2022年6月

2022/6/27 <身体の開発とは? ループの書き換え>

 

  腰の王子の体の使い方は劉師父と似ている。というか、同じだ。

  腰の王子の動画を知ったのは腱鞘炎やバネ指の治し方を検索していた時だった。様々な整体師が様々な治療法を紹介していたが、腰の王子の、「よ〜しよしよし」と腕を摩る、というこの上なくシンプルなやり方を見て試した時、この方法だけが問題の根っこの解決を図っているのが分かった。しかも、「よ〜しよしよし」と摩る動作自体がそこらの整体師とは違う、只者でない・・・そう直感した。腰の王子というネーミングに苦笑しながら、その他の動画をどんどん見ていくと、なんだ、この人は修行者なのだ、と分かって納得した。

 

  修行者というのは、その道に徹していてその他のものを切り捨てている(というより関心のない)人。一直線のシンプルな生き方でブレがない。私自身はすぐにいろんなところに興味が移ってしまって全く修行者とは言えないが、もし男だったら修行者になっただろう・・・だからか、修行者かどうか、というのは無意識的に嗅ぎ分けている。今では中国でも修行者と言えるような太極拳の老師は少なくなってしまったが、日本でこんなところに修行者がいたとは・・・それも一風変わった現代版で・・・と興味津々になった。

 

 

  修行によって内側が開発される。

  太極拳ならタントウ功や座禅の静功をし、気を使って内功をする。

  内側から外側を開発する。

  ただの筋トレやストレッチとは異なるのはそこにある。

  体の内側の”気”を運用することで骨や筋肉のアライメントが変わる、変えられる。そのためには、骨や筋肉を動かせるほどの”気”の量と圧力が必要だ。だから静功でしっかり気を蓄積させて内功で練っていく。これが太極拳での「体の開発」の方法だ。

 

  と、これをやったことのない人に説明してもポカ〜んとするだけ。何の話をしているのか分からない。けど仕方がない。それが分かる人はそれを経験している人だけ。

  が、腰の王子が、「『体の開発』は『運動神経を書き換える』ことだ」と言っているのを聞いて、なんだ、そうだったのか、と合点がいった。

  太極拳での丹田や気を使った静功や内功は、とりもなおさず「運動神経を書き換える」メソッドだったのだ。

 

  自分の祖母は100歳で亡くなったが、最後の方は会話をしていても返事が5パターンくらいになっていた。何を聞いても、なぜか答えが同じになっている。私の若い姪はそれを聞いては大笑いしていたが、実は私たちの頭も同じ轍をぐるぐる回っている。若いうちは脳内に新しいループがどんどん形成されるが、あるところから、新しいループはほとんど形成されず使い慣れたループだけを使って脳が働くようになる。

  体も同じようなもので、子供の頃は使えば使うほど使えるところが増えていくのだが、20歳を超えてくると使えるところを使って運動するようになる。体に癖、歪みというものだ。が、本人は無自覚なのでどうしようもない。相当良いプライベートコーチでもつけない限りは運動すればするほど癖や歪みは助長される。

  歳をとって腰を痛めたり膝を痛めたりするのは、筋肉が弱くなったからではなく、体の使い方、使う路線を間違えて使い続けているからだ。が、正しい使い方=正しい路線をどのように身につけるか、というと、ちょっと気をつけたくらいでは身につかない。脳の運動神経を正しく書き換える必要がある。

 

  脳に書き込まれた情報を書き換えるというのは、いわば、頓悟的なものと漸悟的なものがある。つまり、悟りの方法と同じだ。一気に悟るか(書き換える)、それとも時間をかけて徐々に悟るか(書き換える)か。

  丹田に気を溜めてそれを内側から流して体の意識(神経系)を徐々に書き換える、というのはよくあることだし、時に一気に気が流れて、バキッと音がしてそれまで知らなかったところが開いて瞬時に使えるようになってしまうこともある。いずれにしろ、体の中で使ったことのないところが使えるようになった、つまり、運動神経が通るようになった、ということだ。

  神経が開通していないと筋肉は動かない。どれだけ筋トレやストレッチをしても境地は変わらない。

  これを腰の王子は立腰体操というシンプルだがとても変わった体操で実現させようとしている。

 

  立腰体操はとても精密に計算されて作られている。

  修行者が座禅や内功で得る境地をあの体操で得させようとまで考えて作られている体操だ。あんな体操でそんなバカな・・・と最初は思ったが、中身を深く知れば知るほど、さもありなん、王子が言うように、修行者が10年15年かかって到達するところを1年(は無理かなぁ)2、3年?で到達するかも? エッセンスは詰まっている。が、、問題は、あの体操を王子がやるように再現できるか?

   私が生徒さん達に立腰体操をやってもらって気づいたのは、羞恥心が邪魔して声がきちんと出ないこと。動きが正確でないこと。もちろん、それを毎日繰り返して脳に新しいルートをインプットさせ続けることも必要だ。

   笑ってそれで終わり、だと運動神経は書き変わらない。

 

   ヨガをやり込んでいる友人に立腰体操を紹介したら、「それを本当にシラフでできるのか?」という反応があった。私の生徒さんの中にも、「もう少し真似しやすい体操にしてくれればいいのですが・・・」と言う人がいた。

  腰の王子は、天才は、真面目の中にアホが必要、と言っているが、自分の中で使っていない部分を開発するには、「羽目を外す」必要があるのだろう。羽目が外れず、理性で制して体を使うと体は同じ神経系統を使ってしまう。太極拳のタントウ功や座禅で入静状態に入る必要があるのは、それによって大脳皮質(中でも前頭葉)をお休みさせるため。大脳による拘束を解くことで体に新境地を与える。

