2022年4月

2022/4/28 <肩の関節>

 

 生徒さんに教えることは私にとっての課題であるとがままある。

 今週は”腋”。

 腋を深くしないと腕が胴体(肩甲骨)と連動しない。

 腕をしっかり胴体と連結させる、というのは思った以上に難しい。ほとんどの人は”外して”使っている。腕をしっかり”はめこんで”使っているのは何かしらの訓練をしてきた人たちだ。普通の人はただぶらぶらと使っている。

 

 腕を胴体とくっつける(連動させる)ためのレッスンはこれまでにもやってきたが、最近は太極棒を使ったレッスンが多くなり、その中でまた別の視点が生まれた。それが”腋”。

 腋の深く深いところ、「極泉穴」を探ってそこから腕を使う。

 どんな風に腕を使ってもその腋奥深くを外さない。腋奥がはキュッと軽く切れ上がっている。腋の皮膚がだらんと下がってしまったら腕は外れてる。

 この腋の使い方は、体温計の”正しい”測り方の時と同じ(はず)。

https://dot.asahi.com/print_image/index.html?photo=2020111900050_1&image=1

 

 左の画像のように、「腋のくぼみの中央を”押し上げる”ように」挟む。

腋を閉じた後、手のひらを上に向けると腋が締まる。

この”締まった”腋の感じが腕が胴体としっかり密着している証拠。この”締まり”が消えると胴体から腕が離れてしまう。

 

もちろん、肘を伸ばしていくと腋の締まり感は減っていくが、それでも腋の奥に何かは残っていないといけない。それは腋の奥があたかも丹田に引っ張られているような感じ。どんなに腕を広げても腋は内側から丹田に引っ張られ続けている。これがひいては丹田と手の引っ張り合い、もしくは、開の中に合あり、ということになる。

 

 この腋の感覚は太極棒で周天の練習をする時に注意してやれば案外簡単に得られるようだ。

←左の馮老師の動きの中で腋の高さに入るところがポイント。

  

 腋を深くして腕と胴体を一体化させるその動きはちょうどバスケットボールのパスの時の身体の使い方に似ているようだ。

 

  バスケットボールは大きくて重いから、ちゃんと胸に引きつけて腋と胸を使ってボールを飛ばさなきゃならない。腕だけでパスするとコントロールが効かない・・・小学生時代の感覚は今でも健在!

馮老師の上の動きでは左の画像のような位置の時にバスケのパスのように腋奥が起動している。多少指が上向きになって脇が広がっている。

そして、馮老師の目と鼻、口に注目。

→息を胸に通しているのが分かる。

これが「含胸」だ。

つまり、バスケのパス、腕と胴体(肩甲骨)を密着させるにも、「含胸」が必要だということ。

「含胸」をするには、喉の天突穴から胸骨上のツボを引き入れる必要があるが、棒を使うと素手より数倍やりやすい。胸骨の可動域をつける練習にもなる。

 

 脇が落ちてしまうと腕が胴体から分離して、上半身と下半身がバラバラになる。

 

←https://youtu.be/AfTjn5_nqDM

陳項老師と生徒達。

 

下に屈んだ時の姿が老師と生徒達とは全く違う。 老師はどれだけ腕が下に下がっても胴体と腕をつないでいる=肩関節をフル活用している。

 

 

   上の3人は肩周辺の関節の使い方が異なるがためにしゃがみ方も異なっている。

 

  肩の関節は少なくとも4つある・・・

https://yogajournal.jp/photo/4494/33876

 

の画像に少し手を加えました。

 

まず絶対に押さえなければならないのが、①の第一肩関節(肩甲骨と上腕骨からなる関節)

←も少しシンプルな図

https://www.mcdavid.co.jp/sportmed_anatomy/shoulder/

 

図を見て気づいたはず。

そう、肩関節は腋からアプローチするのが正解!

体温計を突き刺す位置に肩関節が存在した!!

と図を見て感動したのでした。

 

だから、肩はまず”腋”。と思って正解。

ここを外すとその他の関節(②、③)も分からない。

ただ、胸にある、胸鎖関節(④)は、①を意識するための前提となるだろう・・・。①が分かるなら④は分かる。①が分からないなら④を確かめてみる必要がある。

 

 太極棒を使ったり、バスケットボールのパスで腋(第一肩関節)が意識しやすいのは、棒やボールが胸(華蓋穴あたり)に位置して含胸をするために胸鎖関節が作動しやすいからだろう・・・

 これら4つの関節を知ったら、上の陳項老師と二人の生徒の肩の使い方の違いがより明確に見えるようになりました。肩、ややこしいけど面白い!

 続きはまた。

 

2022/4/27 <腰の王子から太極拳を見直す>

 

   腰の王子の動きを見ていたら、師父が私に教えようとしていたもの、求めていたもの、がはっきりした。馮志強老師や劉師父の動きでははっきり分からないところを王子がパフォーマンス風に誇張して見せてくれる。股関節のウェーブと使ってポンやリューができるし、肩甲骨を支点にしてリューやツァイもできる。自分が使った箇所が相手の同じ箇所に作用する。不思議だけど本当にそうなっている。技をかけられた人も「え〜、なんで〜?」となる。それが”妙なり”と言われるところ。これがなければ太極拳ではないと師父に教えられてきたが、それは太極拳だけに限ったものではなくいわゆる”武術”に共通するものだったようだ。

 この”妙なり”というのがどういうことかと考えてみると、それは、力で負けたわけではないのに何故か倒されてしまう、そんな感覚だろう。力と力のぶつかり合いを避ける、という太極拳の原理はそこからくる。真っ向から力対力で戦うのはプロレスとかボクシングのようなものだが、これらは奇妙さはないのだ。強いものが勝つ、そんな世界だ。

 

 劉師父は腰の王子を天才だと言っていた。「もし彼が太極拳をやったなら、陳家溝とは全くことなる太極拳を作り上げるだろう。身体を痛めることを恐れず鍛えて強くなりたい者は陳家溝のような太極拳をするだろうが、健康になりたい人はこの人(王子)のような太極拳をするだろう。」それが劉師父の評価だ。

