 股関節の前側は鼠蹊部。前胯と呼ばれる部分だ。ここは腸腰筋

 

 

 太極拳では腸腰筋が要中の要だ。というのは丹田そのものが腸腰筋を起動させるためのものだからだ。タントウ功の様々な要領は結局、腸腰筋を使えるようにするものだ。含胸、塌腰 は腸腰筋の起点を、敛臀、园裆(股間を丸く作る)は腸腰筋の終点を使えるようにする。

 

 次回解説をつける予定だが、下のようなピチパン姿の馮老師の股間の使い方は一見の価値がある。膝を曲げた状態から伸ばす時=縮(合)から伸(開)になって地面を踏んだ時、その踏んだ力が上半身を通じて手まで繋がっているのが見えると面白い。

 股間、股関節の使い方は武術における秘伝中の秘伝。ダブダブのズボンを穿くのはそれを見せないため、という説もある。

 

 ↓左上:第3式懒扎衣  右上:第4式六封四闭

  左下:第5式单鞭    右下:第9式前蹚拗步

 

2022/11/20 <床を踏んで膝を伸ばす 脚を伸ばすために脚を曲げる 腸腰筋へ>

 

   四股とプリエとタントウ功。

 これら中腰姿勢での鍛錬で養っているのは『床(地面)を押す力』。

 

 問題はこの『床(地面)を押す力』の意味。

 ひょっとして勘違いしている人がいるかも?と思ったので確認。

 『床を押す力』が必要になるのは、膝を曲げた状態(しゃがんだ状態)から脚を伸ばす時。

 

    ↓バレエのプリエならしゃがんだところから立ち上がる時。  

 

  上の図の前半のしゃがんでいく動作は、後半で床を押すための力を蓄積させるためにある。

  床を押して立ち上がっていくことでその反発力として体を上に引き上げる力が得られる。そうすると、最後に立ち上がった姿勢は、最初の立ち上がった姿勢と、外形はそっくりでも内側の力が全くことなるものとなる。

  必要となる内力は地面を押す力と体を上に引き上げる力の均衡。天地人と呼ばれる状態だ。その状態をつくるためにバレエではプリエの基本訓練を欠かさずおこなう。

 

 大事なのは、しゃがんで行く時には床を押す意識よりも上体を引き上げることを意識すること。ここで床を押す意識が強いと上体が重く下半身にのしかかってしまう。結果として後半立ち上がって行く時に思いっきり腿の力を使わざるをえなくなる。腿の力で立ち上がると床を押した感覚はなくなる。意図した結果は得られなくなる。

 

 四股の場合はどうだろう? 

 と調べたら、四股で大事にされている要領は「軸足を伸ばすこと」だった。(例えば https://youtu.be/RVRIgqL0Iqg 参照)。おっと、それは私も知らなかったが、なるほど、やはり、”伸ばす”ところに鍵がある。

  実際には、軸足だけでなく、上げた脚もまっすぐに伸ばす。つまり、上のバレエのプリエと同じで、脚を曲げた状態からそこで得られたエネルギーを使って両脚を伸ばす(それによって片脚を振り上げる)、そんな運動になっている。素人目で見ると、ドン!と足を下ろすところばかりに着目してしまうが、実際にそのために必要なのは伸ばした脚・・・

 

←https://www.youtube.com/watch?v=JdXCr4GIrhs より双葉山の四股。

 

軸足がしっかり伸びている。というより、両足ともにしっかり伸びている。

 


 脚を伸ばして高くあげると両足の接点はみぞおち辺りになる。これを維持して足を下ろして腰を下げ股を割る。両脚の付け根はみぞおちだ。

 

 最初のバレエのプリエにしろ、相撲の四股にしろ、両脚の付け根は股関節よりもずっと高い位置にある。これが上半身と下半身をつなぐ要になる。

 

 ”股関節を使う”と言うと、股関節より下(=脚)から使う人が多いが、股関節は腹筋群と大腿骨のつなぎ目だから、股関節を使う時は腹や腰を使う意識が必要だ。そしてその中でも要中の要になるのは『腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)』だ。

腸腰筋は股関節を操る筋肉であり、まさに体幹部のコアマッスル。

 

プリエも四股もタントウ功も腸腰筋を鍛えるものだといっても過言ではないだろう。

 

太極拳で丹田を作るのもこの腸腰筋を使えるようにするため。この筋肉が起動しないと上肢と下肢は連動しない。床を押すこともできない。

 