  腰の王子の口に出しにくい言葉や顔の表現はそんな大脳の枠をとっぱらう役割があるのだろう。そして発声によって内側に気を通すから、発声は王子の声色、声のトーンを真似る必要がある。六字訣と同じ作用を狙っているので、最初は大きな声ではっきり、慣れてくれば小さな声、無音でもできるのだろうが、そのためには、その音によって体の内側のどこが開くのかをしっかり知っている必要がある。

 

  立腰体操は誰がやっても効果がある体操として作られているが、これを最大限に使えば秘伝とされている太極拳を含めた武術や武道の身体の内側からの開発ができるだろう。

  が、「これをシラフでできるのか?」

  できないなら、地道にタントウ功をして内功をするのかなぁ・・・

  どちらの方法をとっても、一般人から見れば極端な道。修行者の道だ。

 

  太極拳を学び出したころはただ套路を覚えて動くのが楽しい。が、それでは使っている運動神経の使い回しで真の”身体の開発”にはならない。知らないところを使う、ということは頭でどう頑張ってもできないのだ。それを可能にしようとしたのが気や丹田を使った練習、そして一見奇妙な立腰体操。脳のループを書き換えるのが解脱に向けての修行。

  結局、ループの書き換え、これを超える人生の課題、目標はないだろう。

  

 

2022/6/22 <体幹部から動くための放松 くねくね 股関節と骨盤の関係>

 

 太極拳から学べることはいろいろある。

 技も学べるし、丹田、経絡、気の溜め方、運用の仕方、そして中医学、中国文化・・・と広がるが、その中核にあるのは、人間の本来的な体の使い方、だろう。

 ひっくり返していえば、私たちは人間の本来的な体の使い方をしていない。それに気づかず、今までずっと動いてきた。小中高、そして大人になってからもスポーツを楽しんできたけれど、それは自分勝手な動き方でやってきた。使えるところを使って使えないところは使えないまま。真の意味での体の開発はできていなかった。

 

 今の師に出会って、それまでの運動に対する理解が根こそぎ変えられてしまった。

 まず、力を抜け!(放松)というのが驚きだった。

 力を抜いてどうやって動けというのか? 力を抜いてどうやって打てというのか?

 気を溜めろ、というのも理解不能だった。何のために? 丹田を作ってどうするんだろう?

 そしてくねくね動く内功。

 日本では腰をくねくね動かすのはご法度。ダンスならOKだろうが、日本武道で腰フリフリはありえない。そもそも文化的に背骨は動かさずにまっすぐなのが正しいとされているようなきらいがある。

 が、中国武術はくねくね。くねくねを学んで次第にそのくねくねを隠すようになっていく。

 

 今ははっきりわかる。私が師から教え込まされてきたのは、「体幹部から動く」ということ。それができれば太極拳の技は難なく習得できてしまう。逆に、「体幹部から動く、動かす」ということができなければ、技を学んでも習得はできない。体幹部から末端までを内側で繋ぐ経路を開発することが太極拳には不可欠だ。これが体の開発、と言われるもので、そのために放松や丹田、くねくねが必要になるのだ。丹田や放松は内側のネットワークの開発のために必要となる要素、それら自体がゴールではない。

 

 腰の王子はその体の内側のネットワークの開発のためのメソッドを「立腰体操」という形で確立させたようだ。太極拳を学んだことのない人からするとなんともふざけた体操だ、と思えるかもしれないが、太極拳の内功をやってきた人から見れば、これはあれと同じだ、とどの体操からも接点が浮かんでくる。この体操は太極拳とは無関係?と思えた体操も、ひとたび師父に見てもらうと、一言で、これは太極拳の開合法と同じだ、とか、これは大椎穴を通す練習だ、と言ってくれる。やはりどれもそうなっている・・・。

 

 「股関節の外旋には骨盤の後傾が、股関節の内旋には骨盤の前傾がセットになっている。」by 腰の王子。

 なるほど、この連関がうまくいっていないと股関節や膝に負担がかかる。

 太極拳の套路の重視移動の際、右股関節が外旋、左股間節が内旋しているような場合(例えば雲手の左から右への重心移動)、右側の骨盤は後傾、左の骨盤は前傾している。もちろんそれには仙腸関節の動きが必要になるが・・・。

 太極拳で重心移動を練習する時は同時に股割り(仙腸関節で左右に割ること)をやっている、と気づく人はどのくらいいるだろう?

 私は上の命題を腰の王子から知ったことでそれに気づいた。

 が、そもそも、骨盤の右と左で、片や後傾、片や前傾になるなんて考えたことがなかった・・・。

 

   改めて第22式平心捶の初めにある穿心肘の動きを見ると

 

これが馮老師。

 

左から右への重心移動

左股関節は内旋、右股関節は外旋になるような動きの箇所。

 

馮老師のお尻を見ると、

重心移動の終わり、左右のお尻の形が違うのがわかる。左のお尻は高く右のお尻は下がっている感じ。

 

下の二人の老師の動きと比べてみる。

 

 馮老師と比べた時の明らかな違いは、二人の女性の老師はどちらも下半身(脚)の力が上半身に連動していないこと。

 馮老師は体重移動が終わると同時に発勁。下の老師達は重心移動が終わってから発勁をしている。つまり、重心移動が下半身だけで行われていて上半身と連動していない(肩や胸だけで肘技をしているから重さがない。し、威力がない。)

 

