2022年9月

2022/9/27 <上腕内旋と立甲>

 

  昨日のメモで紹介した螺旋単推手の中の動き(斜め下へのジーの動き)は、左のようなチャンスー功で練習することができる。(https://youtu.be/IQKjQGyYNbI の中の『16 螺旋後伸』)

 

 上の画像は、

 <一番左>①馮老師が肩関節の内旋をするところ

 <真ん中>②肩関節の内旋を終え上腕が内旋して肘まで螺旋の勁が達したところ

 <一番右>③肘を抜けて指先へと流していくところ(チャンスーが解けていくところ)

 だ。

 

 最も重要なのは①の瞬間で、この時に手首のチャンスーを使ってしっかり肩関節を内旋させること。この時、肩が上がったようになっているのは、王子のいうところの”肩すくめの術”、あるいは、”正しい肩の挙げ方”。肋骨は下がったまま肩甲骨と鎖骨の輪っかが上がる。丹田に気を沈めたまま肩より上に腕を上げようとするとこうならざるを得ない。息をぐっと胸の奥に沈めている(含胸)。

 ①でちゃんと肩甲骨をひっかけて内旋ができればその後、上腕から肘にむけて螺旋の勁が走る。肘まで達すれば、そこで一休みできる(②)。この②では、丹田だけでなく、肩関節、肘関節、手首の関節、にエネルギー(気)が蓄えている状態。

 その後、肘から前腕も螺旋を描きながら手首へと勁を落としていく(③)。この功法では徐々に手首を緩めて指先から勁を逃している。→丹田、肩関節、肘、手首に蓄えられていた気が指先から抜けていっている。②の時の馮老師のお腹の丸みに比べると、③ではお腹が凹んでいるのが分かる。

 

 と、これらの画像を見たら思い出したことがあったので、参考までに紹介すると・・・

これは高岡英夫氏の『肩甲骨が経てばパフォーマンスが上がる!』の中のもの。

上の馮老師のポーズとそっくりだ。

 

 これは立甲の練習の一つ。

 つまり、肩甲骨と肋骨を引き離す練習だ。

 

チャンスーをかけると肩甲骨と肋骨の間に隙間ができると思っていたが、チャンスーをかけずにこのようなポーズをとっただけでもある程度そうなる。

 

 

左は王子の『ここからクルン』体操。
https://youtu.be/S3FC6pv0H0g

 

腕を後ろから前下に降ろしてくる動作の中には上の肩関節内旋がマイルドに含まれている。

(最近の王子はこの内旋時にも発声を伴って焦らしながら動作を行なわせている。溜めをつくって内旋を行わせることで肩甲下筋や広背筋を連動させようとしているのだと思う。サラッと内旋してしまうと、肩甲骨と肋骨がくっついてしまってそのあたりの筋肉が起動し辛くなる。)

 

    この内旋の動きを王子はさらっとやっているが、実は真似をするのはそんなに簡単ではない。実際、王子の生徒さんの動画(https://youtu.be/b4GKo1gHG-M)と比較すると・・・

  お弟子さんの方は上腕だけをくるりと回したような感じ(腕が横から回ってくる感じ)。王子は肩甲骨をひっかけているので、最後に肩がグッと沈んでいるのが分かる。

お弟子さんはおそらく三角筋メインで上腕の内旋をさせている模様。肩が上がっているのは肩甲下筋と広背筋が使えていないから。

 

  全身に連動をかける形で肩関節の内旋(上腕の内旋)をするには肩甲骨の連動は不可欠。内旋がしっかりできると、下の王子の画像で見えるように、小指が立つ!(小指が覚醒する)

  小指が立つくらいチャンスーがかかっているのは、体の芯からチャンスーがかかっている証拠。冒頭で書いた、肩すくめの術、が使われています。つまり、肩甲骨と肋骨の隙間を開けている、ということ。

  だから、王子はこの動作の練習をする時に、「手と股間の間にはスペースがなければならない」、と注意していました。お弟子さんのような腕の使い方だと、振り下げた手が簡単に自分の股間を打ってしまいかねない。脇を開けて脇の奥から内旋をする感覚をとる必要があります。脇の奥は肋骨と肩甲骨の隙間の入り口です。

2022/9/26 <肩関節の内旋と肩甲骨と肋骨の間の隙間>

 

 今日は螺旋の逆チャンスーのおさらいをしてもらい(前回の動画の中で紹介したチャンスーの動きです)、その最初の肩関節内旋の際に、肩甲骨と肋骨の隙間を開ける要領を教えてみた。結果は、すんなりできた生徒さんもいれば、なんとなく、の人、イマイチ手応えのない人、などいろいろ。

 

 チャンスーに限らず、太極拳でとても大事なのは肩甲骨と肋骨の間に隙間を開けておくこと。実はこれが”立甲”にあたる。肩甲骨と肋骨がへばりついてしまうと、腕を動かすと肋骨が連動して動いてしまい体軸が形成できない。ロボットのような塊の体になってしまう。どこに重心があるのかも分からない体、虚実不明になってしまう。肩甲骨と肋骨が一体化してしまうと『上虚下実』ではなく『上実下虚』になってしまい、気を沈めるのがとても難しくなる。

 

 肩甲骨を動かして肋骨から剥がすような体操は腰の王子もいろいろ紹介してくれている。「ここからクルン♪」体操はその代表例だ。

 

 太極拳でも意識的に内功をすれば肩甲骨と肋骨の隙間が開けられるようになる。それにはある程度の内気の量が必要だ。

 

 ”隙間を開ける”というのが果たしてどんな感じなのか? その一瞥を味わいさせたくて、今日はチャンスーの動きを使って生徒さんたちを相手に試してみたのでした・・・

 