 師父によると、中国でも1980年代にはすでに太極拳は形骸化していた。内側よりも外側(形)、柔ではなく剛、気ではなく力(筋肉)、になっていたそうだ。当時でも本物の太極拳の師を見つけるのは困難になっていたという。それより前に太極拳がどのようなものであったのか、それを知る人は本当に少ない。それでも中国で生まれて育つと太極拳の”妙なる”側面を描く書や映像を見る機会も多い。太極拳の師父は一目置かれる存在だ。

 今では太極拳でも強い人が勝つ。試合を見ても大きな人が勝つ。”妙なる”技はほとんどない。格闘技の一種になっている。

 そんな格闘技のような太極拳がある一方で、大衆に広く普及した健康目的の太極拳がある。前者は健康と無関係で、後者は武とは無関係。本来の太極拳が持っていた二つの目的が分離して、戦うための武の太極拳と長生きのための太極拳に分かれてしまった。

 では、武と健康を併せ持った太極拳はどのようなものだったのか?

 それが馮老師や劉師父の路線の太極拳だ。力ではなく気を通す。身体の内側を開ける内功、静功をベースとするものだ。そして今回知った腰の王子もその路線。そのように関節を開けて柔らかく作った身体は健康的だしかつ技にも使える。

 

 「陳家溝の老師達も彼(王子)のような身体の動きは真似できないだろう。」と師父が一言。日本にも師父が感嘆するような人が存在していたのがなんだか誇らしい。

2022/4/26 <柔らかい体は静功が作る→柔らかい体を作るような静功が必要>

 

  腰の王子の動画、こういうのもある。

 

 とてもコミカルにやっているけど、これらは太極拳の力(勁力)の使い方。

 太極拳では体全部を連動させて力を出すこともできれば、一部分だけで使うこともできる。パーツパーツが独立して動くような体を作っているからこそできる技。

 「肩だけで済む時になぜ全身を使う必要があろうか?」と師父に教えられたのが2年前。要は肩甲骨だけで発勁しろ、ということだったのだが、当時、肩甲骨がそれほど自由に動かない私にはとても難しかった。上の腰の王子の動画を見ると、肩甲骨での発勁(化勁)、股関節(胯クワ)での発勁がどういうものかがはっきり分かる。

 

 師父に昨日の立甲四つ足や上の動画を見せたら、「中国にいる老師でもなかなかここまで上虚下実を極めている人はいない。非常好!」と絶賛。

 が、続けて師父が言った言葉は瞬時に理解ができないものだった。

 「彼は静功をよく練習してきたに違いない。そうでなければこんな柔らかい体は作れない。

 

 ん? なぜ静功があのチーター歩きや股関節ウェイブと関係あるのか?

 しかし、師父には言っていなかったが、王子は別の動画で、彼の”修行時代”に壁や岩、大木を全力で1時間から2時間推し続けていた、という話をしていた。これは最大筋力を上げるためのアイソメトリック的なトレーニングとしての例だったが、王子がその2時間の間やっていたことは、推す力に参加していない箇所を見つけてはそこを通すような練習(だから2時間かかった、と言っていた。)タントウ功や坐禅と本質的には同じだったのだ。

  つまり、”通す”(節節貫通)ことなしには柔らかい体は作れない。その”通す”には無駄に動かずに内側の気を通す練習が必要だということだ(体を動かすと筋肉や骨の動きを感じてしまって内側の気の流れが見え辛くなる。)

  師父は、”力が抜けて柔らかい体→静功をしているに違いない” と即答したが、逆に言えば、”静功をしている→力が抜けて柔らかい体” となるように、静功をする必要があるということだ。脚を固めて立ち続けても柔らかい体にはならない。タントウ功に様々な要領があるのは力が抜けて柔らかい体を作るため・・・。

  

 

  と、そのようなことは頭の中で理論的には分かっていたはずだが、王子の体がアイソメトリック的なトレーニング(筋肉を伸縮させずに一定の姿勢をキープして負荷をかけるトレーニング)を基礎にしていると知ると、タントウ功や坐禅の見方がまた新たになる。モチベーションも上がる。生きたお手本を見る、とワクワクする(このワクワクも体を柔らかくする大事な要領らしい)。柔らかい人を見ると自分の硬さが分かる。師父が私に常々注意していた点も、立甲につながる四つ足姿勢や王子の動画を見てやっと腑に落ちた感じ。頭で分かっていたレベルから、「ああ、マジでそうだったんだ」と頭を打たれて目覚めた感じになった時、やっと主体的な真のやる気が出るのかもしれない。

2022/4/25

 

  たまたま見つけてしまった「腰の王子」の動画。チーターと立甲、そして立甲のその先・・・

  劉師父に見せたら👍 と一言。 体が『柔』なのが太極拳、といつもいつも言っている師父が評価する体だ。

  

  武術の核心は「持たれたところ以外の関節を動かすこと」と腰の王子は別の動画で仰ってましたが、そう言われてみると、結局太極拳の練習は普通の人が動かせないような部分の関節まで動かせるようになるような練習になっていました。『周身一家』(全身丸ごとで一つになる)というのも、全身が一個の石のようになるのではなく、全身がバラバラに動いてかつ連動して一つになる、ということだということ。腰の王子を見ると進むべき方向性がはっきりした。

 

 ←https://www.youtube.com/watch?v=HNBRM1cuBbc

 

 

 そしてチーターとのコラボ。

 チーターが仲間だと感じているようです。

2022/4/23 <四つ足姿勢(四足脱力体)に関する質問から>

 

  四つ足姿勢の練習はやる度に発見があるのだけど、生徒さんたちからはこんな質問をもらった。

 

 ①Q:頭は上げておくのか、下げるのか? 

 高岡氏の本のお手本画像は頭が下がっている。赤ちゃんやヒョウは頭が上がっている。

 腹を垂らすようにするには頭を下げた方がやりやすいが・・・どうでしょう?