 そしてこの下半身と上半身の連動は、骨盤の後傾、前傾運動と多いに関係ある。

 一番左に馮老師の一番弟子の陳項老師を加えてみた。

 股関節が内旋する左側の骨盤は前傾、股関節が外旋する右側の骨盤は後傾している(左のお尻の方が右側よりも持ち上がったような感じ)。骨盤が前傾した側の腰は反り気味に、後傾下側の腰は塌腰になる。(骨盤後傾気味にすると気は足の方へ降りる。前傾気味にすると気は足から頭の方へ上がる。) 左側の骨盤を前傾させて股関節を内旋することにより、左足裏で地面を押した力が右肘へと繋がることになる(左下から右上への斜めの連関:四隅勁)

 対して、二人の女性の老師は四隅勁ができていないため、上下は分断し、中正が崩れ、肩も上がってしまっている。穿心肘の形だけ真似ると最初は皆こうなる・・・内側の繋がりを見つけないと正しい形にはならない。

もう一度馮老師の形を見ると、まあ、なんて歪んでいる(くねっている)のになんて真っ直ぐ!

簡化太極拳では許されなさそうな形だ(苦笑)

 

お尻の”かたちんば”感が半端ない。

が、これが正しい連動。

動物、って感じがする。

 

(腰の王子のフィジカルタイプ論でいえば、左写真の馮老師の左半身は女の子:骨盤前傾の連動、右半身はおじいちゃん:骨盤後傾の連動。頭蓋骨の連動(左は前傾、右は後傾)までできているようなのがさすが馮志強大師!と思うのでした。)

2022/6/20 <腰の王子から太極拳を見直す 歪みをとる=節節貫通>

 

 目下、腰の王子の立腰トレーナー養成コースで体の歪みの正体、そしてその解消の仕方について学習中。太極拳の練習では経絡やツボを手がかりにやっていたが、どこかもやもやしたところがあった。自分自身の体の左右差は自分では気になっていても外からはなかなか見えない。師父も様々なアドバイスをくれたのだが根本解決にはならず、パリに滞在中はバレエ整体やその他整体師の動画などで体の構造、つながりなどを学んでいた。

 そして数ヶ月前に知った腰の王子。知りたかったことが学べる、とすぐに飛びついた。

 左右差があるのは私だけではない。生徒さん、とりわけ、長年太極拳を学んでいる生徒さんほど左右差を訴える。太極拳をやったから左右差が広がった、というよりも、太極拳を学ぶとそれまで気づかなかった歪み、左右差に気づくようになってくる。初心者のうちは体が塊になっていたため左右差に気づかなかったのが、体を緩めてバラバラにして内側の練習をしていくと左右差が明るみに出てくる。

 

 で、どうするか? 

 腰の王子曰く、歪みがあるのが普通、歪み(左右差)がなくなれば達人! 健康で疲れも残らない。

 そう言われてみると、馮志強老師や師父など、太極拳や内家拳の師たちは独特の地味な練習をしていたが、それはまさに、歪みをとる練習だ。毎日毎日歪みをとる。歯磨きをするようなもの?

 

 腰の王子の解明した理論により、人の体は驚くほどシンプルに理解できることが分かった。なんと、2タイプしかなかった。

 一人の体は左右に分かれ、どちらかがA求心性、どちらかがB遠心性になっている。生徒さん達の体で調べてみても皆そうなっているし、街ゆく人の歩き方を見てもそうなっている。Aの側をBに近づけ、Bの側をAに近づけるような体操をすれば徐々に左右差は減ってゼロの状態に近づく。

  2が1へ。この世は2の世界。男女、左右、大小、天地・・・陰陽の世界。これが1になったらこの世のものではなくなる。差をとったら”差とり”=”悟り”になる、と腰の王子は言うが、陰陽の世界から太極の世界へ、というのも似たようなところがある。

 

  太極拳の節節貫通、というのは、関節を貫いてエネルギー(気、勁)が通っていくということ。歪みのない状態だ。子供の時は当たり前だった節節貫通が、大人になる頃には局所的に力を使う癖がついていて使いたくても機能しない箇所がたくさんあってそうはできなくなっている。体を無理やり動かしていることにも気づかない。力を使うたびにこわばってしまう。歪んで固まった体が当たり前、それをまた節節貫通状態に戻して技に生かすのが太極拳。だからこそ養生法、健康法としても成り立つのだ。

  

  腰の王子の2つのフィジカルタイプは全身の関節の連動が2タイプあることを解明したもので、その2タイプの連動がうまくできれば体は自由自在に動かすことができるというものだ。面白いのは、それが、求心性と遠心性、太極拳で言えば、開合(開が遠心性、合が求心性)ということ。合(求心性)であれば、骨盤後傾、股関節内旋、肩関節内旋、足首背屈・・・と連動する。(開(遠心性)ならその反対) それを身体中の関節で調べていくと、例えば、骨盤が後傾(斂臀)しているのに(注意:骨盤後傾は腰がまっすぐな状態のまま骨盤が後傾)頭蓋骨が前傾していたら(鶏のトサカを立てるように)連動がうまくできていない(首関節に負担がかかっている)ということになる。太極拳の老師達でさえ首の連動がうまくできている人はとても少ないのが実情(私も含めて)。ましてや普通の大人は・・・。首が自然に立たなくなるとそのうち猫背、腰痛、そして膝痛、と次第に年寄りの姿勢になっていく。首がうまくたっているうちは姿勢は崩れない、そのためには肩甲骨や肋骨が固まらないこと、手を使う時には肩甲骨や肋骨が動いていることが大事。そんな内功が太極拳にはあるし、腰の王子の体操の中にもあるのはただの偶然ではないだろう。