巷で見る簡単な太極拳ではほとんどこの腸骨筋が使われていない。膝や股関節、腰を痛めるのはこの腸腰筋がうまく起動していないせいだろう。

 

 

 膝の裏がきちんと伸ばせるようにするのも腸腰筋の作用

 歩いている時に膝が伸びないのは腸腰筋が使われていないから・・・

 

 次回はこの腸腰筋を使う要領について書けたらと思います。

2022/11/17 <床を押すとは? 四股とプリエとタントウ功の共通点>

 

  どんなスポーツでも股関節の柔軟性はとても大事だ。股関節の可動域が狭くてもスポーツで遊ぶことはできるが、やりこむならそれなりの体を作るトレーニングが必要になる。この”トレーニング”は太極拳でいう”功”だ。

 

  野球が好きだからといってただ野球だけしていれば良いわけでない。様々な方法でトレーニングに励む。可動域を増やす”功”もあれば、瞬発力をつける”功、パワーをつける”功”もある。”功”のメニューは競技によって様々だし、選手が独自に”功”を編み出すこともある。

  

  四股は相撲の有名な”功”法だ。これによって柔軟な股関節、強靭な足腰を作る。バレエのプリエも四股に似た作用がある。足でしっかり床を踏む力をつけ全身を繋げる。

 そして実は太極拳のタントウ功も似た作用を有している。

 

 <柔軟な股関節→足で床を踏む→床からの反発力を使って全身をつなぐ>

 

  四股、プリエ、タントウ功はある意味同じグループの功法ではないかというのが私の持論。どこか体の一部分を鍛えるというものではなく、重心を下ろす動作・姿勢によって体の中を開けて『周身一家』にする。(『周身一家』というのは体全体を一つの家にする、という表現だが、私のイメージとしては、家の中にいくつもの部屋があるところを、すべての部屋のドアが開いて家の中が一つの部屋になってしまう、というもの。体の中には様々な器官、部位があるが、すべての隔たりが消えて、体がひとつの袋になってしまう。)

 

  四股、プリエ、タントウ功はそれによってしっかり足で床を押せることができるようにするものだ。

  ”足で床を押す”というのは、単純に言えば そのままジャンプができる状態、もしくはダッシュができる状態だ。それには①足裏まで気を下ろす、という作業に加え、②(足裏まで気が降りた時に)足裏が腹腰とつながっている、という要素が必要になる。

  ただ①足裏まで気を下ろした、というだけでは床を押せない。ダッシュがきれない。

  椅子から立ち上がる際にも、ただ足に気を下ろしただけでは立ち上がれないのと同じだ。椅子から立ち上がるには足裏に意識を下ろして足で床を踏んだと同時に腹や腰が持ち上がる必要がある(足裏と腹腰が繋がっている必要がある)。

 

  太極拳や相撲、バレエで必要とされるのは、①②が時間差なく同時に行われること。すなわち、腹から足裏までが一つに繋がることが必要とされている。これをタントウ功なら丹田を作ってその気を下ろしたり膨らましたりすることで行うし、相撲は震脚をつかって行い、プリエは股関節の外旋をつかって体を薄く伸ばすことによって行なっている。

←タントウ功https://geolog.mydns.jp/heartland.geocities.jp/kikounogensan/kikou/baho.html

 

ここで問い。

プリエ、四股、タントウ功、どれも中腰(しゃがむ)姿勢をとるが、なぜこの姿勢をとることが床を押す訓練になるのだろうか?

 

結局、床を押せるようになるように練功すれば正しいということになる。

もしいくらやっても床を押せるようにならないならやり方が間違えている。

 

 タントウ功で丹田を作るのも床を押せるようにするためだ。

 四股にはそのための四股の要領があるし、プリエにもそのための要領がある。

 単純な動き(姿勢)に見えても、こうしてはいけない、ああしてはいけない、とうるさいくらい条件が課されるのも、そうでなければ床を押せないからだ。床を押せなければバレエや相撲やタントウ功の”技”を実現することは不可能になる。

 太極拳の技はまず床を押せることを土台にしている。いくら腕の動きが素晴らしくても、いくら開脚ができても、床が押せないことには技にならない。「一に功夫、二に胆力、三に技術」というのはそのことを言い表している。

 

  ・・・問いに戻る。

 四股やプリエやタントウ功のどこが床を踏む力を養う要になるのか?