 

 A:高岡氏の本によると、四つ足になるメリットの1つは身体、特に背骨周りの筋肉を緩められること。立位では背骨を立てるために背骨とその裏側にある筋肉が硬直しやすく、背骨は常に上下から圧迫された状態(椎間板が潰される方向の圧迫がかかっている。)四つ足になると背骨周りの筋肉を緩められるから腹が垂れるようになる。

  私が試したところ、四つ足状態では頭を上げても下げても、背骨周りの筋肉を緩めて腹を垂らすことができる。ただ、呼吸が異なるようだ。頭を上げると吸気で、頭を下げると呼気で緩めることになる(試してみてください!)吸っても吐いても丹田を膨らませられるのと同じことのようだ。

 実際、丹田に気を溜めるにはまず腰を緩める、というのが鉄則だが、腰を緩める、というのは、背骨を緩める、ということと同義だろう。背骨周りの緊張を緩めないと丹田が形成できない。この道理が四つ足練習だとより分かりやすくなる。

 また、高岡氏の本にのっている四足体の男性の写真は頭が下がっているが、これはその写真が「立甲」の練習のものであるため。立甲(肩甲骨を立てる)するには頭は落とす必要がある。

 

 ②Q:四つ足の時はつま先を折って床につけておくべきですか?

 

 A : 私はこの点を注意していなかったが、指摘を受けて試したところ、つま先を追って床につけて四つ足になった方が股関節(お尻)が緩んで歩きやすい。膝で這うと股関節の伸びに欠ける。

 四つ足で緩めた腹を鼠蹊部に向かって引き込んでお尻が上にとんがるようにすると股関節が緩む。それから足指を使って歩いてみると、足指の力がお尻の底あたり(坐骨や座面=裆)に伝わるのがわかる。座面の伸び(恥骨から肛門に向けてストレッチさせる感覚=泛臀)があればあるほど足指との連動が明らかになると思う。(これも試してみて下さい!)

 

 ③Q:四つ足で沈肩が分かるというのはどういうことですか? 立位で斂臀して中丹田を作れば既に沈肩になっているのでは?

 

  A:確かに中丹田を作ろうとすれば沈肩しなければなりません。が、高岡氏の提唱する背骨や肩関節と股関節の緩んだ四足動物的な四つ足姿を練習すると、沈肩が通常の沈肩では足りないことに気づきます。そもそも、沈肩に限らず、墜肘、含胸、松腰、などの太極拳の要領は、単純に、できた、できない、という二者択一的なものではなく、全くできない状態から、すこ〜しできるようになり、気づいたら、案外できるようになっていたりする。つまり、”できる”と言ってもその程度はグラデーションがあって、なかなかマックスで”できる”ところには達さない。つまり、最初「沈肩」ができるようになったと思っていても、練習を重ねるうちに、あれ、昔よりもっと「沈肩」ができるようになった、とその程度が深まり、それまでの「沈肩」では足りなかったことに気づく。「放松」も同じです。

 

  自分では「放松」できていると思っても、自分よりもっと「放松」できている相手に出くわすと自分の「放松」がまだ足りなかったことに気づく。『谁松谁赢』(より放松した者が勝利する)という言葉があると師父が教えてくれたのを思い出しました。

2022/4/22 <中丹田VS下丹田→四つ足姿勢で解決へ>

 

  4/16のメモで「大発見!」と豪語して書きたかったこと、その本題に未だ入れないまま、随分前置きが長くなった。

 前置きが長すぎて私自身がうんざりしてきたくらい(苦笑)

 いい加減このあたりで結論を書いてしまわないと、毎日次々と現れる新しい発見のことを書けずに流れてしまう・・・

 

 これが日記なら簡単なメモで済むのだろうけど、ちゃんと読んで理解してくれようとしている生徒さんたちがいると思うとついつい書き過ぎてしまう。

 今日は一気に結論に向かうぞ〜!


 これまで説明してきたことをまとめると、

 

 ①お尻を”少し”入れると腹に力が出る=中丹田に気が集まる

 お尻を出すと腹が緩む=中丹田の気が逃げる

 

 ②尾骨を巻くくらいお尻を入れると股関節にロックがかかり動けなくなる=下丹田が潰れてしまう

 

 ③ ①と②の矛盾を解消して、腹も股関節も同時に使えるようにする=中丹田と下丹田ともに気を蓄える、のが非常に大事。

 (教えていて気づくことは、中丹田に気を溜めるのが得意な人は下丹田に気を下ろすのが苦手:腹を緩められない/ 気を下ろして低姿勢になることが上手な人は腹が緩みがち(中丹田が弱く、上半身と下半身が連動しない)。 人はどちらかのタイプに分かれる傾向あり。)

 

 ④中丹田だけに気を溜めるのであればお尻をいれて腹をタイトにすればよさそうだが、これでは身体が緊張して動けない。しかし、順序としてはまずは中丹田。腹と股関節を多少タイトにして腹に気を集め、十分に集まったら徐々に緩めていく→緩めると気が下(丹田)の方に落ちていく→中丹田の気が抜けないように核心部分の気を保持しながら外周の方から徐々に緩めていくのが大事

 

 ⑤ ↑の④が通常のタントウ功の仕方。が、これはなかなか独習が難しい。

 

 ⑥ と、ここで、中丹田と下丹田をつなぐような練習方法があることに気づいた。

  それが、高岡英夫氏が提唱していた「四足姿勢」の練習。

   ↓高岡氏著『上丹田・中丹田・下丹田』より

 

 ポイントは、肩甲骨から腕、手を一直線に、股関節から膝までを一直線にして、腹を垂らすようにすること。

 右の画像のような普通の”四つん這い”とは異なることに注意。

 

 四つん這いは背中が緊張していて、このまま歩いてもテーブルが歩いているようになる(老人の歩き方)。これに対し、上の男性のように肩甲骨と股関節(お尻)が出て腹が垂れている四つ足で歩くと、動物のような(背骨のうねった)歩き方になる。赤ちゃんのハイハイの時の姿勢も同じ類だ。