 教えながらはっきりしたのは、肩甲骨と肋骨の間の隙間を開ける機会が、肩関節の内旋時にあるということ。

 上腕を内側に捻る動き、すなわち、肩関節の内旋、が、理想的に行われていれば肩関節と肋骨の間に隙間があくことになるのだ。

 

 ここで、知識として知っておくとよいと思うのは、肩関節を内旋させる筋肉がどこについているのか?ということ。なんとなく、上腕の上の方についている・・・と思っている人は多いのではないか?私がそうだったように・・・

 https://www.styleb.co.jp/seminar/note/shoulder-medial-rotation-muscle/

 このサイトを参照すれば、肩関節を内旋させる筋肉が5つほどあることが分かる。

 その5つの中で、太極拳的に見て(体の連動という観点から見て)、非常に大事だと思われるのが、肩甲下筋と広背筋だ。

 

 5つ挙げられている筋肉のうちの大胸筋と三角筋。これらを使って肩関節の内旋をしてみると、局部的な運動にとどまり、他の部位に連動が起こらない。

 

https://www.fitnesslove.net/training/16417/2/

 

そして広背筋と大円筋。

大円筋の作用は肩関節にとどまるが、その下の背中の広範囲に広がる広背筋を使えると、その連鎖は仙骨まで及ぶことになる。内旋時に是非とも使いたい筋肉だ。

https://diamond.jp/articles/-/242236

 

そして問題の肩甲下筋。

肩甲骨の裏側(肋骨に面した側)についている筋肉だ。

これが使えるか否かが肩関節の内旋の良し悪しを決める。

上のサイトは一見の価値あり。

巻き肩の人はこの筋肉が硬くなっている。

肋骨と肩甲骨の癒着となる原因の筋肉だ。

 

 

 実際、チャンスーの肩関節内旋をする際には、肩甲骨と肋骨の隙間を狙っている感がある。隙間を開けずに肩関節内旋をしてしまうと、そのあと、チャンスーがするっと解けてしまって決まらない。

 

 ここでは、前回紹介した螺旋チャンスーを使った推手の動画で検証をしてみます。

(https://youtu.be/-xQd1zxkAy8 の「2螺旋単推手」より)

上の動画の馮老師とその弟子の動きに差があることは一目瞭然だ。よく見ると肩関節の内旋に大きな違いがあるのが分かる。

↑拡大して見て下さい。

 

取り出したのは、肩関節内旋時の馮老師とその弟子の動き。

<上段の馮老師の肩関節の内旋>

 腕を上から下へと巻きながら下ろす時に、肩甲下筋(肋骨と肩甲骨の隙間)をひっかけている。すると、その姿勢から広背筋も連動して使えるため、老師の姿勢が最後まで崩れず、含胸、抜背、斂臀になっている。

<下段の弟子の肩関節内旋>

 肩関節内旋、というよりも、上腕を捻る意識の方が強そうだ。脇の意識がかけているため、肩甲下筋がひっかかっていない(肩甲下筋は脇の奥にある。脇からアプローチすると肩甲骨と肋骨の隙間は意識しやすい)。 肩甲下筋が抜けているから広背筋も使えていない。

弟子の肩関節内旋は大円筋と三角筋と大胸筋で行われているようだ。すると体軸が形成されず体が崩れてしまう。

 

  ポイントは肩甲下筋と広背筋を使って肩関節の内旋をすること。肩甲下筋を使えれば広背筋も使えるし、逆に、広背筋を使おうとすると肩甲下筋も使えるだろう。いずれにしろ、息を一旦胸奥に含む(まさしく「含胸!」)ことが必要になる。この胸の奥の息を逃さないように腕を伸ばしたり縮めたりすることが立甲のポイントかもしれない。

  

  なかなかそれを教えるのは難しいと思うのですが・・・

  腰の王子の「ここからクルン♪」体操で、『ここから』の”から”を裏声のような声でやらせているのも胸に息を含ませるためかもしれない・・・なんてふと思いました。含胸を正しくできれば肩甲骨と肋骨の間に隙間ができるのではないか? 含胸をして肩甲骨が肋骨に貼り付いてただの猫背になってしまうのは、まだ正しい含胸ではなさそうだ。肩甲骨と肋骨に隙間ができるような含胸をすることで、胸郭と骨盤(胸と腹)が別物として連動することが可能になると理解が進みつつあります。

2022/9/21

 

  『一流の腕使い』はチャンスー(纏絲)だ・・・と文章で説明するのはとても大変そうなので動画で説明を試みました。

  太極拳を練習する人たちならそこから入ると理解しやすいかも?

  逆に、一流の腕使いをやることで、何気なくやっていたチャンスーの意味が深掘りできるようです。

  関節を順々に互い違いに動かしていく(順逆順逆・・・) 

  これで全身の連動が起こる 王子のフィジカルコードもその原理に基づいているようです。

  陰陽陰陽の繰り返し  開合開合の繰り返し  太極拳の太極拳たるところでした。

2022/9/19 <『一流の腕使いとは?』の質問から その1>

 

  先日ブログの読者の方から、腰の王子の『一流の腕使い』の動画で見せる肘のくるくるの動作は一体どういうことなのか説明してほしい、というメールをもらった。

 

その動画は

https://youtu.be/NhIoI-9ahaw

 

左がその中で見せる肘くるくる♪だ。(動画はぜひ見て下さい!)