 

  腕や手の不調を訴えるのは圧倒的に女性が多いと思う。

  腱鞘炎はピアニストに多いが、これも、関節の連動がうまくできていない時に起こる症状だ。

  マッサージをしたり、腕を捻ったり、と様々な方策があるが、根本解決は、手を使う時に手首と肘、肩関節の連動を取り戻すこと。例えば、パソコンでマウスを使ったら肋骨や肩甲骨が微妙にでも動くように。なんなら、肩甲骨と肋骨を少し回しながらマウスを回せばよい。小手先(肘から先)で作業をすると体は固まる。小手先はそのままにして、肘より根本を頑張って動かせば体は緩む。これを腰の王子は江戸人の体の使い方、と呼ぶが、太極拳の丹田回しはまさに体の中心を回すことによって手を使うことを体に教え込ませている。丹田は体の中心にある架空の関節のようなもの。これを回せば身体中の関節が連動して回るような仕掛けを作っている。

  腰の王子の示範でもそうだったが、関節を連動して使う練習では必ず円運動を行う。円運動をしようとすると体は放松せざるを得ない。筋肉を使おうとするご体は硬直しやすいが、関節を使おうとすると緩む。

 

  下は江戸時代の人たちの体の使い方・・・太極拳の内功の動きにそっくり(笑)

  台所仕事しながら(お風呂で体を洗っていても)太極拳の内功が活用できてしまうと目から鱗でした。

2022/6/15 <噛み合わせと下顎の調整>

 

 私の生徒さんの中に武術バカと言ってもよいくらい武術好きの若い男性がいたのだが、彼は今ではりっぱな歯科医になっている。あまりにも多忙で練習には来られなくなってしまっていたのだが、ある時、咬合調整を受けてみませんか、と連絡が来た。話を聞くと、彼は、咬合(噛み合わせ)の臨床研究の第一人者、丸山剛郎氏(大阪大学名誉教授)の下でマウスピースを使った下顎を正しい位置に戻す治療を学ぶとともに、その他にも様々な咬合調整の手法を学んでいるらしい。

  通常の歯科治療を行いながら、それに加えて咬合のスペシャリストになろうとしている?何故? と不思議に思ったら、彼曰く、「噛み合わせや顎の位置が整うと全身のつながりが良くなるし威力も出る。武術の練習をする時間がない代わりに咬合の面から武術を考えることもできるから楽しいです。」 

  

  第一回目の診断の際、私の口の中を見てから、爪楊枝のようなものを取り出し、私の左の犬歯の奥あたりに置いて噛むように言われた。それから私は両手を上げ、彼が私の上げた腕を上から押さえつける。私の両腕はビクリともしない。が、爪楊枝を口から外して同じように両手を上げ、それを彼が両手で上から押さえつけると、ものの見事に私の両腕は落ちてしまった。

  爪楊枝を噛んだだけでこんなに体に差がでるとは!と一瞬驚いたが、奥歯が一本失われると片足立ちが不安定になる、という話をどこかで聞いたことを思い出して、噛み合わせが体に相当大きく影響を与えるのは不思議ではない、とすぐに納得した。

  きちんと調整するには歯型をとって、そこからどこをどう調整するのか分析する必要がある。上の歯と下の歯がしっかり合っていないところはそれを合うようにすると、噛んだ時にこれまで入らなかった横っ腹に気が入る(丹田がさらに広がる)ことが分かる。逆にいうと、噛めていない、ということはその分腹に力が入らない、ということだと気づく。老人になって歯がカタカタしていたら腹はすっからかんになるだろう・・・

 

 私の生徒さんがまず行ったのは下顎の位置調整。これは噛み合わせとはまた違う。筋肉でぶら下がっている下顎をマウスピースをつけることで正しい位置に戻し、徐々に筋肉のバランスを変えていく、という手法だ。できあがったマウスピースをつけるといつもと下顎が異なる位置に調整される。が、その位置の方が鏡で見た時に顎はまっすぐになるし、なんといっても首や肩がよく緩む。

←あごのずれについての丸山氏の記述https://www.jio-maruyama.info/appearance/detail02-6.html

 

「下顎は頭蓋骨にぶら下がっている。

顎がずれるとまずは首こり、肩こり、あるいは目眩や耳鳴り・・・

そして頚椎→胸椎→腰椎と次々にねじれがおこり、バランスをとろうとして腰の筋肉が緊張したりする。」

 

  私自身、タントウ功をしていると頭が少し右を向いて顔が左に傾いていたりする。師父にも何度か調整された。が、意識していないとまたその位置に戻ってしまう。ひょっとすると自分がまっすぐ前を向いているつもりで、そうではない? 左目に乱視があるのはそのためか?