 

 

 このような腹が十分緩んだ四つ足の練習・・・昔はこれがそんなに意味のある練習だとは思っていなかったが、今回やってみてびっくり。ここには沈肩の要領が隠れていて、それができないと腹が緩まない、ということに気づいた。

 これを自分の生徒さんたちにやらせてみたら、この姿勢をとるだけでもキツイ!というのが感想。ましてやこれで前進しようとすると・・・

 

 そして、この姿勢を作ることで、「ズルズルっと垂れる」という感覚が得られるのが貴重だと高岡氏は書いている。この「ズルズルっと垂れる」というのが「放松」だし、最近の流行りの言葉で言えば、「筋膜が剥がれる」感覚だ。

 上の④で、「中丹田の気が抜けないように核心部分の気を保持しながら外周の方から徐々に緩めていく」と私が書いたものも、言い換えれば「(中丹田の)外側からズルズルっと垂らしていく」ということだ。その「垂れ」感は立位よりも四つ足の方が断然得やすい。(高岡氏が言うように、四つ足体の方が力を抜きやすい。二足で立ったとたん身体が緊張するのはある程度仕方のないこと。)

 

 

 この腹の垂れた四つ足姿勢を立位にすれば中丹田も下丹田も使える身体になりそうだ。(ハイハイの後立ち上がった赤ちゃん、幼児の姿勢がまっすぐなのと同じ?)

 

 注意するのは四つ足姿勢では肘を突っ張っているが、もし肘を曲げたなら脇がしまって肘が体側に沿うようになる。腕立て伏せ、というより、胸たて伏せ、という姿勢だ。 

 

  おそらく、「沈肩」が完璧にできると「立甲」になるのだと思います。今回のパリでの二年間の練習の大きな課題はそこでした。肩甲骨が剥がれないと真の意味での「沈肩」にはならない、が、そこに到達するまでに、少しずつ、できる範囲で「沈肩」をしていかなければならない。

 ←劉師父の立甲

 ちゃんとした武術家ならできておかしくないと言っていました。

これができれば肩こり、首こりとは無縁(師父は肩は凝らない、らしい)。強いパンチができるようになるより、首こり肩こりと無縁になりたい私・・・

 

 そして、高岡氏の四つ足姿勢はその「立甲」を念頭においたもの。背中を緩め腹を垂らし、肩関節、股関節を緩めるところから初めて、最終的には立甲を可能にさせていく・・・

これは、体幹トレーニングなどでもよく見る四つ足姿勢。

ちょうど四つ足の机のようになっている。

 

四本の手足はしっかり胴体に接着していて一個の机のようにひとかたまりになっている。動きのセンター(中心)は一個。

 

これに対し、高岡氏の想定している四つ足”脱力”姿勢は左のようなもの。

④本の手足がそれぞれ別々に動く。

加えて、胴体も独立して動く。センターは5つ。

 

 これが動物の動きに近い・・・

と、検索したら、これに近いロボットの画像があった。ザ・チーター型ロボット!https://wired.jp/article/this-cheetah-robot-taught-itself-how-to-sprint-in-a-weird-way/

 上のチーター型ロボットには胴体の軸がなさそうですが・・・

   下が本物のチーターの歩き方。立甲して肩甲骨と前足、股関節と後ろ足がそれぞれ突っ張ったようにして使われているのが見えます。https://www.youtube.com/watch?v=N62OiZXWsOU

 胴体がしっかり緩んでいるからしなやか〜

 腹の膨らみが鼠蹊部に向かって切り上がっていく(押し込まれていく)・・・それが下丹田=股関節を緩める秘訣・・・というのが今回の最大の発見なのでした。

 この姿勢を作るにはかなり”前のめり”になる必要あり。続きはまた書きます。

 肘を曲げた状態から腕を伸ばすと、ジーになる。が、その時の動作は、腕ではなく胸や肩甲骨の力で行うことになる。

 立甲に向かう道へとつながる”垂らす”練習。

 家の中でチーターやトラをイメージして四つ足で垂らす姿勢をとる。私はそのまま拭き掃除をしたり、犬猫の相手をしていました。脇と鼠蹊部が開いて緩み、肩甲骨やお尻がズルズルっと剥がれる感覚がある。その後立つと気が腹底に落ちているのが分かります。家の中の練習にはもってこいです。

2022/4/20 <骨盤模型で仙骨の上部と下部の違いを確かめる 中丹田と下丹田の違い>

 

 これまでのメモで言いたかったのは、「お尻を入れる」とか「仙骨を締める」という表現は誤解を生みやすいということだった。”感覚的”には「お尻を入れ」たり、「仙骨を締め」たりする感じだとしても、それを鵜呑みにして尾骨まで巻き込んでしまうと骨盤が後傾し、お尻はぎゅっと中央に寄って足が動かなくなる。これはやりすぎだ。

 実際には、「お尻を入れる」とか「仙骨を締める」という表現で示しているものは、腰椎と仙骨の上半分を後弯させる動き。それより下の部分を”入れ込む”と股関節にロックがかかってしまうので注意が必要だ。

 

  このあたりは誤解が多く、しかも理解が難しい部分。

  解剖学的に検証してみよう!(と自分に言っている)

 

背骨を見る時は背中側の棘突起を見るのではなく、腹側の方から竹のような節になったものを見るべし! 

(背骨で立とうとして背中で立ってはいけない。背骨の前側で立て!=丹田で立て、と言われる所以)

 

 で、そう見て見ると、仙骨が最も背中側に飛び出ているピークは仙骨の2番目から3番目の穴のあたり。

 ここが後弯から前弯への転換点。

 念のため、後ろから見てみても、やはりそうなっている。(左の画像はhttps://youtu.be/mL8eCHbLFCU より)

 

 自分の仙骨を触ってみると一番出っ張っているのはやはり仙骨の真ん中らへん。

そしてその部分を手持ちの骸骨人形で検証・・・

 

およ?