同様の動画は他にもあって、私も随分前に私自身の生徒さんから同じような質問を受けた。

 

私は完璧ではないものの、右腕は肘を少し曲げれば似たような動きはすぐに真似できた。左腕は右腕ほどスムーズにできない。腰の王子のセミナーでも、この腕使いができるように少しずつ努力するように言われていて、参加している人たちも頑張っているようだった。

 

  さて、これは何なのか?と聞かれても、説明がし辛い。

  感覚的には、肩関節、肘関節、そして手首の関節を全て連動して通している感じ、しかも、それをしようとすると、含胸・拔背・塌腰 ・敛臀を上から下へとことごとくクリアしていかなければならない感じだ。

   劉師父に王子の動画を見せて、できますか? と聞いたら、「できない」と単純に答えた上で、「まあチャンスーだな」と無造作に言った。(のちに、「できない」と言った師父の意味がわかることになるのだが)

 

  師父のあまり興味なさそうな返事で、私もそれ以上この腕のことを考えるのをやめてしまっていたのだが、冒頭のようなメールをもらってしまった。どう返信しようか? と困っていたところで、偶然に大きな手がかりを得てしまった。

 

  それは、コマネチすりすり体操の最初に、「とんがりコーン」をするのは、通常私たちがこの「肘くるくる」ができないためだ。ということ。

  もし、この「肘くるくる」ができるのなら、「とんがりコーン」をせずに、いきなり鼠蹊部に手を置いて「ス〜リ、ス〜リ」とやれば足りる。が、ほとんどの人は直接鼠蹊部に手を置くと、肩甲骨が肋骨にビッタリ貼り付いてしまい肩関節の運動が損なわれてしまう。

 

  実は、私が生徒さんたちに「コマネチすりすり体操」を教えた時に毎回気になるのはその腕の動きだった。どの人も、肘が後方に流れてしまう。王子は「肘は後ろではなく横へ!」と注意するから私もそう言うのだが、それでも後ろに行ってしまう。王子の腕をよく見ると、手首がしっかり折れている。「とんがりコーン」で降ろしてきた手でスリスリした時に、手首は折れ曲がらなければならない、と私は理解していたが、最初は皆、手首をまっすぐにしたままスリスリしてしまう。すると当然肘は後ろに流れる。

  数十人教えてもやはり肘をしっかり横に張れる生徒さんがいないところをみると、ずいぶんこれは難しいのだなぁ、と思っていた矢先、冒頭の質問が実はこのスリスリの腕使いと関連していることを知ってしまったのだった。

 

  検証のために公開されている動画を比較してみた。

 ↓左は腰の王子 https://youtu.be/6_niwIZwXfM

  右はお弟子さんと思われる方 https://youtu.be/y0NkrS8zhbc

 二人の肩のラインが全く違うのが分かる。

 

 王子の肩は曲線で下がっている。これは「沈肩』だ。

 そして肘は横に張った上で堕ちている(「墜肘』)

 手首は折れ曲がっているが、実はこれは手首の中が空洞になっている。以前書いたことのある「おばけの手」=「松腕」だ。

 すると、手の中の骨も開いて、力を抜いているのに指先まで気が通る。(指先がしっかりして突き指しなさそうな指になる。)これは「垂指』。

 

  一方、お弟子さんの方は、肩が真っ平ら。肩に力が入っている。

  だから肘のありかがはっきりしないし、手首もぼやけている。

  つまり、王子のような、沈肩→墜肘→松腕→垂指の連動がない。

 

その違いがはっきり分かるのが、「ス〜リスリ」で体を立てた時の両手のポジション。

王子は手のひらがピタッと合っているがお弟子さんは掌が内側を向いたままダラんとなっている。指まで気が通っていない証拠だ(沈肩から始まる連動がない)

 

 動画をアップしている別のお弟子さんとも比較してみた。(https://youtu.be/3nIWbTH3Go8

 このお弟子さんもやはり沈肩からの連動がなく、両手を伸ばした時に上のお弟子さんと同様、手のひらが体のほうに向いたままダラんとしていた。

  横からのアングルで見ると、王子の肩関節がしっかり内旋し、その上で前腕がしっかり回外しているのが分かる。

  しかしお弟子さんの方は、肩関節が内旋せずに外に開いてしまっているため、肩甲骨の動きが制限をうけ(両肩甲骨がセンターに寄っているはず)肘以下の関節も連動しなくなっている。胸椎の反りの柔らかさがない大きな原因は肩甲骨が寄ってしまうからだ。

  肩甲骨をセンターに寄せる、ということは太極拳でもご法度だ。

  肩甲骨は開いておかないと体が自由に動かない。

  かといって、肩甲骨を開いてそれがべったり背中にくっついてしまうと猫背になって、これまた体の連動ができなくなってしまう。

 

  両肩甲骨を引き離して、かつ、肩甲骨と肋骨の間に隙間をとる、これが本当の『含胸』だ。

  つまり、王子は「スリスリ体操」のチューの時に胸を反りながら『含胸』をしている。

  反りながら含胸をすることで、胸椎は伸展する。(胸椎の椎骨間の隙間が広がる)

  ただ反ってしまうと、弟子のようになって肩甲骨が寄ってしまう。

 

  肩甲骨が寄ってしまうのを防ぐための胸、肩、腕のポジションを取らせるために、腰の王子は「とんがりコーン」を使っている。つまり、とんがりコーンの「あ〜、スッと腕を降ろして〜」では、笑顔にさせることで胸椎の伸展(含胸)を狙っている。この胸椎の伸展(含胸)がきちんとできていないと、スリスリを始めた瞬間、とんがりコーンをしなかった時と変わらない腕のポジションになってしまい、王子が狙った胸椎上部の伸展ができなくなってしまう。頚椎だけが折れたようになってしまうのは、肩甲骨が寄ってしまって胸椎上部が伸展しないため。ここをクリアするのがとても難しく、教える方も苦労するところだ。

 

  コマネチスリスリ体操をずっとやり込めばいつか、含胸から始まる沈肩以下の連動ができるようになるのだろうか?