 

 

2022/11/11<内撑外裹 男性は内撑重視 女性は外裹重視>

 

 前回の『内撑外裹』に関して注意と捕捉。

 

内撑外裹』は「中心から外側に張り出す力=内撑」と「外から中心に向かって締める力=外裹』という意味。本当は内旋、外旋、という意味ではない。

 

 空気で膨らましたボールは、内側から外向きに空気が膨張する力(内撑の力)が外からかかる重力(外裹の力)と均衡を保っている。内側の膨張力が少なくなれば、外から押し付けてくる重力に負けてボールは潰れていく。私たちの体も、重力に均衡するような内側から張り出す力があることで均衡を保っている。もし重力が何十倍にもなったら私たちの体は潰れてしまう。

 

 丹田にも『内撑外裹』の現象がある。

 内撑が優勢の時は丹田は膨らんでいく。外裹が優勢になると丹田は小さくなっていく。

 練功で丹田を大きくしたり小さくしたりするのは内撑外裹の練習だ。

 「大よりも大きく、小よりも小さく」・・・馮老師が度々そう言っていたように、2つの相反する極を行ったり来たりするのが太極拳の核心だ。それが陰陽太極図で表されている。    

 丹田を最大に大きくすれば(内撑を大きくすれば)体の範囲を超えてしまう。自分の気場が広がる。丹田は消えたようになる。反対に、丹田を最小にして米粒のようにしてしまうと(内撑を減らすと、これまた丹田がなくなる。その場合は気配がなくなる。

 厳格に言うなら丹田は内撑の作用をしている。大きくして拡散させるところから、小さくして米粒状態にしてしまうところまで、自由自在に操るのが本来の太極拳の理念だっただろうが、現在では流派によってその大きさが固定されているような気がする。

 

 そして、丹田は骨盤も含むので、骨盤の内撑外裹にはとても注意が必要だ。

 これは以前私が随分疑問を感じていたことだが、太極拳の練功方法は元来男性用のものなのに、これを女性がそのままやって良いのだろうか?というのは、骨盤の使い方の問題だった。

 最終的にこの疑問は、男性は内撑を重視する、女性は外裹を重視するべき』という師父の一言で解決した。

 男性の骨盤は小さくなかなか開かない。開脚も女性ほど簡単にはできない。だから練功では内撑を意識して、骨盤を開くように練習する。

 これに対して、女性は骨盤は広く筋肉も柔らかいのである意味”開いて”しまう。内撑を頑張ってやると、股関節が緩くなって股関節を痛める可能性がある。あるいは、腸骨の位置や仙骨、恥骨の位置がずれて骨盤の形状がずれる可能性も高い。だから、女性は外裹を忘れずにやる。骨盤ベルトをつけるような意識だ。

 前回載せた脚の内撑外裹(外旋内旋)も、実は骨盤の内撑外裹の現れだった。

 脚の内旋外旋などのチャンスーの原点は丹田(骨盤を含む)にある。

 

 男性は内撑が苦手なので外旋を少し多めに練習

 女性は外裹が苦手なので内旋を少し多めに練習

 

 体を締めながら開く

 体を開きながら閉める

 

 このあたりの感覚がつかめると、体がポンプになるのが実感できる。太極拳の醍醐味の一つだ。

 

2022/11/8 <三角筋 内撑外裹 内旋と外旋の両立>

 

 上腕、とりわけ上腕上段が使えるようになると三角筋も柔らかくなって後ろに移動しやすくなる。所謂、肩が落ちる、肩がなくなる、沈肩、の状態だ。

←https://yogajournal.jp/13254

 

三角筋が硬いと肩の可動域が減る。肩こりの原因にもなる。「肩抜き」という時はこの三角筋をすっと落としている(チャンスーで躱す時には必須)。

 

 前肩、猫背になっている時は三角筋が前の方に移動してしまっている。三角筋は前部(腕を前に上げる時に使う前面部分)、中部(腕を横に上げる時に使う側面部分)、後部(腕を後方に上げる時に使う後方部分)に分けられるが、後部が前方へ引っ張られないようにするのは特に大事だ。肩をかなり後ろに引かないと三角筋は正しい位置にこない。三角筋が正しい位置にくれば胸椎上部や首筋がスッと伸びる。「沈肩」になって猫背とおさらばになる。

 