これまで意識したことがなかったが、仙腸関節(仙骨と腸骨のつなぎ目)は仙骨の上半分だけ。下半分はフリー。

 

そして注目したのは股関節(寛骨臼)の位置。

その高さはおよそ仙骨の半分の位置にある・・・

左のような筋肉のついた模型で見ても同じ。

 

股関節は埋もれて見えないが、その位置はおおよそ赤の横線を引いた高さ。

 

赤線より上は胴体部、股関節ラインの赤線より下は下肢部だ。

 

左の図を見ながら、「もしお尻を入れたら」「もし仙骨を締めたら」どうなるか?とイメージしてみると・・・

 

赤線より下の部分が前滑りするように動くだろう。それは股関節にロックがかかる動きだ。

 

 それはきっとこんな立ち方?

 https://shogokoba.com/blog/archives/1428

 

 (股関節を回転させずにただ)骨盤を後傾させると、腹がギュッと締まり、鼠蹊部がタイトになる。股関節にロックがかかるから、脚が動かず、ある意味しっかりしたような感じがある。(お尻はしょぼくなる)

 

 

 左の写真は、骨盤後傾の問題点を指摘したものだが、タントウ功の一コマに見えなくもない。

 もしこれがタントウ功だとしたらどこが問題なのか?考えてみるのも面白い。

 

 大きな問題点は、左のような立ち方だと足が動かないこと。武術で忌み嫌う”居つく”という立ち方だ。およそどのようなスポーツでも”動けなくなるような立ち方”はしない。動いてこその運動・・・(弓道は?と聞かれるとどうなんだろう? 動かないからと言って骨盤を後傾させるとは思えない・・・骨盤後傾させると上半身の開きが狭まるから。)

 

 前から見ると上のようになる。

 内丹術では、中丹田と下丹田を上の図のように区別している。

 中丹田は胴体、下丹田は下肢だ。その境目は股関節ラインにある。ツボで言えばへそのツボ(神缺穴)が中丹田の中心、関元穴が下丹田の中心だ。

 

 以前、NHKの『古武術から学ぶ身体の使い方を学ぶ』で教えていた「正しい立ち方」は初心者にわかりやすいように、骨盤を後傾させて下半身を締める立ち方を教えていたが、実は単純に骨盤を後傾させてはいけないような言葉遣いもしていた。(下はテキストの一部https://www.nhk-book.co.jp/detail/000062288282022.html

 テレビ番組の放映では、「骨盤を後傾させて脚をしっかりさせる」ように教えていた(お尻が入って鼠蹊部が多少ロックされる感じ)。が、テキストでは、言葉遣いが微妙になっている。

 ”正しい骨盤の後傾” ・・・ただ骨盤を後傾させたのでは正しくないということ

 つまり”仙骨を下方向に引っ張りながら少し内側に入れる”・・・下方向の引っ張り、そして”少し”入れる。仙骨のストレッチが必要。そしてほんの少し入れる。

 ”ゆるやかに後傾”・・・この”ゆるやかに”にはは、”仙骨の下半分、尾骨を入れ込まないように”という意味が含まれているのだろう

 

  それでも、上の写真での模範の立ち方は太極拳的に見ると、前クワ(鼠蹊部)の緩みが少ない。この先生の四股踏みや壁に向かってしゃがんでいく姿を見た時に股関節の開きが不十分だと感じたのはこの立ち方のせい(骨盤後傾気味で股関節が潰れてしまっている)かと思った。師の甲野先生の立ち方を見てみたかった(和装ではなくトレパン、できるなら短パン姿、いや水着姿で見せてほしい・・・苦笑)

 

  ただ、骨盤後傾気味に腰椎と仙骨の上部を内側に入れると腹に力が出ます。タントウ功の最初の段階はこれで中丹田に気を溜める。股関節はちょっと締まったままでも構わない。最初から股関節をガバッと開いて立つと気が抜けてしまって腹に気が溜まらない。

  今日はそんな話をオンラインの内功のクラスでしていました。その話はまた後日書きます。今日はここまで。

  

2022/4/16 <仙骨を締めるのか? 背骨を引き伸ばす要領>

 

   オンラインの個人レッスンをしていてまた発見!

 それは一連の発見だったので、今日はそのプロローグ部分だけのメモ。

 

 その生徒さんはなかなかハムストリングスが使えず前腿に乗っかってしまうという(太極拳をする人にありがちな)課題があった。その大きな原因となるのが、臀部、後ろの股関節が使えていないことだ。

 

ハムストリングスを主導で使っているか否かはお尻の形を見れば大体わかる。お尻は丸くて持ち上がっている。

 が、私たち日本人の多くは骨盤が後傾してお尻が平べったく下がっている。そのためブレーキ筋の前腿が発達してアクセル筋のハムストリングスが使い辛くなっている。

 

 こういう現実を前提にすると、太極拳で「お尻を入れなさい」と注意をされたのを鵜呑みにすると本来の身体の使い方ではない間違った練習を推し進めることになる危険性がある。昨日の生徒さんにまずはっきりと理解してほしかったのは、いわゆる”仙骨を締める”(斂臀)だけでは身体が固まって自由に動けなくなるということだった。

 

 「お尻を出さずに入れなさい!」というのはバレエの基本レッスンでも注意されることだ。ここで「お尻を入れなさい」というのは「出っ尻で腰を反ってはいけない」ということで、背骨を上下に引き伸ばして身体の軸を通すための要領の一つだ。。

 

 背骨を引き伸ばす(脊椎の間隔を開ける)と背骨のS字カーブはなだらかになる。

 私が持っている吉田始史著『仙骨姿勢講座』には右のような図がある。

 

 この図で示されているように、太極拳の時に必要とされるのは右端の点線の矢印で示されているようなS字カーブがなだらかになった引き伸ばされた背骨。(それはなぜ? と改めて問うべき?)

 

 なお、前提として背骨にちゃんと背骨のカーブがあること。平腰の人がそれ以上腰をまっすぐにしようと仙骨を締めると骨盤の後傾がひどくなる。(まずはS字を取り戻すような練習が必要?)