  何も知らずにこの体操をやると、通常、気は口や肩、上方へ上がってしまう。すると、肩甲骨は寄ってしまうだろう。

  私は丹田に重しを残す太極拳の癖のおかげで、この体操でもすぐに王子の真似ができた。気を丹田に沈めておかないと含胸はできない。

  そういえば、冒頭の一流の腕使いの肘くるくる♪も、やろうとすると丹田に気を沈めて含胸にする必要がある・・・

 

  と、そこまできて、あれっ、これは確かにチャンスーだ、とある功法を思い出したのでした。

  どおりで・・・と、劉師父はあんな対応だったんだ。だって、太極拳では決して腕を完全に真っ直ぐ伸ばしてチャンスーをすることはないから・・・

 

 

  『一流の腕使い』は実は太極拳の『螺旋纏糸功』と基本は同じ。

https://youtu.be/IQKjQGyYNbI

 

これをやりこむと理屈がよく分かるかと思います。全身をつなげるとても重要な功法です。続きはまた時間のある時に。

2022/9/13 <肱(二の腕)と 撑(突っ張り)と周身一家(全身の連動)>

 

   先週から生徒さんたちには、腕が正しく使える感覚(=上腕を使う感覚=肘の感覚)が得られるように誘導してみている。

 

 上腕がうまく使えると”脇に力が入る”とか”脇が立つ”感覚が得られる。

 脇が立てば、瞬時に腰が立つ感覚が得られる。

 それまでに丹田で腰と股関節をつなぐ練習をしていれば一気に足まで連動する可能性がある。

 ”腕と足が繋がる”とか、”上半身と下半身が繋がる”とか、表現やその”繋がる”度合いは様々だが、初心者でもすぐに何らかの効果を感じられやすいのが腕を使った練習。

 

 上腕、二の腕は中国語では『肱』。

 太極拳ではこの”肱”を使うことを重視する。

 技の名前の中にも、『掩手肱捶 』とか『倒卷肱』とか『肱』を使うものがある。

 が、実は”肱”は太極拳に特有のものではなく、普段の生活の動きの中でも非常に重要なものだ。

 

 体には連動というものがある。

 この”肱”を使っていると、猫背にはなり辛く(背中を丸めるのが苦手)、腰が立ちやすい。そもそも上腕は太ももに対応するから、二の腕を使うと腿の二の腕部分(内腿やハムストリングス)が起動する。二の腕を起動させた状態でしゃがむと内腿が広がって裆が開くので、膝がすり抜けてすぐにしゃがめてしまう。

 逆に言えば、二の腕使わずに前腕から先の”小手先”だけ使っていると体の連動がかからず膝や腰を痛めやすい。

 

 太極拳でわざわざ”肱”を強調するのは、そのくらい私たちは”肱”を使っていないからだ。

 赤ちゃんや四つ足動物は体を突っ張る時に肩甲骨と肱が不可欠だ。

 が、私たちは一度立ち上がっってしまうと、その後は前腕から先で手を器用に使うことに慣れてしまい”肱”はおざなりになる。女性が”振袖”になりやすいのもそのせいだ。食器を洗う時に二の腕(上腕の裏の部分)をうまく使えるのならその人はとても姿勢が良いはず・・・

左の画像は赤ちゃんが立ち上がろうとしている姿だが、”突っ張っている”のが見て取れる。

 

肩から手のひら、お尻(股関節)から足の裏が突っ張り棒のようになっている。

この”突っ張り”が体をひとまとまりにする=周身一家=全身の連動に不可欠になる。(画像https://mamakon.net/article/wedding-parenting/child_rearing/1104312)

 

立ったばかりの赤ちゃん

 

”突っ張っている”!

 

相撲取りの足のようだ。

 

突っ張った足裏の反発力で頭頂まで立ち上がっている→『頂勁』と言われるもの。

 

 

 

  この”突っ張り”は足から頭頂だけでなく、至る所に存在する。それを劉師父は”撑“と言って、私にしょっちゅう注意を促してくれた。当時は意味がはっきり分からなかったが、今ではうよく分かる・・・

 

  というのは、加齢に伴い失われていくのは、この”突っ張り”=”撑”。

  赤ちゃんの時がマックスで徐々に減っていく。気がつけば前肩、猫背・・・これも”撑”が失われた証拠。

  そして肌のハリがなくなるのも同じ。

  姿勢も肌も同じようにハリがなくなり弛んでくる・・・

 

  老化という自然の摂理に背くことはできないにしても、姿勢はある程度維持できるはず。

↑上の2枚はいずれも雲手(運手)だが、左は”突っ張っている”が、右は”弛んでいる”。

 (左:https://youtu.be/mw1ocypdaTs  右:https://youtu.be/6bZdHwPUxw8)

  見比べるとその違いが分かると思う。

 

 突っ張った感じは全身の連動から生まれる。逆に言えば、全身の連動がないと突っ張りが生まれない。

 左の馮老師の場合は、右手と左手の間の突っ張り=撑,に止まらず、足と頭の撑、右足と左手の間の撑、腰と腹の間の撑、など、至る所に撑がある。それは空気がいっぱいに詰まった球体と同じだ。この内側から外側に向かっての膨らみを広義のポンという。赤ちゃんが膨らんでいるのと同じだ。 これが球の太極図をイメージした太極拳のお手本だ。

 

 右は誰でもできる手軽な体操として作られた簡略化された太極拳。これは四肢運動、手足の運動でできているので全身の連動がない。ダイナミックさに欠け息をひそめたような感があるのはそのためだ。人工的に作られた動きは窮屈さをともなう。連動がないため、膝に負担がかかっているのが分かる。

 

  が、右のような簡化の動きも、二の腕を起動させると動きが全く変わってくる(するともはや簡化の動きではなくなってしまうが)。

  二の腕を起動させると半ば足が勝手に動いてしまう。すると右のようなリズムにはなり得ない。このあたりを生徒さんに実験してもらうととても面白い。

 