 腕の回転を使って次第に上腕上部まで回転がかかるようになれば三角筋や前鋸筋が動いて腕が正しい位置に矯正される。私たち大人の中で腕、肩が正しい位置にある人は稀だ。

 

 腕、肩が正しい位置に近づくと、自然に股関節や脚も正しい位置に近づいてくる。

 腿裏が使えないのは前肩、猫背が原因のことがほとんどだ。

 上半身を変えずに下半身を変えることは難しい(というより、不可能だろうと思うようになりました)。

  膝を痛めるのも上半身が原因、決して脚の筋肉が衰えたからなどという単純な理由ではない・・・

 

  練習の仕方としては、ある程度上半身をやってから下半身、そして下半身と上半身の連動を確かめてまた上半身・・・と順繰りにやっていくのだろう。

 

  そして下半身!

  生徒さんたちがどうやったら腿裏や内腿、裆を使えるようになるのか? いつまでも脚で体重移動をしている感覚では太極拳の醍醐味が分からない。

 

  結論から言うと、脚は内旋と外旋が同時にかかった状態の時に地面を押せるようになる。太極拳の言い方だと『内撑外裹』(neicheng waguo)だ。

 

 

『内撑』というのは内側から外向きに張り出す力。外旋の力と言い換えられるだろう。

 

これに対し『外裹』というのは、外から包み込む力。(中国語で小包のことを「包裹」という。纏足をすることを「裹脚」という)

 

左の馮老師のように立てれば内旋と外旋が釣り合って「定式」(気沈丹田の状態)になる。(「定」の時は動けない。)

 

この懒扎衣の定式から左に重心移動をする際は、

まず、①一旦更に右に移動して丹田の気を右足に下ろし、それから、②右足で地面を押して左に移動することになる。

(★丹田に気を溜めている定式の状態では動けない。動くには一旦、どちらかの足に気を下ろす必要があることに注意)

 

 脚の内旋、外旋の観点から言えば、

 ①の定式からさらに右に移動する時は、外旋(内撑)の力を加え、

 ②の右足で地面を踏んで左に移動する時は、(①の外旋を保持したまま)内旋(外裹)の力を加えることになる。

 

 ①の外旋に②の内旋を加えることにより、右足裏がしっかり地面を踏んで右脚全体が伸びながら突っ張り棒のようになる。

 

 このような脚の使い方は太極拳に限ったものではない。外旋と内旋が同時に入った脚の使い方はいろんなところで見られる。(例えばhttp://www.namiashi.net/article/13453820.html )

 上の引用したブログにも書いているが、股関節の屈曲伸展、内転外転の動きには股関節の外旋、内旋を加えることが合理的な身体の操作には必須だ。(腰の王子も肩関節の動きの説明で全く同様の発言をしていた、)ただの曲げ伸ばし(屈曲、伸展)、という運動は存在しないということだ。曲げ伸ばしは”捻りながら”行う。套路にはそのような動きがちりばめられている。というよりも、そうしないと勁が繋がらず、太極拳の技が成立しなくなる。

 

<以下、参考までに>

上段左:高い架式(歩幅の小さいもの)は腰(命門)が開きにくいので股関節の内旋外旋が非常に難しくなる。多くの場合ただの膝の屈伸になりがち。高手(大師クラス)向き。

上段中:股関節の屈曲(前足)と伸展(後ろ足)のみ。内旋外旋なし。円や球を原理とする太極拳ではない。

上段右:腰(命門)を開かずに股関節に座りこんでしまっている。脚に外旋内旋がかからない。地面に沈み込んでいって地面からの反発力が生まれない。

中段左:外旋(内撑)の力が足りない。

中段中:内撑外裹

中段右:体が開き過ぎ。「開の中にも合あり」になっていない:内旋(外裹)が足りない。

下段左:内撑外裹

下段中:内撑外裹

2022/11/4 <推手の役目>

 

 腿裏を使っているか否かも推手で手合わせするとすぐに分かる。

 太極拳の練習には推手が必須となっているのは、それによって自分の体の使い方をチェックできるからだ。相手が老師なら老師がどこをどうすべきか導いてくれるだろうし、生徒同士ならお互いにお互いの直すべき点を指摘し合ったり、あるいは、ああでもない、こうでもない、と模索しあったりすることもできる。

 