  頭蓋骨の位置調整は腹に気を溜めるよりも難しいと思う。

  頭蓋骨は上丹田の場所で神経の源。とてもデリケートでとても微妙な場所だ。

  

  上の記事にもでているような「アウアウ体操」でも下顎の位置調整は可能だという。

  

  マウスピースでの治療はしばらく時間がかかる。が少しずつ左右差が減っている感じがある。そしてある時の診察時に、奥歯の奥(喉に近いところ)をぐっと奥に押されて、「力を抜いてください」と言われ、わけがわからないまま抗する力がふっと抜けたとたん、胸鎖乳突筋から首の付け根が緩んで胸が広がったのは感動的だった。喉は内側から開く、というのはオペラ歌手たちのトレーニングとして聞いたことがあったが、実際にこんな風に喉の奥に手を突っ込まれて内側から筋肉を押すことで喉や胸が開くという経験は初めてだった。含胸というのが、実は胸が開いた状態だと気付いたのはこれがきっかけだった。

 

  今日の診察ではマウスピースの調整と合わせて、私の上下二本の歯を数秒、ほんのちょっと削ることで噛み合わせを変えてしまった。首筋左右の感覚がそれだけで揃ってしまう、なんて簡単な調整! と感動したが、どこをどのくらい削るかを見極めるのが”技”。

  診察に行くたびに新しい手法を身につけていっている彼がとても頼もしい。40を前にして意欲的に取り組んでいるのが分かる。咬合から全身のつながり、アナトミートレインまで学んでいると言っていたなぁ。

 

 

  噛み合わせや下顎の位置の大事さは昨今いろんなところでとりあげられている。

  例えば下顎について https://style.nikkei.com/article/DGXKZO24955340S7A221C1W10600/

 

 太極拳の「下顎内収」という要領はとても簡単そうだけど、下顎を引いてただの二重アゴになっているようだと「内収」にはなっていない。これは「含胸」へと繋がるための大事な要領。「下顎内収」とともに喉や肩、胸の上部(の内側)が一緒に動く必要がある。これも顎がズレが大きくて首の筋肉が硬直しているとやりにくだろう。

 

まずはアウアウ体操がおすすめ。

・正しい姿勢で立つこと。

・歯を合わせないこと。

 

「肩こりにはアウアウ体操が良いよ」

https://www.tefutefusanpo.net/entry/2017/01/23/

 

 

 

私の生徒さんが診察治療を行なっている歯科医院 https://odc-3.com/treatment/adults/occlusion/

2022/6/14 <ハムストリングスと背骨、腹圧の関係>

 

 太極拳の画像検索をすると、ほとんどが前腿に乗っかった形になっている。股関節、ハムストリングスをしっかりつかって太極拳をしているような姿は少数派だ。おそらく、太極拳が体操化したり、あるいは競技化した時に、”背骨はまっすぐ”と規定され胴体を固めてしまったのが根本原因ではないかと思う。本来、太極拳を含めた中国武術の背骨は柔らかく作られている。太極拳はそれを”弓”と呼んだ。弾力性のある背骨、ジャッキーチェンのような動きは中国武術の典型。太極拳も柔らかさ、弾力性、中でも腰の柔らかさは特に重視される。というのは、腰が柔らかくないと活きた丹田が作れないから。

 

 私の生徒さんの一人、70歳を越えているという女性の生徒さんだが、最近になってハムストリングスを使って動けるようになってきた。それまでは典型的な前腿タイプ。裏腿を使うように導こうとあれこれやってきた成果がやっと現れてきた。

 裏腿(ハムストリングス)を使って動けるようになってきた彼女の最も大きな変化は、上半身の動きが柔らかく、力が抜けた、ということだった。「なぜ急に彼女の動きがこんなに柔らかくなったのだろう?」と不思議に思ったら、彼女が立ち位置が裏腿を通ったライン状に変わっていた、そういうことだった。

 

 その生徒さんに尋ねたら、裏腿に体重を乗せようと随分頑張ったようだった。使ったことのない筋肉を使って筋肉痛にもなったらしい。ただ前腿から裏腿に体を乗せる位置を変えようと努力をしていたようだが、その結果、体は緩み、上半身と下半身の連動が起こるようになったのには私も驚いた。なるほど〜、そういうことだったのか〜。

 

 冒頭に書いたように、背骨をまっすぐに立ててしまうと、ハムストリングスに乗ることはできない。ハムストリングスに乗ろうと後ろに重心を移していってもハムストリングスには乗れない。背骨は緩めなければそうならない。背骨を棒のようにまっすぐ立てると前腿に乗ってしまう。太極拳には「背骨をまっすぐ立てる」という要領はない(はず)。あるのは、虚霊頂勁、下顎内収(頚椎)、含胸抜背(胸椎)、塌腰(腰椎)、敛臀(仙骨)。頭頂から脊椎を後方に押し広げながら下方へ垂らしていくような動きだ。これが弾力性のある背骨をつくり、ハムストリングスへと繋がっていく。弓のような背骨とハムストリングスは一繋がりになっている。頭頂から背骨、ハムストリングスを経て足裏までで大きな弓となる。

 

 ハムストリングスを使えるようになった生徒さんは腹圧が高まったとも言っていた。

 いや、ハムストリングスを使おうとすると腹圧が必要で、頑張って努力していたら腹圧が高まった、ということかもしれない。

 ハムストリングスを使うには少なくとも腰椎を後方に押す必要がある(命門を開く)から、そのための腹圧が必要になる。逆に、ハムストリングスを使っていれば腹圧が維持される、とも言える。腹圧は丹田と置き換えることも可能だから、ハムストリングスと丹田はセットだとも言える。

 前腿に乗っているうちは、本当の腹圧、丹田が得られていないだろう。

 

  

 下は最近紹介されて見たYuRuMu整体院の腹圧についての動画の一つ。動画の中のイラストがとても分かりやすい。腹圧は腹の前の方に作るのではなく、思ったよりも後方に作る・・・これが命門を(内側から後方へと)開ける、と言われているもの。タントウ功の最初の関門だ。腹から腰の方にむけてぐっと押し込んだ感じ。ここに腹圧がかかればハムストリングスが使える。前の方では無理だ。 

2022/6/13 <ハムストリングス、股関節、膝上げと腿上げの違い>

 