 

  私は若い頃卓球をやり込んでいたけれど、今になって分かるのは、体の連動を随分無視していたということ。肩関節を外旋させる時に股関節も外旋させていた・・・それが股関節の捻りにつながりひいては膝のねじれ、外反母趾へと繋がっていった。肩関節外旋の時は股関節は内旋が正しい連動と知って改めて套路をすると、太極拳(混元)はそれが本当にそうなっている。バレエもそのようだ。今では体の研究が進み、各スポーツでよいコーチがいるのかもしれないが、昔はただがむしゃらに訓練させられていたなぁ、と。そういう意味では本来武術は体の正しい連動を追求してきた世界。ただ、それが秘伝とかなんとかで公開され辛かった。馮老師はそれを公開してしまった、と言われているが、それでもそれに気づかずに外形だけ真似をしている人は中国でも多いようだ。

 

 <↓おまけ>

 馮老師はどこをきりとっても”突っ張っている”。

 下の男性と比較すると違いは明らか。

 

2022/9/8 <上腕が使えれば膝の負担がなくなる 上半身と下半身の連動の鍵>

 

  今日のオンラインの個人レッスンは意外な展開。

  生徒さんは膝を痛めてしばらく太極拳から遠ざかっていた男性。私は既に王子の3種の神器を教えていた。膝を痛める大きな原因となっている股関節の可動域、そして肋骨を含めた背骨(胴体)のしなやかな動きを取り戻すのが目的。

  そして今日は、立甲法のメインである「ここからクルン♪」体操を教えようとしていた。肩甲骨が肋骨に貼り付いて動かない状態では背骨も伸びず前肩・猫背になる。猫背になると股関節にも制限がかかる。やはり膝に影響する。

  

  「ここからクルン♪」体操は、様々な方向から体を開発できる。

   胸鎖関節から腕を動かす、というのがまず最初の目標だが、そこから、腕の外旋、内旋にともなう肩甲骨の前傾・後傾、そして前鋸筋の起動、それから、肋骨や胸骨の開発・・・と実は奥深く、とても難しい体操だ。ただ王子の真似をしてやっていては、肩関節で腕を動かすだけになってしまいがち。いろんな角度からやってみる必要のある体操。そう意味ではとても難しい体操だ。

 

  案の定、今日もいきなり「ここからクルン♪」は無理っぽい。と、立甲法の最初に戻って「キミもパーフェクトボディ」体操を教えてみた。(https://youtu.be/z09eL8cbzA4 ここに一瞬その体操の動きが入っています。)

  とても単純な体の動き。①中指を立ててまっすぐ前方に伸ばし(キミも)②その中指をひっくり返しながら相手を挑発するかのような指立てをする(パーフェクトボディ)

  この体操はおそらく空手の①突きと②内受けが下敷きになっているのではないかと思う。

 

 ↑左 https://www.youtube.com/watch?v=z09eL8cbzA4&t=36s

  右 https://youtu.be/EYts0QMMKII

 

 実は太極拳も同じ。①は太極拳の拳の出し方。拳を出す前は掌側が上を向いていて、出す時にドリルのように回転する(チャンスーをかける)

 

  ②の動きは太極拳の外し技や相手の拳を遮る技になる。いずれも円運動だ。

 

  空手は中国拳法にある円運動を次第に直線的に行なっている感があり、極真空手の動きをみるともはや関節の回転運動はあまり使われず筋肉勝負の体の使い方をしているようだ。上の動画の国際松濤館の金沢宗家の場合は関節をしっかり回しているのが見て取れる。

 

  ポイントになるのは肘関節、肩関節、そして胸や肩甲骨の回転だ。

  手の平が上向きから下向きへ、あるいは下向きから上向きへ

  この時に普通の人は前腕の回外、回内運動で済ましている。

  が、武術の時、いや、どんな世界でもちゃんと体を繋いで使っている人は、手のひらの向きを変える時に肘を回転させている。上の王子の動画でも中指を立てる時にしっかり肘を回転させている(肘頭が横向きから下向きへ)のが見て取れる。

  肘がしっかり回転させられる、ということは、上腕がしっかり使われているということ。それは、肩甲骨が動いている、ということだ。

  突きの際も、拳の手のひら側を上にして構え、打ち出す時には拳を下向きにする。上の腰の王子の動画では、そこはちゃんとやっていないので見られないが、本当に「キミはパーフェクトボディ」をする時は右の金沢宗家の最後の突きのように、肘、肩関節をちゃんと回して体全体で拳を突き出す。

 

  そう、肘が回転し、肩甲骨が動くと、脇が立って(前鋸筋が起動して)、腰から足へと連動していく。肘と肩甲骨の間にある「上腕=肱」が太極拳で非常に重視されるのも、ここが上半身と下半身をつなぐ要になるからだ。

  逆にいうならば、上腕が使えていなければ、上半身と下半身は連動しない。

  が、その、「上腕を使う」というのは、肘を張り出して腕立て伏せをした時に上腕が鍛えられている、というような筋トレの感じではない。

  肘関節を回した時に感じる上腕を使っている、という感じだ。

  この時、肘の少し上腕側を回すような意識を持つのがこつ。肘頭を回しても上腕は回らない。

 

  今日の生徒さんにこの「キミもパーフェクトボディ」を教え込んだら、上腕を使う要領をやっと掴んだようだった。「キミもパーフェクトボディ」を上腕を使うバージョンと、上腕を使わないバージョン、両方ともできるのであれば、その人は上腕の使い方が分かっている。正解と間違えが両方わかるのであれば本当に正解が分かっている。正解が分かるが間違えがわからないとしたら、たまたま正解ができている可能性がある。このような正解はいつ失われるか分からない。失われた時に再現できなくなる可能性がある。きっちり分かると定着しやすい。