 とはいえ、その推手も表演用に規定されたものになる、ただ手を触れ合わせるだけで肝心な体の内側を通る”勁”を感じ合う練習にはなっていないようだ。”知彼知我”(相手を知ることで自分を知る)というのが本来の推手だが、表演用のものは相手に”合わせる”(随)ことで終わってしまっている。”知彼知我”の境地には程遠い表面的な接触に止まっている感じだ(中高校生のフォークダンス程度の接触?)。

 

 その一方で技をメインにした推手もある。技をかけて相手を負かしたい、という態度でやってしまうと自分の内側を忘れてしまい、これまた”知彼知我”にはならない。

 ちゃんとした老師が生徒に技をかけるときはその生徒に合わせて技をかける。生徒は倒されても学ぶことができる。

 

 残念なのはコロナが広まって推手もし辛くなってしまったこと。

 太極拳は套路と推手が両輪だ。

 套路で体の使い方を覚え、推手で体の使い方を修正する。そしてまた套路に臨む。その繰り返しだ。

 相手なしには自分の力がどういうものかは分からない。

 自分の力が強いのか弱いのかも相手と力を交えることでわかってくる。

 師と呼ばれる人と手合わせすれば、なぜその人が”師”と呼ばれるのかが体で分かる。内側の強さ、外側の柔らかさ・・・だから、放松、と言うのか・・・と、”放松”の理解もまた変わってくる。

 

  表演や試合のための太極拳は道を外す危険が高い。

  というのは、太極拳はバレエのように見る人を楽しませるものではなく、体操競技のようにスコアをつけて争うものでもないからだ。

  太極拳は単純に自分の体の力を蓄え、体を合理的に動かせるように修練し、昔ならいざとなったら戦うことができるようにするものだった。今では、”戦う”という側面が消え、その準備となる、”体を強くし正しく動けるようにする”という”健身”目的が主となっている。

  ”体を強く正しくする”ための練功は人に見せるものではなく、どちらかといえば隠れてするものだ。私にも音楽に合わせて団体で”踊る”と楽しいという時期があったが、それを過ぎれば、音楽も余計なものになる。

 

  試験勉強をする時に、教科書以外に参考書と問題集というものを使うが、参考書を丸暗記しても試験には受からない。大事なのは問題集を解くことだ。問題集を解いて解けない問題があれば、そこから教科書や参考書に戻ってそこを学び直せばいい。推手はまさに問題集のような役目がある。様々な推手があるからそれらを一つ一つやりながら内功や套路との接点を見つけることができる。自分の内気の乏しさに気づけば内気を増やす練習を積極的にやることになるだろうし、腰の伸びが足りないことに気づいたら、帯脈回しやその他の練習をとりいれたり、日々の練習で気をつけるべき点が明らかになるだろう。

 

  冒頭の腿裏を使うという点に関しては、腿裏を使って推すのと、腿裏を使わずに脹脛以下を使って推すのと、二種類の力がどのように違うのかを生徒に実際に受けて感じてもらえば、おそらくその生徒はある程度その二種類の力を再現できるだろう。そうやって体で覚えていくのが本来の練習の仕方。理屈はどうしようもない時に使う・・・(ブログは理屈ばかり 苦笑)

2022/11/1  <腿裏が使えない理由 背骨の弓化>

 

  今日撮った動画の2本目。腿裏を使うには?

 

  太極拳で腿裏を使えずに膝に乗ってしまう人はとても多い。太極拳で腿裏を使うのがなぜ難しいのか? それは背骨では?

  背骨を弓にする。背骨を弛ませない! この要件は必須です。

 

←頸椎から尾骨までを弓化する。

猫背とは違う。

骨盤を立てて背骨を弧にする。

それには気を股間近くまで押し下げる必要がある。

 

2022/11/1 <肘の曲げ方 沈肩墜肘が必要な理由>

 

  今日撮った動画の1本目。肘の曲げ方。

  上腕を使って肘を曲げる、すなわち、沈肩・墜肘が前提となった肘の曲げ方だ。

  腰の王子が「前腕を上腕に近づけるのではなく、上腕を前腕に近づける」というものと同じ。丹田を作って腕を繋げるようになると自然にそうなるのだけど、もし、それをいささか手っ取り早く教えるならこうなるかなぁ?

  沈肩・墜肘は気沈丹田のために必須だが、これがそのまま腕の使い方に反映されます。

  前腕主導の太極拳から、体幹部を使った太極拳へ。その鍵の一つは上腕にあるようです。

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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