   前腿はブレーキ筋、後ろ側のハムストリングスはアクセル筋。

 人間も四つ足動物と同様、前進する時は後ろ足のハムストリングスが主導になる。太極拳の弓歩での重心移動、進歩(前進)も同様だ。前足の前腿は緩んだまま。

 しかしながら、特に日本人は前腿主導の歩き方をする。歳をとると”膝歩き”のようになるのも元をたどればハムストリングスで歩いていないからだ。

 

日本人の歩き方の拙さを指摘する人は多い。例えば https://gendai.ismedia.jp/articles/-/83154?page=5

では左のようなイラストを交えて、世界標準と日本人の歩き方を解説している。

 

しばらく海外にいて日本に戻ってくるとその姿勢と歩き方のおかしさに驚くのだが、そのうち見慣れてくると違和感がなくなってくる。しかし、頼りない体はさまざまな問題を引き起こす。太極拳を学ぶと、正しい姿勢、歩き方も学べることができるはずなのだが・・・。

 

  上のイラストは前足が地面に接地する時点(イニシャルコンタクト)を描いたもの。

  世界標準では、後ろ足が地面を推してからだを前方に推し出している。前足は体が前方に押し出されたことで振り出される。踵が地面に着いた時にはその上に頭を含めた体が乗っかっている。

  ポイントは、まず頭、胴体(丹田)が前方に動き、それに伴って後ろ足が地面を推し、前足は前に振り出される。

  これに対し日本人の歩き方は、頭、胴体(丹田)が止まっていて、脚だけで動こうとするから、まず前に足を出さなくてはならない。静止状態から片足を前に出そうとすれば太ももを上げてしまう。太ももを上げて前方に一歩出せば、膝に着地してしまうのは必至。日本人の前足の膝が上のイラストのように曲がっているのはそのためだ。肝心な後ろ足のハムストリングスは緩んだまま。歩けば歩くほど脚は短く膝を痛めてしまう。

 

 (少し説明)

   太極拳のレッスン動画を見ていると、「股関節から脚を動かして!」と言いながら、太ももから脚を出している先生がとても多い(簡化の場合はほとんどそうなっっている?)  

 

 股関節=太ももではない。

 股関節は骨盤と太もものつなぎ目。  

 意識としては骨盤(=腹、腰)を使って脚を操作しようとすることによって、初めて股関節が起動する。(どの関節にも共通するが、その関節を使うにはその関節を構成する二つの骨の体の中心に近い方を動かそうとするとその関節が起動する。例えば、肘関節を使いたいなら上腕を、肩関節を使いたいなら胸を。太ももから脚を使うと膝関節を使うことになる。)

 股関節を使うなら、腹や腰から脚を動かそうとする必要がある。

 

 「股関節から脚を上げて下さい」と言われた時に、とっさにどんな風に脚を上げるのか?街角で実験してみると面白いかもしれない。ちなみに、私の友人はとっさに雄犬のおしっこのポーズをした。私だったら、膝を上げるかなぁ。

 

 →膝上げ、についてさらに脱線

 提膝=膝上げ、は股関節を起動させるもの。

 太ももを上げると股関節は起動しない。

(ここで起動と書いたのは、股関節の、屈曲・伸展、内転・外転、内旋・外旋という単体の動きではなく、これらが複合的に行われた時に起こる、くるくる回るような動き。骨盤の前傾と後傾をもたらすような回転。解剖学的にどう説明されるのかはよくわかりません。)

    ↑四人の『提膝』。が、『提膝』になっていないのが二人。その二人は”膝上げ”ではなく、”腿上げ”になっている。

  膝上げなのか、腿上げなのか、その違いは骨盤、腰を見れば分かる。

  

  膝上げをすると股関節が回転する(膝関節を操作しようとすると嫌でも股関節を使わざるを得ない。股関節を使おうとすると、骨盤や腰が動かざるを得ない)

  つまり、膝上げをすると連動して骨盤が後傾し腰は丸めになる。

  これに対し、腿上げをすると股関節は回転しない。連動が起こらないから骨盤も腰も影響を受けない。胴体は固まった箱のまま。

 

  馮老師の18の球の説明と同様、関節が回転することによって全身が連動する。太極拳はその関節の連動を使った動きを習得するためのもの。節節貫通、というのは関節の回転を前提としている。丹田はそれら関節の回転の親玉のような役割を果たすものだ。(腿上げでは丹田は無関係。膝上げには丹田の回転が使われる。上の左上の馮老師は丹田の回転を使っていると思われる。が、右上の老師の場合は、膝上げになっているものの腹筋を固めて膝を上げている感がある。腰が落ちて姿勢が崩れてしまっているのはそのためだろう。)

 

  最近ハムストリングスを使えるようになってきた生徒さんは、それに伴い上半身が緩んで動きが随分変わってきた。それは頑張ってハムストリングスを使うようにしたことで、関節の連動が起こるようになってきたからだろう。その話についてはまた書きます。

2022/6/11 <腹圧 心で体を内側にまとめる> 

 

  抱拳礼をすると腹圧が”キマった”感じがする。けど、とんがりコーンは”キマった”感じがしない、ただのギャグか子供の遊びのポーズのようにしか思えない・・・

  としたら、その違いは『腹圧』にある。

  ”キマった!”と感じる時は腹圧がかかっている。普通は無意識で気づかないけれども、注意してみれば気づくことができる。

  