 

  上腕を使えれば脇から足がつながってくる。

  試しに、今日の生徒さんに、キミもパーフェクトボディを左右一緒にやってもらって、両方の中指を立てたポーズをとってもらった。そしてそこで腕をキープして、そこからしゃがんでもらうと・・・

   予想通り、まったく膝に負担がこない。膝をすり抜けてしまう。

   これには生徒さんもびっくりしていた。何でですか? と自分でやりながら不思議そう。

   腕が下半身とつながれば(太極拳でいう肩と股関節の連動=四正手)、膝に乗っかることがなくなる。肩甲骨の位置が正しくなり、上半身と下半身の連動がしっかりかかるからだ。腕がただ肩関節から動いているようでは上下相随は起こらない。

   「上腕を使う」、「肘が落ちない」(墜肘)、「脇が立つ」(この表現はバレエでよく使われるか)

  このあたりがキーワードになる。

 

  来週まで、日常生活でどのように腕を使えば脇が立って連動が起こるのかを研究してみることを宿題にしました。これで膝を使う恐怖から解放されれば何より。

   


2022/9/6 <恥骨筋に着目>

 

 今月の腰の王子のセミナーで得た収穫の一つが恥骨筋。

 「恥骨筋が使えないのでは武術家とは言えません・・。」と王子は笑いながら言っていたけど、そういえば、師父も収功をしながら恥骨結合をパキッと開けたりしていた。馮老師などは、銭湯で睾丸を引き上げてそれを確かめさせた、という話もあるくらいだ。

 そのくらい、前のクワの付け根、恥骨付近を操作する力は大事だ。

 

 片足立ちが右も左も同様にできる人はとても少ない。左右差があるのが普通だ。

 私の場合は、右足軸ならとても立ちやすいが、左足軸になると右足を上げた瞬間正中線が左に少し動いてしまう。

 直立して壁に右肩をつけた状態で左足を上げることはできるが、逆に左肩を壁につけて右足を上げようとすると上げられない・・・これは、右の恥骨筋は使えているが、左の恥骨筋がまだ使えていない、ということ。そう知って、左の恥骨筋を使えるように左の腰や尻上の力を抜いて左クワを内旋させたらうまく恥骨筋が使えて、どうにか左肩を壁につけたまま右足を上げられるようになった。恥骨筋を使おうとすると含胸をして背中側を膨らます必要があるのが分かる

恥骨筋は内転筋群の中で最も恥骨に近い位置にある短い筋肉だ。

 

これをうまく使っているのが能の構え。

能の構えはスキーを滑るときの構えと同じだとも言われるよう。(https://youtu.be/rDSx5pDcJLw)

どちらも恥骨筋は外せない。

 

片足立ちの時も軸足の恥骨筋はとても大事だ。もし恥骨筋を外して、その下の内転筋たちで立つと膝が曲がってしまう。軸足の恥骨筋を使うなら、太極拳の提膝の際に膝を上げた方の恥骨筋も効いているだろう。実際、提膝は腹の力が恥骨筋に伝わって太ももの根っこを上げるものだ。「腿上げになってはいけない」というのは、腿上げになってしまうと恥骨筋は使われず、長内転筋や大内転筋で太ももを上げることになってしまう。膝に威力はないし、なんといっても体幹部の力が膝へ通らない。だから腿上げをすると背骨が固まってしまうのだ。(提膝の場合は背骨が柔らかくバネのように使える。)

 

  四股も絶対に恥骨筋。これが外れると胴体の重さが足裏まで伝わって地面へと抜けない・・・というのは、恥骨筋は骨盤のアーチ構造を支える大事な部位であるから。

     と思って動画検索をしてみたら、恥骨筋をしなやかに使っている例はそんなに多くなかった。特に現代は???

 

  ↓ 左は https://youtu.be/JdXCr4GIrhs

   右は https://youtu.be/RL26gSomBLs

 私がいくつか見た動画ですぐに目が止まったのが、上の左の中の双葉山。

 当時は片足を上げる前に一度その足を引きつけている。この引きつける動作があると恥骨筋を起動させやすい。

   左の白黒画像の3人の中でも、双葉山は最も腰が高く柔らかく重い四股を踏んでいる。これは恥骨筋から順番に上から下へと筋肉を使っていっているからだ。

 左画像の照国という力士はとても深く四股を踏んでいるが、四股を踏んだ時の地面にかかる力は双葉山には敵わない。というのは、腰が落ちて恥骨筋が使われる前に四股を踏んでしまっているからだ(恥骨筋をスキップして内転筋を使い、その後、脛もスキップしてダイレクトに足裏へ、という感じ。)羽黒山は股の割れが浅くて足裏に落ちる力が少なそう。(あくまでもこの画像だけからの印象です。)

 

  右の画像は相撲探求科の松田哲弘先生の四股だが、左画像を見た後に見ると硬いなぁ、と思う。(腰の王子が重要視する肋骨のバネ、という点から見ても、左の力士たちの上半身は緩んでバネがある。松田先生は上半身の緩みがない分、恥骨筋も使い辛そうだ。)

  双葉山に興味が出たのでも少し検索していたら、私が思ったような評価をしている動画がありました。

 

https://youtu.be/0bjlYkzBpMw

 

評価は書き込まれている通りです。

 

足を上げた後に、さらに足が高く上がるのは恥骨筋の伸びの作用。踏んだ瞬間に恥骨筋、股がしっかり使われているのが見えます。

 

同じ動画にあった千代の富士。

現代の力士は踏んだ瞬間には恥骨筋はそれほど効いていなくて、踏んだ後にぐっと腰を下ろした時に恥骨筋のストレッチをしているような感じに見える。

踏んだ瞬間に上体が緩んでいるのはやはり双葉山・・・

 