 

v 上の本では「仙骨を締める」と「仙骨を返す」という言葉を使って対比させている。

 

 そして「仙骨を締める」ことを”うんこ我慢の姿勢”として推奨している・・・

 が、左図のような背骨の生理的弯曲をよ〜く見ると・・・(https://tk-reha.hatenablog.com/entry/spine-physiological-curve

 

 頚椎と腰椎は前弯

 胸椎と仙骨は港湾

 

 これを踏まえて太極拳の立つ姿勢の要領では、

 

 百会を天に向けた状態から、

①舌を上顎に付けて下顎を内収

→頚椎の前弯を解消してなだらかにする

 

 ② ①で頚椎をまっすぐに立てようとするとそれに連動して胸椎が前に滑ったようになる(前弯気味になる:上図のサイトにあるスウェイバック姿勢のような感じになる)。そこで次に含胸をして胸椎が前弯しないようにする。

 

 ③ 腰椎の前弯は命门を開くことで解消する(=塌腰)。中丹田の気が必要。

 

 ④  腰椎の前弯を解消すると尾骨の後弯はきつくなる(尻尾を股に巻き込んだようになる)。そこで尾骨を上げる方向の力を使う=园裆:骨盤底筋のハンモックをストレッチして広げる

 园裆には会陰を引き上げて骨盤底筋まで気を落とす必要がある(下丹田をしっかりつくる)。(結果的に恥骨と坐骨の引っ張り合い(骨盤底筋の前後のストレッチ)、左右の内胯のストレッチが起こる)

  これによって下肢が十分に使えるようになる。

 

  <右写真>背骨が貫通して真っ直ぐ。アジの開きのようになったイチロー。

 腰は真っ直ぐ。お尻は左右に割れてハムストリングスがしっかり使えている。

 

上の仙骨を締めることを推奨していた本では「尾てい骨を股の中に押し込むようにする」と書いてあったが、それでは運動はできない(負け犬の体勢、もしくは、犬が進みなくないときの姿勢)。

会陰を上げると尻尾(尾骨)は上がる方向に作用するが、それを上げすぎないようにすることで足に向かう下向きの力が生まれる(ジャンプする時は尻尾を一気に上げる)。

 

解剖学的には左図のように見るのが正確だろう。仙骨の骨はもともと5つの骨から成り立っている。その上半分は腰椎と合わさって前弯、下半分は尾骨とともに後弯。

  だから、仙骨の上半分は「命門を開ける」という要領(上の③)に包含され、仙骨の下半分は园裆(上の④)に包含されるのだろう。

  ③はいうなれば”締める”感じ=斂臀、④は”返す”感じ=泛臀。

 

  が、言葉で表現すると誤解を生みやすい。師父が「斂臀でもないし泛臀でもない」という一方で「斂臀でもあるし泛臀でもある」と言ったのはそういうことだろう。

  そのことを言葉でどう表現したとしても理想とする状態はみな同じだ。

太極拳の基本の要領(上の4つの要領)は全て身体の前面側からのものだ。

背中側から操作するものはない→斂臀や泛臀という要領は核心的な要領ではない。

それは太極拳では”気”を操作することによってその状態を作り上げようとするからだ。

気は身体の空間、スペースに在る。

空間をつなげることで身体を一つにする。

背骨が引き伸ばされるのはその”結果”だ。

(これが冒頭の「なぜ背骨を引き伸ばす必要があるのか?」という問いに対する一つの答えかな? 自問自答しています・・・)

 

今日はここまで。

2022/4/11 <骨盤のアーチから园裆のイメージを掴む>

 

  园裆は骨盤のアーチ構造を考えると納得しやすい。

  上半身の重さををどう股関節に分散させて足まで伝へと流すか=上から下向きへの流れ。

  足に流せて初めて足が地面を踏んで得られる反発力を上半身に伝えることができる=下から上むきへの流れ。

https://www.1up-chiro.com/2020/06/01/1011/

 

 

詳しくは上のサイトの説明を参照。

(左の図には下向きの矢印を私が付け加えました。)

 

 

 

←もっと精密な骨盤アーチの説明は

https://ameblo.jp/eni4/entry-12690903680.html

 

 

ここでは深入りせず、


最初のサイトに載っていた、こんなアーチのイメージを頭に刻み込もう・・・

 

 

このアーチをよ〜く覚えておいてから

下の馮老師の動きを見てみると・・・


  骨盤・股部分にアーチに見えないだろうか?

  なんて弾力性のある力強いアーチ・・・

  これが理想的な园裆。 

      お尻がオムツをしている子供のように見えたりする。

  腰の柔らかさ、股関節の柔らかさが骨盤のアーチを起動させている。股(裆)がしっかり体を支えてるから体が落ちない。

  

 

←翻花舞袖(180度回転して打つ技)。

馮老師はこの体勢からジャンプし始める。

 

まだ右足に体重が乗り切ってないのでは?と思うが・・・

脚力だけに頼らず、裆・骨盤のアーチの力をうまく使っている。

 

←https://youtu.be/pTdEDLCKCJQ

 

太極拳というより外家拳的な動きに見えるのは胴体の内気ではなく脚力に頼っているから。

馮老師に比べ着地も硬い(腰が硬く膝や股関節に衝撃がかかる)。 


 二人の跳び始めの体勢をみると違いが分かる。

 脚に頼って跳ぶか、全身のバランスで跳ぶか。

 

 脚に頼るとその力を使うために身体を落とさなければならない。中正も失われやすい。

 骨盤や裆の力が使えると不必要に身体を落とす必要がなくなる→実践では優位。

2022/4/10 <骨盤を立てる:骨盤の胴体部と下肢部に分けて考える>

 

   日本では敛臀VS泛臀の話をあまり聞かないが、中国ではよく論じられる話のようだ。結局は、これを論じても意味がなく、体得して初めて知る、ということらしいが・・・

 では一体、”何を”体得するのか?と言えば、それまたはっきりと書かれてないが、現代風に言えば、骨盤を立てる、仙骨を伸ばして立てる、ということに他ならないだろう。それができた時に、ではその時自分のお尻はどうなっているのか?と見てみれば、中に入れているようであり(斂臀)かつ後ろに張り出ている(泛臀)と思えるかもしれないし、そのどっちでもないと思えるかもしれない。