  手と手を合わせるようなポーズは腹圧がかかりやすい。お祈りのポーズも何気で腹圧がかかっている。息をこらえてしまうと胸でとまってしまうが、静かに息を通せば腹に気が落ちて腹圧が高まる(丹田に気が溜まる)。初心者は胸の前で両手を合わせてタントウ功をすればいい、と師父が言うのはそのためだ。

  その手の圧を最大限に活用したのが、太極棒を使った捻る動作。これだと誰でもを腹圧がしっかりかかるのを実感できる。

 

  太極拳の動きの随所に両手が交差する瞬間があるが(eg.太極円を両手で描くと必ず両腕が交差する。)この両手が交差した状態を「十字手」というが、この「十字手」は「万能の手」と言われるそうだ。両手を掴まれた時もまずはその掴まれた両手を交差させる。それから手首を回せば簡単に相手の手を外すことができる(上歩七星)。まあ、なんて不思議、と思うのだが、よく見れば、手を交差させると丹田の力が簡単に使えるのが分かる。両手を並行に前に差し出すのと、交差させて前に差し出すのでは腹の力の使え具合が全く違う。それをうまく使っているのが太極拳の巧みなところ。

 

 話を戻すと、抱拳礼だと両手を合わせる分、丹田が作りやすい。丹田が作れると両脇も締まり腕がしっかりする。腕は胴体と一体化する。

 これに対し、とんがりコーンやウルトラマンのポーズ(先日載せたもの)では両手が合わさっていないためうまくやらないと腹圧が酢っこ抜け丹田が作れない。ちょっと間抜けなポーズになってしまう。

 

 ただ、とんがりコーンのときには、「眉間に意識を集める」、「真剣な面持ちで」、そして「とんがりコーン!」と言う時の声は低く、軍隊の号令のように短く速く発声させるよう腰の王子は指示している。そう、これは抱拳礼のような改まった気持ちでやるポーズなのだ。それによって意識せずとも腹圧が高まって腕と胴体の連携、ひいては全身の連携がとれるようになることを狙っている。心を一つに集める、これは腹圧を高める上でとても大事だ。心を一つに集めてシャキッとしなければどんなに形をうまく真似ても内側のエネルギーは生まれない。一瞬にして心が体を一つに纏める。心身統一、ってそういうことなのかな?と今更ながら思ったりします。

 

 太極拳はもともと武術だから、本質的にはシャキッと鋭い感じがある。ただ、放松とゆっくり動く練習を強調するがあまり、心まで流れてしまって舞踏のようになってしまう危険性がある。あるいは、表演を意識するがあまり心が外向きに出てしまい、内側で体を取り纏めるのを忘れてしまったりする。

 心が内側から体を一つにまとめる、という感じは祈り(お願い事ではありません!)の時に感じられるのではないかしら? 抱拳礼の時は一瞬心は内側に入り体をそちらへ引き込むような感覚がある。(まさか抱拳礼の時にお願い事をする人はいないはず)この時、エネルギーは内側に戻り、丹田に気が溜まる(腹圧が高まる)。

 

 腹圧を高めるとか丹田を作る、ということを分析して練習する方法もあるけれど、本来はそんな風にできた時にその感覚を覚えて蓄積していく、それが王道。必要なのは、「そう、今がそうなっている!」と気づくこと、もしくは気づかせてくれる指導者なのかもしれない。

 

 

 

2022/6/7

 

  前回のとんがりコーンのポーズ。うまく感覚がとれない生徒さんには抱拳礼をやってもらった。

 ←カンフーでおなじみのこのポーズをとれば脇下に力が入るのが分かるはず。

脇下が広がる、という感じとも言える。

これが腕と胴体が繋がっている、という印。

 

 前回のウルトラマンのようなポーズでは、脇下がスカスカでまぬけな感じがする。肩甲骨が上がってしまっている。こうなると腕は胴体から分離し、足が地につく感じが失われる。

 

 丹田、という感覚から言えば、抱拳礼をすると瞬間的に気が丹田に集まる感じがするだろう。ウルトラマンのポーズでは丹田が作れない。肩甲骨が上がって気が上がってしまうからだ。沈肩は丹田形成には不可欠だと分かる。

 (注:抱拳礼で腹の丹田が形成されるのは太極拳や内家拳、外家拳系の人なら胸に気が集まる感じがするかもしれない。下丹田を腹、中丹田を胸、上丹田を眉間にとる流派は圧倒的に多い。いずれにしろ、礼や祈りは少なくとも上丹田と胸の丹田を作動させる。腕の付け根は胸だから、胸の丹田が起動すれば腕は胴体の一部となる。)

 

 腰の王子のとんがりコーンのポーズは「真剣な面持ちで」「意識を眉間に集める」ということにより、無意識的に丹田を形成し腕を胴体と一体化させることを狙っている。実際、抱拳礼で丹田に気が集まる感じがあるのは、”礼”という意識、上丹田への無意識的な集中が大きな役割を担っている。馮老師によれば、上丹田は上肢を操る要だ。が、上丹田の”意”を息気(エネルギー)として感じるには息が不可欠で、それは胸や腋のあたりに感じられるようになる。

 

 なお、とんがりコーンをしたあとに、「あ〜、スッと下ろして・・・」と続けば、確実に気は下丹田まで下りることになる。気沈丹田、の完成だ。

 

 腕と胴体の一体感は太極拳だけに必要なのではなく、日常生活においてとても大事だ。胴体を固めて腕だけで作業をしていると腕や手だけでなく固めた腰側にも支障が出てくる。腕と手を胴体とつなげて(肩甲骨や肋骨、胸とつなげて)正しく使う、という練習は日常生活で行える。それが癖になってしまえば、太極拳でも正しくできてしまう。套路の動きで腕と胴体の繋がりを会得するのは非常に難しいだろう・・・

 

 正しい腕の使い方のメルクマールは脇下の広がり、ハリだ。抱拳礼でその感覚を得られたら、とんがりコーンで試してみる。それでできたら、その脇下の張りを維持したまま、胸の前でボールを抱えるようなタントウ功に移動してみる。

   

 ↓脇下の張りを失って腕の力で腕をあげてしまっているのはどの画像か?