 

  太極拳に話を戻すと、以前(2022/5/24)のブログで使った画像で検証することができそうだ。そのブログは「しゃがむ時はスネを見るとしゃがみやすい」というタイトルだったが、これを恥骨筋に焦点を当てて見ることもできる。

 金刚捣碓で後ろ足の右足が前に出る時、後ろ足のどの部分で動いているかに着目。

 上の女性二人は大内転筋あたりを使っている。

 下の二人の老師は太ももの付け根、恥骨筋から使っている。特に左側の陳項老師は恥骨筋に体重を乗せているのが見て取れる。

 

 太ももの内側は中止軸を形成するのでとても大事だが、それは股間に最も近い恥骨筋から使い始める必要がある。ここを抜くと膝にかかる負担が多くなる。

 そして、今更ながら気づいたのは、この恥骨筋を使わないと『园裆』にはならないということ。上の二人の女性のような『尖裆』もよくないし、大股を広げて深く座った『平裆』もよくない。

 恥骨筋は両足を中央に引きつける動作で使われやすいから、股を広げても広げないようにする、「開の中に合あり」、の感覚、股間での引っ張り合いの感覚が必要になるだろう。

 

 そして、恥骨筋を使うには必ず上半身の脱力が伴う(含胸はマスト。上の双葉山と他の現代の力士の違いは含胸にも現れている。)

 

  これをどう教えるかなぁ? 明日のレッスンで試してみよう。

2022/9/3 <膝の屈伸、アキレス腱ストレッチで良いのか?>

 

 前回の最後に付け足しのように書いた以下の記述

 

『これらを見てから現代の楊式を見ると、宗師の時にあった”突っ張り感”(撑)=足裏の力が掌まで達して、かつ、掌と足の裏が突っ張り棒のようになっている、が失われてしまったように見える。

 足裏で床を踏んだ力がお尻の付け根で止まってしまっている。掌(拳)まで達していない。』

 そして例として数枚の画像を付けた。

 

 実際、現在世界中に広まっている太極拳の多く(簡化を始めとする中国政府によって制定された健康目的の太極拳)はそんな風になっている。

 

←太極拳のチャンピオンの方の演舞(https://youtu.be/-ROY_4BCXv0)

 

 このような動きが模範として規定されている。

太極拳を学ぶ人はこのような体の使い方を学ばざるを得ない。

 

 が、大きな問題がある。お年寄りがちょっとした健康目的でこのような”体操”をするのはともかく、本当に太極拳を学ぶ目的でこの型をやり込んだなら、そのうち、膝、股関節、腰などに問題が出てきかねない。実際、太極拳をやり込んでそのような問題を抱えた老師はとても多いのだ。

  今だから書くが、故星野稔先生も、オフレコで「太極拳は体に悪い。」、と言っていた。当時太極拳を真面目に学ぼうとしていた私は度肝を抜いた覚えがある。しかし、星野先生が言っていたのは、現在広まっている太極拳、試合などで行われている太極拳のことだ。本当の太極拳はそんな国家に統制されて編纂されたものではない。真の太極拳は体を芯から整える・・・ということで、星野先生は馮老師について混元太極拳を学び、それを私たちに星野先生独特の動きで教えて下さった。私が混元太極拳を学ぶことになったのは星野先生との出会いだった。

 

  ともあれ、私には上のようなよく見る太極拳の重心移動の際の後ろ足の使い方が、「膝の屈伸」にしか見えない。膝の屈伸をしても後ろ足が地面を踏んだ力は上半身には達さないから、全く拳や掌に推す力、威力がない。太極拳から武術の要素を完全に抜いて舞踏化してしまったようだ。勁を視して体を使えばどこかに支障がでる。打ち抜けないからどこかに力が滞ってしまうのだ。『滞』が起こればその部分に師匠がでる。太極拳をする人にもっとも多いのは膝と股関節の障害だ。それは上のような動きが原因だ

 

 ←こんな風なアキレス腱ストレッチ風に太極拳のジーをしている姿もよく見かける。

 

  注意が必要なのは、ここで壁に手を当てているのは、それによってアキレス腱を伸ばすため。

 つまり、手で本当に壁を推しているわけではない。

 

 もし真剣に壁を向こうへと推そうとするなら、どうするだろうか?

 

    もはや、アキレス腱ストレッチでは壁は押せない・・・

   「壁押しストレッチ」なるものはあるか? と探したら、ありました。

    ↓https://ddnavi.com/review/626799/a/

 

  が、これは太極拳的に見ればまだ甘い。一番大事な腰の力が発揮できない。

  さらに見ると、こんなストレッチ発見。


  これで筆者の腰の調子がぐんと良くなったという。

  このように押せば、全身の力が発揮できる。アキレス腱一部分のストレッチに止まらない。 イラストなので正確には分からないもの、アキレス腱のストレッチでは使えなかった足裏(足底)の力がきっと使えているはず。(ふくらはぎ、アキレス腱のストレッチの問題は足首で勁を止めてしまうため、足裏のストレッチができない=足裏の力が使えない、ということ。)

 

  多くが誤解していると感じるのは、『足裏(踵)の力を使う』という太極拳の要領を、『足裏をべったりつけてアキレス腱を伸ばす』というように解釈してしまってること。 

  アキレス腱ストレッチをしてしまうと、足裏は床からの反発力を得られない。(アキレス腱ストレッチをいくらやっても、そこから前方に走り出せる気がしないはず。)

 

  踵がとても大事になるのは、踵が脚と足のつなぎ目になるからだ。踵を勁が通過しないと地面を踏んでも床からの反発力を得られない。砂辺や沼地で地面を踏むようなもの。前進力が生まれない。