 

 私が思うに、目指すのは、敛臀でも泛臀でもなく、骨盤を立てること=仙骨を立てること。仙骨をストレッチして立てようとすると、腰から繋がる上部は内側に入れ、尾骨に近い下部は外に引き出すようになる。

 

 ①骨盤(仙骨)を立てるにはその前提として腰椎が下向きに引き伸ばされていることが必要(塌腰)。塌腰のためには、その前提として含胸をして胸椎を引き伸ばしておく必要がある(抜背)。

 これら、<含胸・抜背・塌腰>で骨盤の上部までが伸ばされる。(この時におこる感覚が斂臀)

 骨盤の上部までは胴体部。胴体部の引き伸ばしの要領は⤵️そうなる。

 

 ②そして股関節のある骨盤下部は下肢部。

 骨盤下部を引き伸ばす要領は胴体部とは少し違う。上から下への要領ではなく、下から上へ(⤴︎)の要領となる。

 すなわち、<曲膝・园裆・松胯>で骨盤の下部(仙骨下部、尾骨、坐骨)がストレッチされる。この現れが泛臀になる。

 

 そして、順番としては①を行ってから②を行うことになる。(②をしてから①をしても骨盤は立たない。仙骨が縮まってしまうはず。)

 

 ということで、②は①を前提にしているため難易度が高い。

 曲膝、松胯は注意してやる人が多いけれども、なかなか分からないのが”园裆”では?

 そして园裆こそが骨盤下部、骨盤底筋、恥骨坐骨部の要領で、これが泛臀を作ることになる。

 

 ↑私の生徒さんがいろいろな中国の老師の写真を用意してくれたので、これらを師父に見せて、どの人が”园裆”か尋ねてみました。

  どの人がそうか分かりますか?

 

2022/4/8 <敛臀と泛臀の臀の位置の違い 塌腰は敛臀を含み、 园裆は泛臀を含む>

 

 骨盤を立てる、ということは、仙骨を立てる(ストレッチする)ということだが、これは太極拳の要領の中ではどう扱われているのか? というのが当初の疑問だった。

 骨盤の前傾、後傾というのはよく聞かれる言葉だが、これを太極拳の言葉で言えば、前傾=泛臀、後傾=敛臀ということになる。

 骨盤が立つ、というのは前傾でもなく後傾でもない状態。同様に、太極拳では泛臀でもなく敛臀でもないのが最も理想的な状態、というのが師父の回答だった。

 

 が、面白いのは、この、「泛臀でもなく敛臀でもない」というのは、「泛臀でもあり敛臀でもある」というのと変わらないということ。

 一度その感覚を知れば、どちらの表現を使うかはその人次第で、たとえ私が「泛臀でもなく敛臀でもない」思っていても相手が「泛臀でもあり敛臀でもある」と言えば、確かにその通りだ、と、自分と相手が同じ感覚を共有していることが分かるのだ。そういうことは師父と私、私と生徒さんの間でしばしば起こることで、外の人たちが聞いたら変な会話だと思うだろう。言葉が違っても言ってることは同じだ、とはっきり分かる感覚はとても面白い。内側の感覚を表す言葉は多彩だ。

 

このあたりの話を整理するなら、左のような図を考えるとよいだろう。

 

そもそも太極拳のタントウ功の要領の中には泛臀も敛臀も含まれていない。

胴体の要領は

<含胸→抜背→塌腰>

この3つだ。

ざっくり見ると、含胸は胸椎上部、抜背中は胸椎下部、そして塌腰は腰椎と仙骨上部の要領だといえそうだ。

つまり、敛臀は塌腰に含まれていると考えることができる。

 

また、下半身の要領は

<曲膝→园裆→松胯> だ。

膝を曲げることで、内腿を引き伸ばし园裆を作る。(园裆は内腿のストレッチの結果であることに注意)。そうすると会陰がさらに引き上がりお尻が持ち上がるような感覚になる(お尻の皮膚がストレッチされる感じ?)これが泛臀だ。恥骨、骨盤底筋、坐骨をつなぐラインのストレッチ、これが园裆で、泛臀は园裆に含まれるとも言える。

 

 上の図で見るように、泛臀と敛臀と言っても、二者ではその”臀”の位置が違っている。

 骨盤上部は腰の延長で内側に入れる感覚、骨盤の下部は後方にお尻が引き出される感覚だ。

文章で書くと難しくなるが、タントウ功や坐禅で丹田を回す練習をして得られる感覚を使うと分かりやすいだろう。結局、順回転と逆回転の合体で、上の図のような力が働くようになる。(左の図参照)

 

丹田を回す練習が太極拳の核心につながるということがここにも現れている。

丹田回しは太極図を表現したもの。それなしには太極拳は成り立たない。

立円、竪円、平円で四正勁が現れ、4つの斜円で四隅勁が現れる。掤、履、挤、按、采、挒、肘、靠、の八法もそこから生じる。

丹田回しが万能だということに気づくようになるまでにはそこそこ練習時間がかかるが、それが分かり出せば太極拳の門に入ったということ。外側の要領が丹田の動きで説明できるようになる。

  師父が「我々は筋肉の話はしない。気や経絡で話す。」というのはそういうことだと今は分かる。


2022/4/4 <陳家溝の”泛臀”>

 

   ”泛臀”の”泛”(fan)は「くつがえす、ひっくり返す」と言う意味で、同じ発音の”翻”(fan)とほぼ同義だ。

 

     ”泛臀”、すなわち、お尻がひっくり返る、という表現で表しているのは、お尻の終わりの部分が垂れずに引き上がっている様。(左の図参照)

 要は、垂れ尻ではなくて、お尻と太ももの境目がはっきりしている桃のようなお尻だ。

 