 結局、脇下の張りを失うことは丹田を失うことに等しい。

 

 通常の套路でいきなり調整するのは難しい。

←https://youtu.be/-ROY_4BCXv0

 

 中国のチャンピオンといっても、通常は内功や実戦を経ずに套路だけを練習しているので気や力の感覚が育たない。腕が胴体と分離していることに無自覚なまま。

 左のような形ではすぐに腕をとられてしまし、拳にも威力がない(打たれても痛くない)。

 腕が繋がっていないということは胴体の塊が下半身に乗っかってしまって下半身が重くなる。股関節や膝に負担がかかる。

このような選手は胴体に対して太ももが異常に太く硬くなる。故障につながる危険あり。腕を胴体と一体化させることを学ぶと中正がとれ四肢の連動も可能になる。故障の心配もなくなる。そういう意味でタントウ功などで繋がりを取得するのはとても大事だ。

 2022/6/3

 

   膝を痛めている生徒さん。体調もすぐれない。そこで座ってできる腰の王子の立腰体操を少し教えてみた。立腰体操は学べば学ぶほど深〜い知恵が詰まっているのが分かる。太極拳で学んでいるものを別のアプローチから教えてくれる。私にとっては目からウロコの宝庫だ。

 今日やってもらったポーズの中にまた発見があった。

 これまでも他の生徒さんたちと何度かやってみた「とんがりコーン」のポーズ。(https://youtu.be/6_niwIZwXfM    https://youtu.be/iY9jSL6NQSs

 これを「大腿骨はだいたいこのへん体操』の後に行う。(https://youtu.be/RYFOfcAYCok)

 

 子供ウケするポーズだというのは分かる気がする。ウルトラマンか何かで使いそうなポーズだ。

 

と、今日の生徒さんのこのポーズ、何度やっても「とんがっていない」。裾野が広がりすぎている。そういえば他の生徒さんたちも腕が広がっていて王子のポーズのような収束感がなかった。どうしてだろう? とよくよく見てみると、肘がない! 肘がない、というのは語弊がある。肘が分かっていない、意識できていない、というのが正しい。

  そんな腕ではその先の体操が100%活かされない・・・

 

 ウルトラマンに似たポーズがなかっただろうか? と探したらウルトラマンセブンにちょっと似ているのがあった。王子のポーズと比較してみると違いがはっきり。

 

 ウルトラマンの腕の上げ方は武術では有り得ないもの。スキだらけだ。もし推手でこのように肘を相手に持ち上げられたらもう逃げられない。一方、王子の肘を持ち上げてもすぐに躱されてしまう(化勁されてしまう)。スキのない姿勢だ。

 

 パッと見てそんな感じは分かるかもしれない。

 それを分析的に言えば、ウルトラマンは肘、上腕が使えていない=肩甲骨が使えていない=体幹が使えていない。肩甲骨が上がってしまって気が上がり、丹田に気が沈んでいない=足に根付いていない。

 一方王子は、肘、上腕が小手先(前腕プラス手)を支えている=肩甲骨・肋骨が支えになっている=腰・腹が支え=下半身が根付いている。つまり、足から手までが繋がっている。

 

 今日の生徒さんにこのとんがりコーンの正しい腕を教えたら、直ちにこれが腹やら内腿やら足裏、つまり全身に連動してしまった。「これはすごい!」と唸り声をあげたのには私もびっくり。「今日のレッスンはこのポーズを教わっただけでも十分かも」とまで言われて私の方がたじろいた・・・

 そう言われてやってみると確かにポーズが決まれば全身がつながる。いや、全身が繋がったから、キマった!と思うのか?

 生徒さんにしてみれば、これまでタントウ功をしても得られなかったものが思いもよらないポーズで得られたのがとても嬉しいようだった。実際、このとんがりコーンのポーズは上丹田に意識を集めて上腕、肩甲骨の連鎖から腹に気を沈ませて肚腰、下半身をどっしりさせる作用がある。

 

 レッスンの後で冒頭に引用したコマネチスリスリのyoutube動画を見たら、とんがりコーンの時の指の付け方、両手をおでこからどのくらい離すのかを具体的に細かく指示していました。その指示通りやればキマる、かな? 大事なのは腕を上げる時に王子をよく見てその真似をすることかな(表情も含めて)。お手本の動きを真似するだけでなく、その雰囲気、声色も真似するのが大事。雰囲気は気、声色は息、これを真似できると体も似たような動きをしやすくなります。

 

 とんがりコーン、では、「とんがりコーン」と素早く真剣モードで言って、サッと両手を眉間に集める。つまり、上丹田に急速に意識と手を集めることで勝手に肩甲骨やら腹(丹田)やらが作動する。ゆっくりたらたらやると腹に力は入らず肩も上がってしまう→上腕や肘も使えない。

 肩が下がらないと腹に力が出ない(沈肩→気沈丹田)と思っているけれども、意識を使うと、意識によって真っ先に気沈丹田が起こり、それによって肩も下がり、そこから連鎖反応が起こる、というのもあるのだという発見あり。

 

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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