  アキレス腱から踵を回り込んで足裏に勁が達して初めて足裏が活きて反発力を得られるようになる。

  上の右の図のような力を、頭頂を立てて得るにはそれなりの胴体の操作、丹田力が必要になる。

 

  腰の王子は修行時代、大木や壁を推す練習を何時間もやっていたという。体のどの部分の力をまだ使えていないのかを発見するとても大事な修行だったそうだが、そうやって体の隅々まで感じながら推していると5時間でもすぐに経ってしまったとか。太極拳のタントウ功をハードにしたような練習だが、若い時ならそんな練習もありなのだろう。

 私たちも実際に壁を真剣に推して、今自分がどこの力を使って推しているのか確認してみることができる。腕だけで推しているなら、肩も使えないか?と試してみる。そして腰の力を使って推すなら?そして胸、腹、お尻、太ももの裏、膝裏、アキレス腱、そして足裏、と使う範囲を広げてみるとよいだろう。 そうすれば体全部の力を使う、という感じがなんとなく得られると思う。

 

 アキレス腱ストレッチの検索をしていたら、それが特に高齢者の運動として取り上げられている場面が多いようだった。(例えばhttps://www.news-postseven.com/kaigo/93881) ひょっとすると、そういう配慮もあって、簡化太極拳はそんな足遣いになったのかも? なんて思ったりもしました。

2022/9/1 <二種類の座り方からの考察>

 

  鼠蹊部を深く織り込んで上体が斜めに真っ直ぐ立つようにすると、股下、股関節、足の力が脇から上腕、肘へと繋がりやすくなる。ちょっとしたペンギン姿勢だ。

  そんな姿勢で弾いていたのは、先日紹介したサンソン・フランソワ、ホロヴィッツ、そしてグレン・グールドだ。

  肘から指までのいわゆる”小手先”は脱力のまま。

  芯がありながらも繊細な音が可能になる。

 

 (但し、グレン・グールドは鼠蹊部の折り込みが弱く=骨盤底筋、股のストレッチが甘く=园裆が甘く、頂勁が少ない。晩年になるとピアノにますます没入した姿勢になった。イってしまった感のある独特のアーティスト)

 

  

 

  ピアニストの中には小手先がとても器用な人も多い。が、その場合は曲芸的なピアノになりがち。腱鞘炎などを患ってしまうこともある。

  健康的に弾くなら全身を通して弾くべき。鼠蹊部をしっかり折り込むことで股座に力が入り、足裏まで力が達する。足裏の力は股関節経由で脇、肩から肘を通って指先へ。

 


  上の斜めの直線型の他に、お尻から頭まで真っ直ぐ直線になったピアニスト達もいる。下のルービンシュタイン、アルゲリッチ、ブレハッチなどがそうだ。

  

 上の二つの姿勢、どちらもお尻(座面)と足の力が胴体を経由して手までつながっている。

  ここで重要なのが鼠蹊部の折り込み=恥骨から坐骨までのつながり=股座・裆の力だ。胴体の”底”の部分、ここがしっかり座面を掴んで园裆になると腿裏(ハムストリングス)がつながり、その結果、足裏が床面を突っ張って、それによって床の反発力が得られる。その反発力が下半身と上半身、脇から手指までを繋いでいく。

  太極拳で言えば、四正勁=肩と股関節の対応、が可能になるということだ。

 

  が、上のどちらの姿勢も、頂勁が得られるようになるにはそこそこの修練が必要だ。

 例えば、ピアノを一生懸命弾いているとそうなりがちな姿勢が左のようなもの。

 これは鼠蹊部の折り込みがなく骨盤が後傾して猫背気味になっている。頭が前に倒れ頂勁がない。

 

  このような座り方だとハムストリングスは使えない。たとえ足裏が地面についていたとしても足裏はしっかり根を張らない。この座り方だと足裏はついていても”浮いている”。

  腰の王子の体操の中で、「足の裏ペタジーニ!」とただ言うだけの体操があるが、座った上体で足の裏をベッタリ床につけようとするといやでもハムストリングスを使わなければならない。ハムストリングスを使えれば骨盤は立ってくる。

 

  実は、最初のホロヴィッツの座り方、斜め真っ直ぐの座り方は、腰の王子の「コマネチスリスリ体操」の腿裏と脇(前鋸筋)のつながりを使うものだと思う。股関節は深く織り込んで屈曲だ。

  これに対し、ルービンシュタインなどの、真っ直ぐに立てた体は、「おはようおやすみ体操」の表れだ。骨盤と胸郭、頭蓋骨という3つの球の連動によって胴体が立ち上がる。骨盤の前傾→胸郭の後傾→頭蓋骨の前傾と連動する。もし球の連動を考えず、ただ胴体を立ち上げたら体が硬直してしまう。

上は私自身の演奏時の姿勢の変遷だが、10年ほど前(左端)の時はまだ頂勁ができていなかった。劉師父から、ちゃんと恥骨を立てて座るように、と注意を受けていた頃。3年前の写真(真ん中)はお尻から頭頂まで勁が達しているように見えるが、球の連動をしていないので上体、肩が硬く指も硬い。今回は多少斜め直線でも弾けるようになった。骨盤、股関節から腕が繋がるような感覚が出てきて以前より弾きやすくなった。

 

 斜め直線の姿勢は楊式や呉式の宗師の姿に見ることができる

これらを見てから現代の楊式を見ると、宗師の時にあった”突っ張り感”(撑)=足裏の力が掌まで達して、かつ、掌と足の裏が突っ張り棒のようになっている、が失われてしまったように見える。

 ↓足裏で床を踏んだ力がお尻の付け根で止まってしまっている。掌(拳)まで達していない、

  問題は股座、お尻、骨盤、にある。

  胴体の底の部分は立位では練習し辛いので坐位で練習すると分かりやすいかなぁ。

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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