 日本にも生徒さんの多い陳家溝の陳正雷老師のHPには、泛臀について陈鑫の《太极拳图说》における記述を引用して下のように説明している。

http://www.zltjsy.com/tjwh/tjql/1660.html

 

 

陈氏太极拳对臀部的要求是要“泛”。陈鑫在《太极拳图说》中,曾多次提出臀部要“泛起”,要“翻起”。他说:“屁股泛不起来,不惟前裆合不住,即上体亦皆扣合不住。”在塌腰、合腹、开胯、圆裆的配合下,臀部向后微泛,有利中气贯于脊中,有利于腰劲、裆劲、腿劲的运用。泛臀绝不是撅屁股,不是突臀。泛臀是塌腰、合腹、圆裆、开胯、合膝的必然结果。“前裆合住,后臀自然翻起”。有的太极学派提出了“敛臀”,就是臀部微向里收的要求。敛臀固然可以防止撅屁股的毛病,但是,如果只注意臀部向里收敛,则前裆大开,后裆夹住,裆劲不能开圆,这会影响身体转动的灵活性。

 

 <上の文章の要点>

 ①”泛臀”は塌腰、合腹、开胯、园裆、合膝の自然な結果として、臀部が後ろにわずかに翻ること。

 ②それによって、中気が脊髄を貫いたり、腰勁や裆勁、腿勁をもたらす作用が得られる。

 泛臀はお尻を持ち上げる(出っ尻にする)ものではない。塌腰、合腹、开胯、园裆、合膝の自然な結果である。前の裆が合することにより後ろのお尻は自然に翻る。

 ④ある太極拳学派は”斂臀”ということを言う。それはお尻をわずかに内側に入れる、というものだ。”斂臀”には出っ尻を防ぐ効果はある。しかしただお尻を内側に収斂することだけを注意するならば、前の裆が大きく開いて後ろの裆が狭まり裆勁が円く開かない。そうなると身体の運きの素早さが失われるだろう。

 

  

    上の文章で示されているのは、<斂臀・泛臀>と<前挡・后裆>の関係。

 私にとってはまた新たな視点だ。

 

上の説明では、

泛臀は前挡を合にすることで自然に后裆が開いたものだ、とする。これによって体の運動性が高まる。

 

しかし、もし斂臀を意識的に行うと、前裆が開いて后裆が狭まってしまいがち。お尻がすぼまってしまうとハムストリングスが使えなくなり運動性に支障がでる。

 

陈鑫(陳家溝)の斂臀のイメージはきっとこんな感じ。

 

実際、こんなお尻で太極拳をしているような流派も多い。

挡に力がないから下半身が重く身体にバネがない。運動選手としてはあり得ない体・・・太極拳が養生法になったところから誤差が出てきたのだろう。

お年寄りはこのようにせざるを得ないにしても、これで大会に出るなど根をつめると膝や股関節を痛める原因になる。

2022/4/2 <蹲墙功の検討 塌腰/敛臀➕泛臀=骨盤が立つ>

 

 蹲墙功をきちんとやるとその途中に骨盤が立つ=仙骨が立つ=仙骨が引き伸ばされる、瞬間が分かる。腰に効く〜!そんな感覚だ。腰痛予防、だるい腰に効く。

 それはタントウ功でまず探る場所。

 よく観察すれば、腰、仙骨が引き伸ばされる時、その前側には丹田が作られているのが分かる。腹に力がないと腰が伸びない。

 腰を松する=松腰とはゆるゆるの腰、だけれども、それは前側に丹田があるからだ。

 腹も腰も緩いと体は”松”ではなく”松懈“(力がなく腑抜けの状態)になってしまう。

 腹が緩く腰が硬いと腰痛になる。

 理想は腹腔が気で満ちていて腰が柔らかい状態だ。腹筋を固めても必ずしも腰は柔らかくならない。

 

 そのあたりの感覚は蹲墙功で理解できるかもしれない。

 

↑子供の蹲墙功。(http://doc.xuehai.net/b8485198bd56e4307435b3185.html)

 しゃがみ始めは腰が丸くなり(塌腰 敛臀)、そのあとお尻が引っ張り出される(泛臀)。

 塌腰が腰椎だけでなく仙骨の上部まで含むのなら、敛臀は塌腰の一部になる。

 その後の泛臀(お尻がひっくり返る?)はお尻の下部=仙骨下部の動きだ。

 この二つの動きが重なると、仙骨が引き伸ばされ骨盤が立った感覚が得られる。

 それより下にしゃがむと尾骨が内側に入ったように伸ばされる。

←これも同じだ。(https://m.sohu.com/a/432495182_668077)

塌腰/敛臀➕泛臀=骨盤が立つ

 

下はそれを説明したもの。

 骨盤を立てるということは中丹田と下丹田を連結させ腹腔全体を丹田にする、ということに等しい。

  塌腰/敛臀では中丹田を作れるが下丹田は作れない。

  それに泛臀を加えることで下丹田が形成され足裏がしっかり地面に貼りつく(踵と股関節がダイレクトに連動する)。

  体が落ちてしまう人は塌腰/敛臀もしくは泛臀ができていない可能性が高い。

  

←https://youtu.be/np4idCIA1xM

 

この人の場合はつま先が壁にくっついていないために蹲墙功の正確さが欠けている。

丹田が作れないために骨盤が立つ瞬間がない。

が、腰が固くてしゃがめない人はまずこのように練習して可動域を増やすことが先決。つま先が壁につくようになると骨盤が立つ感覚が得られる。

 なお、太極拳だと両足は幾分広めに開いて、膝を横に出すようにして降りるように練習した方がよいかと思う(前回のメモで紹介した古武術の林先生のような動きです。今日の蹲墙功の検討の後で改めて林先生の動きを見ると、塌腰/敛臀をせずに腰を沿ってしゃがんでいるのが分かります。中丹田を作っていない。だからかなぁ、キツそうなのは。日本の武道では塌腰を嫌うようなイメージあり。日本の武道の丹田はヘソ下と決めてしまっているからかもしれない)。

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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